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祖父が亡くなる前、病室でのことである。
いつの間にか美夜も高校生になっていた。
母が祖父の洗濯物を持ち帰るといい、一旦家に帰ると言い出した、いつもなら帰るが、夏休みということもありその日は病室に残ることにした。
祖父と他愛のない話をしていたのだが、祖父が突然黙り落ち着いた声でまた話し出した。
「美夜、美夜は写真館が好きか?」
「うん、好きだよ。いきなりどうしたの?」
「お祖父ちゃんの命はもう長くない」
「そんなこと言わないでよ」
美夜は悲しい気持ちになってしまう。
「でも聞いてほしいだよ」
祖父は優しく微笑むと美夜の頭を撫でてくれる。
「だからね死ぬ前に美夜に写真館の秘密を教えておこうと思ってね」
「秘密?」
「そう秘密」
すると、祖父は、写真館についてのことを話し始めた。
「あの写真館はね、過去に戻ることができるだよ」
「どういうこと?過去に戻れるって…」
「それは…」
祖父はある日、自分が体験した不思議な出来事を話し始めた。
それは、ある日昼下がりのことだったという。
大判カメラの調子が悪く、新しいカメラを探していたところいたが、なかなか良い大判カメラに出会えずにいたところ、骨董品店を見つけた祖父は安く売るから買ってくれと中年の男性店主に声を掛けられ、試しに触ってみるとその大判カメラはよく出来ており、祖父はその大判カメラを買うことにしたという。
満月が上ったある日の夜、亡くなった戦友のことを思い出していた祖父は、彼と最後に言葉を交わした日付を写真の裏側に書いたそうなのである。
ふと思いだし、祖父は、彼との約束を守るため新しく買ってきた大判カメラで彼の写真とともに写真を撮ることにした。
大判カメラを設置したあと、試しに椅子に座りポーズを決めていると、ちょうど時計の針が零時を指し、鐘の音が鳴った。
カーンカーンカーン
なにもしていないのに突然シャッターが切られる、とても眩しい光に思わず目を閉じる。
目を開くとそこは青年時代によく通っていた道だったそうである。
後ろから男性の声が聞こえる。
振り返るとそこには今は亡き、彼の姿がそこにあった。
祖父は、戸惑ったが、あの頃と何一つ変わらない彼の姿や笑いかたに今はただ他愛のない話をして語り合うそれだけでに集中したという。
それだけで数十年間抱えていてモヤモヤした気持ちが晴れるような気持ちになったという。
夕暮れ時になったので、彼の家から帰った祖父は、自室を空けようと戸を開くと眩しい光に包まれた。
目を開けるとそこは、先までいた写真館だったという。
窓からまだ明るくなったばかりの薄明かりが部屋に広がっていたという。
その日を境に何度試したが、もう戻ることは出来なかったそうだ。
それならばなぜ、過去の世界に戻ることが出来たのか調べ始めたそうだ。
そして、たどり着いた方法。
●満月の日
●戻ることが出来る時間は零時から夜明までの間
●会いたい人が写っている写真と共に写真を撮ること
●過去にいっても未来を変えることはできない
主にこのようなことを発見した。
詳しいことは、ノートに書いてあるのだという。
「じゃあ、そのカメラを使うと過去にタイムリープすることが出来るということなの?」
「そういうことになるね」
その後もその事について沢山の質問を祖父に尋ねたが、祖父は一生懸命に答えてくれた。
その話が終わると、他愛のない話もしりして過ごした。
そんな話しているうちに外の景色が薄暗くなり、面会時間の終わる近づいてきた。
祖父に帰ることを伝える。
「バイバイ、お祖父ちゃん。また来るね」
「またおいで、気を付けて帰るんだよ」
「うん」
そして、祖父に手を振りながら病室を後にした。