16
訪問者が帰り、1人静かに母親の隣に座る。
後悔ばかりが押し寄せる。
もっと早く帰っていれば、連絡していれば、今になって思っても遅いのだと分かっている。
明日は葬式だ。
本当に最後のお別れになってしまう。
後ろから親父の声がする。
俺は立ち上がり、リビングに向かう。
夕食を食べ、ソファに座っていると親父が言う。
「明日も早いしそろそろ風呂に入って寝た方がいい、疲れただろ」
「おう、そうする」
立ち上がり、リビングから出ようとドアノブに触れたとき、親父が言った。
「部屋あの頃のままだから、そこで寝るといい」
「おう、ありがとう、親父」
風呂を出て髪を乾かし終えると、昔使っていた自室へ向かう、扉を開くとあの頃のまま残っていた。
ゆっくりと足を踏み入れる。
懐かしいものが沢山机に並んでおり、思わず手に取る。
「懐かしーよく読んでたな」
そのあとも色々な物を漁っては中を読んだりした。
時計の針が音をたてながら時間を刻んでいく。
一息つく、静寂に包まれる。
しばらくすると、突然襲った来た虚しさに耐えきれず、机に本を置き電気を消すとベッドに横になり、目を閉じた。
「智之帰ってきたの、おかえりなさい」
「おう、母さんごめんなさい」
「何のことを言ってるの?そんなことはいいから早く座って御飯食べなさい」
目の前に母親が座る、なにか話しているようだがどんどん記憶が薄れていく。
「は、夢か」
眠りから覚めた、まだ夢の続きをみたい。
もう、話すことができない母にあえる唯一の手段だから
「智之、起きたか?」
親父の声が1階から聞こえてくる。
時刻は朝の7時。
始まるのは8時からである。
「起きてるよ。今行く」
そういうと俺は1階に下りていった。
リビングに着くと、朝御飯が用意されていた。
ご飯に味噌汁、鮭の塩焼き。
「お、来たか、朝御飯で来てるぞ」
「あ、ありがとう」
席に着く、父はもう食べてしまったらしい。
「いただきます」
美味しい。
朝御飯をしっかり食べたのはいつぶりだろうか。
朝御飯を済ませると、喪服に着替える。
その後すぐに母親のもとに向かう。
やはり眠ったままだった。
優しい顔で眠っている、すぐにでも『智之』と言ってくれそうだ。
しばらくそうしていると、親戚の人やらが訪問してきた。
「本日はお忙しい中、妻の為にありがとうございます」
ぞろぞろ人が集まり、お坊さんがお経を唱える。
それが終わると、火葬場に向かう、バスで親戚の人達などが乗り、俺たち家族は霊柩車に乗り込み、目的の火葬場まで向かう。
火葬場に着く、説明などを話してもらった後、棺の中に母さんと本当に最後のお別れをする。
「最後のお別れとなります」
親戚などが、一人ひとり別れを告げていく。
泣き崩れてしまう人もいた。
「母さん、俺生まれ変わったらまた母さんの子供に生まれたい」
誰にも聞こえないくらい小さな声で母さんに伝えた。
棺が、火葬炉に入っていく。
扉が閉められた。
母さん、堪えていた感情が溢れだし、膝から崩れる。
火葬が終わるまで待機する部屋に移り、俺は煙突から溢れる煙を1人眺めていた。