第三章〜初来店
宜しく御願い申し上げます。
真臣はレジ前に立ち、硝子は店のエントランス前をほうきで掃いて軒先の砂を払っていた。
来店客に備えるのだ。なにしろ今から入ってくるのが、この店の移転後の初めての客となるのだ。
真臣も硝子も否が応にも緊張していた。
そわそわと心が落ち着かないのだ。
神様になろうとしている者としては相応しくない行動なのかもしれないが。
神様は神様らしく、もっと堂々とどっしりと構えているべきなのかもしれないのだが。
と、遥か下の方から大きな声が響いてきた。
「やあ!いるか店員?こちらからはそちらの様子はわからんのだけどね。もう開店時間は過ぎたようなんだから、聞いている筈だ。だろ?そろそろ客は入ったかね?まだなら嬉しいんだが。俺様が入店一番乗りになりたいものだからね。だからこそ今日は早起きして備えていたのだからな。どうだ?こんな熱心な客、他にはおらんだろう?俺というお客様に感謝しろよ。一番乗りで行ってやろうとしてんだからな。しかし、それにしても、よくも、まぁ、そのような不便な場所にコンビニなんぞを造ったものだな。登頂に挑戦しようという俺様にとでてはまぉ、挑戦しがいのある面白い立地ではあるがよ」
男の声はしかし、まだ遥か下の方からしているのの違いなかった。
まだお客様は神様だという精神を引き摺ったままなような物言いに、真臣は気に入らない、と心底思わざるを得なかった。
━━いや。残念ながら、神様なのはこちら側だよ。来られるものなら来てみなよ。
そんな言葉は表には出さなかったのであるが。
見れば、硝子も唇を混んで険しい表情を浮かべていた。何か言いたげだ。真臣は、硝子の肩をぽんと叩いた。
「硝子クン。さぁ、移転後の初の仕事だ。気合を入れていくよ」
御読みになって頂きまして、誠に有り難う御座いました。