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第100話 兄妹 THE LAST MASTER その10

「お兄ちゃん凄い!今度は首を切り落としちゃうなんて!」


そんな声がして、すかさず妹が俺を振り返る。キラキラとした瞳で俺を見つめるその眼差しが最高に気持ちいい。


まさか、こうして妹の目の前で『千年求敗』の必殺技を披露出来るなんて俺は思ってもみなかった。しかも邪神と言うボスキャラ相手に――


その瞳の輝きはまるで、まだ幼い妹に修行をつけていたあの懐かしい日々に戻ったみたいで――あの山深いオルマル村で妹と共に過ごした思い出の数々が、俺の頭の中を駆け巡って行った。


まぁ、あの時の俺はこの眼差しを失うのが怖くてたまらなかったわけなのだが――。


……?。


おっと、危ない危ない。今は、そんな感傷的な思い出に浸っている暇はなかったぜ。


「おいレイラ。俺の必殺技に感心するのはいいけどさ。忘れてるぞ」


「あっ。そうだったごめんなさい。邪神の中からドーマさんを探すんだったね」


「そうだ。早くしないとまた再生しちまう」


そして展開される妹の『絶対分析』。初見であの魔力結界まで打ち破ったレイラだ。何か少しぐらいは手がかりを見つけてくれるはずだ。


と、そんな淡い期待を俺は持っていたのだが、いくら待てどもレイラは、再生を始めた邪神の頭を凝視したままピクリとも動かない。


そして、負けず嫌いの妹らしく悔しそうな表情を浮かべて妹が言う。


「やっぱり駄目みたい……」


もしやと安易に考えた作戦だったが、俺も一度やそこらでそう上手く行くとは思っていない。一度目が駄目なら二度目をやるだけだ。


既に邪神は、禍々しくも醜悪な頭の再生を再び完了して、あの憎たらしい顔をこの俺へと向けている。


「完全に俺を狙っていやがるな」


俺は邪神と目が合うと、思わずそうつぶやいた。そりゃあ……いとも簡単に二度も頭を潰されたんだ、当然俺のことを敵視するだろう。


「レイラ!もう一回首を落とすぞ!」


俺は気を取り直して再びレイラに檄を飛ばす。


どうせ長丁場なのだ。一度や二度の失敗で気を落とす必要はない。


しかし……


残念ながら三度目はそう上手く事は運ばなかった。


明らかに俺だけを狙って攻撃を仕掛けてくる邪神に、俺はその攻撃をかわすので精一杯。一方で妹が邪神の隙を突いて攻撃を繰り出しているのだが、どうしても決定打に欠ける。レイラの一撃では頭を落とすほどのダメージを与える事が出来ないのだ。


やはり『気』の力を纏わない物理攻撃は邪神には効かないのだろうか。


ドーマを助けられなければ、百回以上も邪神の首を落とさなければいけないと言うのに、既に三回目でこの体たらくである。


せめてレイラが『気』を使いこなすことが出来たら状況も違っただろうが、『気』の修行はまず心を落ち着けることから始まるのだ。この切羽詰った状況でレイラに『気』の使い方を一から教えることなど不可能に近い。


そんな中で、俺はふとエデンの事を思い出した。


エデンなら、まだまだ未熟ではあるが『気』の力を使うことができる。あいつなら一瞬ぐらい邪神の気をそらすことが出来るかも知れない……。


「おいエデン。お前、指弾は使えたか?」


俺は、少し離れた場所で待機していたエデンに声をかけた。先ほどの酸欠状態の中で一番重症だったのがこのエデンである。エイドリアンの卓越した治癒魔法によって九死に一生を得たエデンは、まだ戦闘に復帰できるほどの体力は回復してはいない。


「見て分からない?指弾どころかまだ立ってるのがやっとなんだって。それに俺の実力じゃあ師匠達の間に入ったって足手まといになるだけだよ」


「分かってるよそんな事。でもなぁ、エイドリアンが言うには、この魔力の塊から全部の魔力を引っ剥がすのに100回以上頭を落とさなきゃならないんだよ。だから手元にある札は全部知っておきたいんだ。最後の一手って時に、お前が役に立つ場面が来るかも知れない。」


「わかった。じゃあ、威力は師匠よりも数段落ちるけど……一応撃てる様にはなった。多分……目潰しくらいには」


エデンが、少し遠慮がちに答えたのはまぁ仕方が無い。俺と妹の闘いっぷりを見て、こいつなりに格の違いを感じたのだろう。


だが、このエデンという弟子は嫌な所でよく頭が回る。


俺と話をしているこの時。エデンはこの八方塞がりの局面を打開する――思いもよらない方法を思いつくのだ。


「でもさ。あの邪神が魔力の塊だってんなら、あの技が効くんじゃない?」


それは突然の提案だった。


「あの技ってなんだよ。俺は今出来る技は全部使ってるぜ」


俺だってすっとぼけているわけじゃ無い。この時の俺は本気でその技のことを忘れていた。

だって――エイドリアンの魔法を見るまで、俺は魔法や魔力ってものを完全に馬鹿にしていたんだから。


「おい。忘れちゃったのかよ。ほら、ここに来る前――俺達が神殿の地下牢に閉じ込められていた時の……」


その言葉に、エイドリアンがすかさず反応した。


「神殿の地下牢ですって!? 貴方達は何をしたんですか? いったいどんな事をすればあんな場所に入れられるんです?」


彼女はむっちゃ驚いてるようだけど……。


「そんなの知るかよ。俺が、東方から戻ってきた途端に入れられてたんだよ!」


「知るかよじゃ無いです。あそこは聖教に楯突いた大罪人が……」


って言うか、エイドリアンの話はなんだか長くなりそうなので、取り敢えず無視することにして……。


ここで大事なのは、地下牢の地面に彫られていた修行法――


俺はその時、あの技をただ、あの薄暗い湿った場所を脱出する為だけの技だと思っていた。


でも今、思い返してみると……あれは違った。


あれは、地下牢に入れられた誰かが、ただ脱出のためだけに考え出した技じゃない。


それはこの局面でこそ使うべき、まさにうってつけの技だったのだ。


その湿った地面にはこう書かれていた――


天罡吸魔法てんこうきゅうまほう


読んで字の如く、魔力を吸収する大技なのである。


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