12
「智之、待ちなさい、智之」
「もう知らねぇよ」
母の言葉をしり目に、言葉を吐き捨て家を飛び出した。
その日は、たしか雨が降っていた気がする。
あれから5年の月日が経った。
携帯の着信音で目が覚める。
携帯の画面を確かめると、知らない電話番号が表示さている。
不信に思いながらも応答ボタンを押す。
「久しぶり、ともくん」
聞き覚えのある声が聞こえてくる。
でも、誰だか思い出せない。
「どなたですか?」
「雪だけど、覚えてる?」
「雪かぁ、久しぶり、用事でもあるのか?」
雪は、少し間を空けて、話し出した。
「実は、ともくんのお母さんが亡くなって、だからその電話したの、明後日がお通やだから…」
「母さんが、し、死んだのか…」
思わず携帯を下ろしてしまう。
雪が場所とか時間とか教えてくれているようだか、その声が小さく聞こえてくる。
悪い冗談を雪が言っているのではないかとさえ思える。
携帯を耳に当て直す。
「雪、悪い。メールで送ってくれるか」
雪は、智之の雰囲気を察したのか
「わかった。メールで送るね。待ってるから、ともくん」
電話が切れる。
しばらくの間、動くことが出来なかった。
いつの間にか空の色が暗くなり始めていた。
もうそんなに時間が経っていたなんて思わなかった。
随分前に送られてきていたメールを開く。
メールを確認し終えると、ゆっくりと立ち上がり支度を始める。