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誠に勝手ながら、しばらくの間休ませていただきます
夜明写真館 店主
という張り紙が窓に貼られている。
数日後、美夜は久しぶりに写真館に来ていた。
数週間ぶりに扉が開かれる。
祖父が言っていた、過去に戻る方法が書かれたノートを探しに来たのである。
それにしても熱が籠っていたのか蒸し暑い。
帳簿など置かれているのだがごちゃごちゃしているその棚からお目当てノートを見つける。
ノートには、『写真館の秘密』と書かれている。
ノートを開くと、祖父から教わったことよりも事細かなことが書かれていた。
他にもあるかと探してみると『夜明写真館の物語』というタイトルのノートが出てきた。
ページを開くと、祖父の特徴的な字が並んでいる。
◯◯◯◯年△月■日。五十代男性。
今日は、亡くなった奥さまに会われるためにお越しくださった。奥さまとの出来事を沢山話してくださった。戻ってこられた際には、晴れやかな顔をされていた。
〇〇〇〇年■月△日。三十代女性。
今日は、亡くなった妹さんに会うためにお越しくださった。妹さんに対する思いを話してくださった。戻ってこられた際には、沢山の涙を流されていた。少しでもこの事で気持ちが軽くなることを願っている。
他にも沢山の人達の物語が書かれてあった。
そのノートには、後悔の気持ちや喜びの気持ちが書かれていた。
その光景が目に浮かんでくるように感じる。
美夜は、場所を移動し、椅子に座り真剣に読み始める。
時間が刻々と過ぎていく。
読んでいるといつのかに日が沈み暗闇が辺りを飲み込んでいた。
「もうこんな時間」
時計を見ると七時を針が指していた。
夏の時期ということもあるのだが家に帰ることにした。
美夜はそのノートたちを持つと写真館を後にした。
◇◆◇
数ヶ月後。
初雪が降った夜、祖父は亡くなった。
その日は、朝から天気が悪く、美夜は気分が沈んでいた。
ちょうど休みの日であったため、家のソファでくつろいでいる美夜。
キッチンで料理している母。
「お母さん、天気悪いね」
「そうね。雪でも降るのかしら」
美夜は、窓から外の景色を眺める。
その日は、どこにも出掛けず一日家で過ごした。
夕食と風呂を済ませ、自分の部屋に戻るとベッドに座りあのノートを見る。
少しすると眠気が襲ってきたので、電気を消すとベッドに横になった。
いつの間にか眠りについていた。
しばらくすると、部屋の外が騒がしいのに気がつく。
ベッドの横にある時計を見ると、それほど時間が経っていないと思っていたのだか随分時間が経っていた。
部屋の扉がノックされる。
「美夜、お祖父ちゃんの容態が…」
母が祖父の容態が危ないことを知らせにきてくれた。
美夜は、電気をつけると急いでベッドから起き上がると、近くの椅子にかかっていた上着を羽織、一階に下りるとすでに父が車の準備をしており急いで車に乗り込む。
病院に向かう間も祖父の容態がこれ以上悪化しないかその事ばかりを美夜は祈っていた。
病院に着くと、急いで車から下りる。
病院に入ると、夜の時間帯ということもあり人がおらず静まり返っていた。
母と早足で病室に向かう。
ようやく病室に着き、扉を開けると、後ろから父が、少し遅れて病室にやって来た。
祖父が眠っているベッドの近くには、医者と看護師がいた。
「お話しよろしいですか?」
「はい」
両親は、医者と共に部屋を出て行く。
美夜は、一人、祖父の眠るベッドの横に近寄る。
祖父が眠っているベッドの近くには、モニターがあり、祖父は酸素マスクをしているが息も弱くなっており、何とか息をしているという様子であった。
美夜は、祖父の手を握りしめる。
涙が溢れるの何とか耐えている。
部屋の扉が開かれる、どうやら医者と話が終わったのか両親が戻ってきた。
家族皆で、祖父のそばにいた。
美夜と母がベッドの横に椅子を持ってきて、父が壁に寄りかかっている。
美夜と母は祖父に声をかけ続ける。
すると祖父が目を開ける、声にならない声を出して、優しく微笑んでいる。
「お祖父ちゃん」
ピィーーーー
その数時間後、祖父は息を引き取った。
廊下にあるソファで美夜が泣いている。
目から涙が後から後から溢れて涙が止まらない。
泣いている美夜の近くに母が座ってくると優しく美夜を抱き締めてくれている。
壁に寄りかかっている父も静かに泣いているのが分かった。
そんな父の姿を始めてみたように感じる。
しばらくすると、落ち着いてきたので、飲み物を買いに自動販売機までやってきた。
ボタンを押し水を選び受け取り口から取ると、ふと自動販売機の近くの窓から外を見ると雪が降っていた。
祖父のことで頭が一杯で気がつかなかった。
◇◆◇
病院から帰ってきて、ベッドに横になるのだかなかなか眠れなかった。
外は、もう明るくなり始めていた。
それでも目を閉じると、いつの間にか眠りについていた。
「お祖父ちゃん、お祖父ちゃん、行かないで……」
「はあ、はあ」
美夜は、飛び起きると、目から涙が溢れており、額には汗をかいている。
夢を見た、撮影する部屋で一緒に祖父といるのだがいつの間にか祖父が居なくなっており、必死に探し回るという夢である。
その後のお通や葬式は、滞りなく行われた。
棺桶に入った祖父の顔は柔らかな表情をしていた。
その日の空はいつもより美しく見えた。
お通やが終わり写真館に家族で戻ったのだが、悲しみに堪えきれず一人外に出てくる。
べンチに座ると遠くの海がよく見えて、何だか虚しさが襲ってくる。
沢山の人たちが訪問して祖父がどれだけ愛されていたのかがよくわかった。
遠くから足音が聞こえてくる。
隣に舞が座ってくれる。
何をするでもなく、ただ隣で私が泣くのを見守ってくれている。
それが私にとって居心地がよく、よい親友に出会えたと改めて感じる瞬間でもあった。
しかしその後しばらくは、落ち込み泣いてばかりの日々を過ごすことになった。