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「おはよう」
美夜は、棚の上に置かれている写真立ての中にある祖父の写真に向かって朝の挨拶をする。
朝食の準備を始める、棚に置かれているパンを取り出すとトースターで焼いている間に冷蔵庫から牛乳を取り出しコップに注いでいく、トースターの終わりの音が聞こえると焼けたパンを取り出すと皿に載せる。
テーブルに出来たものを持っていくとリモコンでテレビを付けて朝のニュースを見ながら朝食を食べはじめる。
朝はあまり食欲がないのでこれくらいで美夜には十分なのである。
CMに入ると、実際に起こった不思議な出来事を特集した番組が今日の夜に放送されるようであった。
「不思議なことね……」
美夜は思った、ならばこの写真館で起きる出来事も不思議なことの一つなのではないかと思った。
食べ終わるとテレビを消し、食器を持ち立ち上げてキッチンに向かうとシンクに食器を置くと食器を片付け始める。
それが終わると、一階に下りてスタジオの掃除をする。
それを終えると、外に出て入り口近くの道を掃除する。
これが美夜の朝のこの写真館に来てからのルーティンである。
ふと美夜は、写真館の建物を見上げる。
美夜はお祖父ちゃん、今日も頑張るからね、といつものように祖父に伝えるのであった。
◆◇◆
これはまだ祖父が生きていたときの出来事。
大好きな祖父が営んでいるこの写真館は、工事や補修などを繰り返して、今もなお写真館として活躍している。
昔に比べて写真館に訪れてまで撮る人は減ったがそれでも町の人に支えられて細々と続けることが出来ている。
共働きの両親に変わっていつも面倒を見てくれていた優しい祖父、そのため私にとってこの写真館は思い出の詰まった大切な写真館なのである。
祖父は、早くに病気で祖母を亡くしてから元気がなかったのだか私が生まれて、少しずつ元気になっていたと母が言っていた。
私の名前である美夜は祖父が付けてくれた名前なのである。
由来は、生まれた時間がちょうど夜明頃の時間帯でその空の景色が美しかったからという理由でこの名前をつけてくれたのだという。
小学校に上がった頃、実家の近くにあるこの写真館に来るようになった。
理由はという保育園を卒業して、母が仕事に復帰することになり一人で家にいさせることを母が心配であったためである。
一階は撮影スタジオ、二階は祖父の住居スペースになっているのである。
建物が古いため昔懐かしい物が沢山置かれたこの場所は私にとっての遊び場でもあった。
小さいながらに写真でしか見たことがない祖母にとても興味があった。
「お祖父ちゃん、お祖母ちゃんってどんな人だったの?」
すると祖父は微笑ましい表情を浮かべ答えくれた。
「お祖母ちゃんかい?とても笑顔な素敵な人で、料理をすることが好きで、特に煮物が作るのが上手でね」
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんはどうして出会ったの?」
「じいちゃんとばあちゃんは同学年同士でね。じいちゃんからばあちゃんのことを好きになってね、ばあちゃんはじいちゃんにとって高嶺の花だった。当時はお見合い結婚する人が多かったけど、じいちゃんとばあちゃんは珍しく恋愛結婚だったんだよ」
祖母のことを話して笑っている祖父の横顔を見ながら写真でしか見たことのない祖母が生きている姿を見てみたと感じるようになっていった。
中学生になって始めての夏休みがやって来た。
蝉の鳴き声が響き渡る。
強い日差しを浴びながら、写真館に向けて歩く。
「お祖父ちゃん、来たよ─!」
「おー、美夜来たか、暑かっただろ」
「お祖父ちゃんこそ、暑くない?熱中症にならないように水分ちゃんと取ってね」
「わかっているよ、美夜に言われてからしっかりと取っているから」
なぜ今日ここに来たかというと花火大会があるからである。
最初は、友達と行こうとしていたのだけれど、都合が合わずお祖父ちゃんと見ることにしたのである。
それにここは、高台だから遠くからでも花火をよくみることが出来る。
暇潰しにスタジオに入る、小さい頃からお祖父ちゃんの仕事を見てきている。
木製の大判カメラが置かれている。
「お祖父ちゃん、これどうやるんだっけ」
「これは、ここを押して、こうすると出来る」
「ここをこう、出来た」
今では簡単に写真が撮れるが、こういうレトロな雰囲気があるカメラも好きなのである。
花火大会の時間まであと数時間。
とても楽しみでしかたがない。