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思い出さなければよかったのに  作者: 田沢みん
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7、初体験の思い出 (1)

 どこ経由で伝わったのかは知らないけれど、彩乃が成瀬先輩をフって幼馴染の俺を選んだという噂は、あっという間に学校中に広まっていた。


 男どもから嫌味の一つでも言われるかと覚悟していたが、クラスメイトや同級生からは、『あの成瀬先輩に勝った男』だと勇者扱いされ、背中や肩をバシバシ叩きながら手痛い祝福を受けた。


『まあ、今までが付き合ってたようなもんだったしな』

『カレカノを通り越して既に夫婦みたいだもんな』

 なんて言ってくるやつもいたけれど、まさしくそのとおり。


 元々べったりくっついていた俺達は、告白してからも特に何かが変わるでもなく。

 相変わらず一緒に登下校して、相変わらず彩乃が俺にちょっかいをかけるという、今までどおりの付き合いを続けていた。


 俺達の交際は、両家の親も公認だ。

 両想いになったあの日、二人で二階の部屋から下りていくと、母親が「彩乃ちゃんもうちで晩御飯を食べていくでしょ?」と聞いてきた。


 ちょうどいいタイミングだったから、俺の両親と彩乃と、彩乃の弟の晴人(はると)と五人でカツ丼を頬張ってるときに、「俺たち付き合うことにしたから」と堂々と宣言したのだ。



 彩乃の父親は、俺達が小五のときに病気で亡くなっている。

 彩乃の母親の明美(あけみ)さんが看護師なので、彼女が夜勤だったり土日の出勤で家にいないとき、彩乃は二歳年下の晴人を連れてうちにくる。

 そして俺達と一緒に食事をして、そのまま泊まっていくというのがお約束になっていた。


 彩乃がお年頃になった中二あたりからは徐々に泊まらなくなったけれど、夕飯は今も変わらず食べにくるし、晴人のほうだけはたまに俺の部屋に泊まっていったりもする。


 そんなわけで、うちの親は俺達の交際宣言に一瞬驚いたものの、やはりという感じだったらしい。


 すぐに笑顔になって、

「おっ、雄大がやっと(おとこ)を見せたか。彩乃ちゃん、コイツをよろしく頼むよ」

「彩乃ちゃん、本当にこんなのでいいの? 雄大と別れても、うちには遊びにきてちょうだいね」


 なんて、面白がっているのか祝福しているのかよくわからない言葉であっさり受け入れられたのだった。



 後日、俺と彩乃が学校から帰ってきたら、俺達の母親が家の前で立ち話をしているところに出くわした。


「あの子達が夫婦喧嘩をして、彩乃ちゃんが〝実家に帰らせていただきます!〟って言ってもさ、実家ってすぐお隣でしょ? 意味ないわよね〜」


 なんて母さんが言って、明美さんと二人でケラケラ笑いあっている。


 夫婦喧嘩なんて冗談じゃねえよ! って思ったけれど、母親たちが楽しそうにしてたから、俺も彩乃と顔を見合わせて笑った。


 もしも将来、彩乃と夫婦喧嘩をしたら、速攻で迎えに行って土下座して、とっとと連れ帰ろう……と心に誓った。



 * * *



 高校二年生になっても俺達は相変わらずで、俺は自分の部活がない日でも部室にきて、カメラをいじったり宿題をしながら彩乃を待つのを日課にしていた。


 そしてそれをほかの部員達から冷やかされるのも既にお約束のやりとりだ。


「先輩たちってラブラブですよね。羨ましいなぁ〜」


 一年生の女子部員二人組が話しかけてくる。


「待っててやらないと彩乃があとでギャーギャーうるさいし、親にチクられて夕飯抜きにされちゃうんだよ」


 そう口では迷惑そうにしながらも、俺はこの時間が嫌いではなかった。

 ……というか、誰に頼まれなくたって、俺はきっと彩乃を待っていたに違いない。


 白いカーテンのフワリと揺れるその席で、時々手を休めて外を眺めては、可愛い恋人のダンス姿を盗み見る。


 彩乃がチラリと二階の窓を見上げると、その視線の先には俺がいて。目が合うと、アイツは(まぶ)しそうに、そして心底嬉しそうに目を細めるんだ。


 俺にとってこの至福の時間がとても大切で、ずっとこのままでいられたらいいのに……なんて考えていた。


 だけど同時に、もっと先に進みたいとも思っていて……。


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