プロローグ
宜しく御願い申し上げます。
五条 真臣は、バック・ヤードにある畳にして数畳分程の広さのスタッフ・ルームに逃げ込むように引っ込んでなら、ふう、と深い溜息をついた。
スチール製のありふれたデザインのオフィス机に寮肘をつきながら。
そして、呟く。
『今日も何事もなく一日を終わらせて下さいまして、誠にありがとう御座いました』
両の掌を合わせるようにしながら。
神に対する感謝を示す祈りのつもりだ。
それが、一日の勤務が終わった後の毎日のルーティンだ。それ以上のことをする気力も、それ以下で留めるようとする無気力さも持ち合わせていないから、毎日そうしていた。
しかし、何事も悪いことがなく一日が終わったためしは、ただの一度もないのが事実なのであった。
つい、今さっきもも店を訪れた客からの理不尽なクレームを受けたばかりであった。
真臣がレジに立って職務に就いていたその時である。
先程、弁当をひとつ買っていったと記憶している客が再び店内に舞い戻ってきたのである。客は大声でまくし立て始めた。
『おい。パスタ買ったのにフォークじゃなくて箸が入ってたぞ!どういうことだ、スパゲティを゙箸で食え、ってか?お客様は神様だぞ!神様に向かってなんてことをしてくれたのだ!?謝れ!』
客は散々真臣を罵倒した挙げ句に、謝罪する真臣の頬に拳を力いっぱい打ちつけて帰っていった。
真臣の頬には赤い痣が残ったが、彼はそれを誰にも訴えることは出来なかった。
真臣は、ただのコンビニ経営者であり、ただの店員だったから。
昨日はこんなだった。
『おい!ありがとうございました言う時の頭の下げ方の角度が小さ過ぎるぞ、お客様は神様だろ?神様に対する敬意がそれじゃ表せないんだよ!お辞儀の角度は90度だ。とぼえておけよ』
真臣は、言われながら胸ぐらをがし、と掴(つか、)まれて、力の限り殴られて吹き飛んだ。
それでも真臣はなんの反発も出来なかった。
ただのコンビニ経営者であり、コンビニ店員だったから。
弁当に毛髪が混入していたが為に後頭部を蹴られて意識を失ったこともあった。それは、弁当を製造した工場の責任であるハズなのに。
それなのに、真臣は、ただのコンビニ経営者であり、コンビニ店員であったからひたすら耐えるしかなかったのだ。
━━━━━━━━━━━━━ある日。真臣はとうとう思い至ってしまったのである。
俺はコンビニ経営者だ。そして、ただのコンビニ店員だ!だが、そのコンビニ経営者であり、コンビニ店員であるこの俺が逆転して神になってやる!
と。
━━俺の方が客を選んでやるよ!世界一不便なところにこのコンビニを、移転してやる。この他に店など何も無い田舎街のコンビニだ。、それでも客はここに来なければなるまい。来られるのなら来てみやがれ。、
俺は神様になるのだ!
と。
真臣はこのコンビニのオーナーでもあったから、フランチャイズ加入店舗加入要件である規約によっても、店舗移転権利は認められているようなのであった。
有難う御座いました。