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遡ること数十時間前のことである。


玄関を出て駅に向かうと、電車に乗る老婦。


席に着くと、車内を見渡す、混雑する時間を避けたため人があまりいない。


しばらくすると窓から外の景色を眺めると、天気もよく、雲一つ無い青い空が広がっている。


電車に揺られているといつの間にか目的地である駅をアナウンスする声が聞こえる。


老婦は、電車が止まると席を立ち電車から降りる。


少し急な階段を降りていく。


途中で青年に声をかけられる。


「大丈夫ですか。鞄お持ちしましょうか?」


顔を見た瞬間、あの人に似ていると感じ驚いて数秒の間があいてしまう。


その青年は不思議そうな表情をしてこちらを見ている。


急いでに答える。


「いいのかい?」


「もちろんです」


その後、最寄りのバス停まで鞄を持ってくれた。


「ありがとね。助かったよ」


「いいえ、気をつけてくださいね」


「よかったらどうぞ。こんなものしかないけれど」


老婦は、鞄からお菓子を取り出すとその青年に渡す。


青年は嬉しそうにそのお菓子を受け取ってくれる。


「僕、このお菓子大好きなんですよ。ありがとうございます」


その青年と別れると、ちょうどバスがやってくる。


遠くで先ほど青年が手を振っている。


バスに乗り込むと席に着くとバスが動き出す。


目的の場所に着くまでバスに揺られていく。


ここに来るのは始めてだがとても素敵な場所だと老婦は感じた。


しばらくすると、バスが停車する。


どうやら目的の場所に着いたようである。


老婦は、バスから降りると目的地であるホテルに到着する。


フロントで鍵をもらい、エレベーターに乗ると部屋がある三階のボタンを押す、エレベーターから降り、部屋を探す。


「302。ここだわ」


部屋に着くと鞄を下ろし、ベッドに座り休憩する。


しばらく一人で出掛けていなかったのでとても疲れてしまった。


今日は、このホテルで一泊してから写真館がある場所に向かうことにした。


しばらく休むと、部屋を出て夕食を買い出しに向かう。


近くにあった、コンビニエンスストアに入ることにした。


たまには、こういうのもいいかもしれと思う。


普段は、スーパーばかり行くので見るもの全てが新鮮である。


どれにしようかと迷ってしまう。


どれも美味しそうなのであれが、焼き魚の弁当が目に止まり、それを手に取る。


飲み物のお茶も買い、レジに向かい買い物を済ませる。


ホテルに戻ると、その弁当を食べる。


「美味しい」


今のコンビニの弁当は進化しているようで美味しかった。


弁当を食べ終わると、備え付けられている風呂に入り、ベッドに横になると疲れていたようですぐに眠りについた。


◆◇◆


そして現在。


老婦は、写真館の住所が書かれたメモを握りしめ、急な坂を歩いていた。


風が吹き、木々が葉っぱを揺らす音が聞こえる。


写真館の方向を見てみるもどうやらまだ写真館は閉まっているようで明かりがついていない。


長い坂を上り疲れた老婦は、写真館の近くの小さな喫茶店に立ち寄る。


店内は、レトロの雰囲気が漂う店内になっていた。


老婦は、窓側のテーブル席に座ると、店主が注文を聞きにやって来た。


紅茶を注文すると、外の景色を眺め始める。


遠く方に、海が見え貨物船が動いているのが見える。


店主が、紅茶を持って来る。


「お待たせしました、紅茶です」


「ありがとう」


老婦は、礼を言うと、紅茶を一口飲んだ。


少しすると、鞄から一枚の古い写真を取り出す。


目を閉じると、あの日々のことが蘇ってくる。


ちょうどあの頃は、日本が暗く沈んでいる時代であった。


時々、届く戦地からの手紙。


元気で過ごしているのか、こちらは厳しい状態であるがなんとか過ごしていることなどが書かれていた。


数ヶ月後のある日の朝、郵便受けに手紙が届いていた。


手紙を開くと、一人残して戦地へいってしまった後悔と、出会えたことへの感謝、そして幸せを願う内容の手紙だった。


その手紙を最後に手紙はもう届くことはなかった。


そんなある晴れた日、訃報を知らせる手紙が家に届いた。


最初は、受け止められなかった。


でも、きっとどこかで生きていると信じていた。


その数日後、1945年8月15日、終戦を伝える放送が流れた。


数ヶ月がたった頃、彼の亡骸が戻ってきた。


「嘘、嘘よ…そんなわけない」


老婦は、崩れ落ちながら彼が家に運ばれていくのをみている。


布団に寝かされている彼を見る。


あんなに正気があった顔も痩せ細り、傷だらけになっており、見ていられなかった。


曇り空の天気のなか、細やか《ささ》ではあるが葬式が終わり、彼から貰った20通の手紙を読み返していた。


記憶が薄れていく。


少し眠っていたようで、外を見るともうすっかり暗くなっており、喫茶店も閉店の時間が迫っていたので出ることにした。


外は少し肌寒く、寂しげに風が吹く。


あれから数十年の月日が経った、様々な困難を乗り越えてきた。 


彼の死の後、一人になった私は、お見合い結婚をし、孫にも恵まれた。


子供が自立し、夫に先立たれ、ひとりで過ごすうちにもう一度あなたに会いたくなった。


約束の時間まであと数時間。








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