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後編・中

城塞都市の居城。


その内部の煌びやかなダンスホールは今、音楽が流れて、豪華な料理なども並べて。


要するに宴会状態だ。


Aランクとは言え、ここに俺みたいな冒険者が居るのは、そして宴が開かれるのは俺達のパーティが東のダンジョンを攻略したからだ。


ダンジョンを完全攻略する事自体はなにもそこまで凄い事じゃない。


ダンジョンにも難易度がある、浅い上に魔物も碌に強くないダンジョンも少ないけど居るし。


凄いは凄いけど、基本はそんなに大袈裟に祝われる事じゃない。


それでもお城でこんな豪華なパーティーまで開かれるのはレノラの依怙贔屓だから、な訳がなく。


それは単に、俺達が攻略した東のダンジョンは百年もの間誰も攻略出来なかったダンジョンだからだ。


この城塞都市にはちょうど东南西北に位置する四つのダンジョンがあって、その四つとも百年以上誰も攻略出来ずにいる。


そしてその事に国も長年頭を悩まされてきた。


何故ならダンジョンは魔物を生み出し、魔物は人間に敵意を持つ。


延々と生み出される魔物は実際ダンジョンの外まで出て人間の生活を脅かして来た。


この大陸にいる魔物は全て元をたどればダンジョンから産まれるもの。


今では大陸の至る所に繫殖して来た魔物達がいる。


だからダンジョン攻略は国にも重視される事柄で、冒険者ギルトだって国営で、ランクとか職業も全部国から正式に認められた資格で…


つまりダンジョンのコアを破壊し、沈静化した俺達の功績は国からも評される程のものって訳で…


やったやったやったやったやったやった…!


必死に冷静を装ったけど、内心は物凄く舞い上がった。


これで先ずは一歩だ、ランクSに一歩前進だ…!



「ダンジョン攻略おめでとう、見事と言っておこう。」


「エドリック…」



決闘の後、こいつから嫌味を聞かなくなった。


関係が好転した訳じゃないけど…まあ、なんだ…


悔しいけど認めざる負えない、そんな気持ちを多分俺もあいつも一緒だろうなあ…


決闘の勝利に負い目はない、胸を張って自分の勝ちだと言える。


でも、認めるしかない、道具とか駆け引きを駆使して何とか勝利をもぎとったけど、もしもう一度決闘するなら…俺は果たしてもう一度勝てるかどうか…



「なんだその意外そうな顔は?私は嫉妬のあんまり人の功績を低く見積るような愚か者とでも思われてたのか?」


「いや、そういう訳じゃ…ただお前に褒められるのはちょっと…意外というか。」


「ふん、正当に評価したまでだ…流石にレノラに目をかけらただけの事はある、だがしかしレノラは渡さん。」



知ってるよ。


畜生。



「にしてもお前所の戦士…あれをどうにか出来んのか?さっきからご令嬢達に言い寄りまくってるぞ。」


「無理だなー。」



俺、エルンストがナンパを我慢する所なんて見た事ないし。


それにしても、エルンストは普通にイケメンなんだから一回ぐらいは成功してもおかしくはなさそうなんだけど…


そんな所一回も見てないんだよな。


そしてベラは逆に貴族の男達に言い寄られてるか…


まあ、ベラはセクシー美人だからね。


こっちもこっちでいつも通りの光景だ。


カーラは…結局人見知りだからパーティーには来なかったな。



「それにしてもレノラは早く来ないかなー、早く彼女のドレス姿を観たい…!」


「貴様…仮にも婚約者を前にしてよくもそんな事を…」



あかんべー、だ。



「大変です!!」



パーティー会場の扉が勢い良く開き、一人の従者が大慌ている姿を見せる。



「レノラ様が…!!」



――え?




□■□■□■




領主代理のレノラを攫ったのは一人の従者。


ゲーム中でも彼の情報は碌に開示されず、ぽっと出のボスとして一戦して終わる。


その程度の出番の敵。


でも、彼のセリフの中にはこういう感じのものがあるのを、覚えてる。


確か、死にたくないから異教につくだけ…みたいなことを。


だから、私は彼も助けたいと思った。


実際彼が領主代理を攫う時に、念のためキアラにはその変身能力を使って、噓の命令で従者や兵士達を移動させたけど。


余計な心配みたいなんだよね…


ゲーム中の彼の名称は死の言霊使い、その名称の通り【死の言霊】を使うやべー奴だ。


【死の言霊】、その能力は分かりやすく簡単なもの。


ただ彼が死ねと、そう言っただけであらゆる命を死に至らせる。


正にチート。


そんな彼が人目につかないように、細心の注意を払い領主代理を攫っていた。


それは恐らく、できる限り死者を出さないようにしているからだと思う。


だから、彼を説得してみたい。


勿論念のための準備もする。


彼を説得出来れば、後は出来るだけゲームシナリオの展開をなぞるように幻影魔法を使うと思う。


もともとの展開だと領主代理が誘拐され、拷問の果てに命を落とした。


主人公は間に合わず、彼女の元にたどり着いた時にはもう正に死ぬ直前。


その時の彼女はすでに人の形すら保ておらず、そして最後の言葉を残す。



――どうして助けてくれないの…



と。


ナレーションによるとそれは恨みすら感じる泣き言だった。


彼女は最後まで主人公くんを信じたが故に、拷問中で耐えて来た色々を最後に、遅すぎた主人公くんに我慢できず、その辛みを吐露した。


でも、それが最後の言葉となり、主人公くんは曇った。


シナリオをなぞるならそういう展開にする必要がある。


勿論彼女を死なせるつもりはないから、概ね四年前みたいにするつもり。


死ぬはずの人には死んだ振りをして舞台裏に引っ込ませて、起きてない悲劇を起きたかのように幻影魔法を使う。


あの時は…間に合わなかったけど、成功したとは言えないけど…


今度は絶対に何とかする。




□■□■□■




城内から城下町、城門から出て森に入り。


南に向けて、ダンジョンの前まで。


誘拐犯の彼をこっそりここまでつけて来たけど、そろそろいいか。


ここならもう充分町から離れているし。


誰かに気付かれたり、主人公くんに見つかられたりとかの心配もない。


ホントはもっと早い所でも充分とは思ったけど、心配性なもので。


ついついここまで来ちゃった。


とにかくこれで準備は万端。


アイシャとキアラには主人公くんの監視を頼んだ。


万が一にも私の所に来るような事があったら足止めと報告をよろしく――という名目で彼女達を遠ざけた。


彼女達には私のやりたい事に巻き込むつもりはないからね。


それなのにどうしても私と一緒に城塞都市に行きたいっていうから…


結局仮面をつけて正体を隠すようにと頼んだ。


色々と上手く説明できないのに、というか説明してないのに良く承落してくれたよね…彼女達。


まあ、とにかく主人公くんはこっちに来る事はないだろうからそっちの事は気にしなくていい。


そもそも主人公くんは間に合わなかったから。



「…ここは……はなして!」



誘拐犯に接触しようと足を踏み出そうとしその時。


どうやら領主代理は目覚めたみたいで、暴れ出した。


それに対し、誘拐犯はスタンガンを持ち出して彼女を痺れさせた。


勿論本当はスタンガンじゃない、あくまでそれに似た魔導具。


一種の非殺傷アイテムな訳だけど…正式な名称は覚えてないからスタンガンと呼んでる。



「うっ!?あっああああ――つ!!!」



止めないと。



「――誰だ!?」



足を踏み出し、のこのこと死の言霊使いの前に姿を表す。


そんな私を死の言霊使いは当然警戒する。



「領主代理さんを離して、私の所に来ないか?」


「は?」



この人の事は正直良く分からない。


ゲーム中ではただのドットだから彼の顔だって分からない。


名前だって死の言霊使いとしか表示してないから、事前調査も、監視も出来ない。


彼が異教徒になる経緯も分からない、本当…どう説得すればいいんだろう?



「何を言ってるんだおまえは…」



全身黒づくめで、フードを被ってる彼の顔は見えないが、表情は想像できそう。


ん、まあ…当然な反応だよね。



「――」


「死ねと言わない方がいいよ、そしたら死ぬのは君の方だから。」



彼が口を開けた瞬間にすかさずに私が言う。


その力のことは把握している、そして私はその上で堂々と姿を見せてる。


その事実についてちゃんと考えて欲しいから。



「信じられないかも知れないけど、私、君の事もちゃんと助けたい、だから――」


「助ける?お前が?ふざけんな!あなたに何か出来る!?何か分かる!?」



ん、分からないね、君の事は全然。



「そもそも異教と敵対することを選んだ事自体があなたが何も分かってない証拠だ!」



恐怖が声に、そして顔に出たまま彼は声を荒げる。



「異教の…異神の力を知ってさえいれば敵対なんて馬鹿な真似が出来る訳がない!!」



それは知ってるよ。


一部の信者達にチート能力を与え、今でも虎視眈々とこの世界を狙っている別世界の神。


そしてこの世界のあらゆる存在は全て、その神に傷を負わせる事すら出来ない。


たった一人、光の勇者だけは…ね。


正確には、この世界の女神が残した最後の力、【勇者の剣】だけが唯一異神に傷を負わせられる。


神を傷つけるには神の力が必要だからだ。


だからこの世界でただ一人、【勇者の剣】を使える主人公くんでしか異神を倒せない。


他の誰かじゃダメ、そもそも同じステージにすら上がれない。


もし異神の無敵性に恐怖しているというのなら…そこは大丈夫というか…


最後は主人公くんに倒される筋書きだから何とかなる…はず。


しかしそのことについてどう説明する?



「死ね!!」


「あ。」



悩んでいる間に、激昂した彼は結局その言葉を口にし。


そして力が抜けて地面に倒れた。


たぶん、息ももうしてない。


なんで死ねと言ったのだろう…


神から与えられた力だから、無敵だと思った?


その力を知ってなお狙撃銃で暗殺せずに、堂々と姿を見せるんだよ?


それが意味するのは当然、何かしらの手を打ってあるという。


【死の言霊】は一種の魔法だ。


そう、魔法。


それさえ知れば誰でも簡単に攻略法を思いつくよね?


ただ【リフレクトデバイス】を起動すればいい。


それだけで勝ちだよ。


………


やはり、やり方が甘かった。


不意打ちで気絶させて、舌を切り下した後で説得するべきだった。


まともな少女に取り繕ってたら変に甘くなった…


結局、名前すら知らないままだったな…



「はあ…」



軽く溜息をこぼした。


救えなかった…


んん。


軽く頭を振って、切り替えて行く。


今は。



「領主代理さん、大丈夫?助けに来たよ。」


「……あなた、気持ち悪い。」



え、……流石に傷つくんだけど。


初対面だよね?一応誘拐犯から君を助けたよね私?


思えば主人公くんと君の出会いもそんなだったようね…なのにこの差はなに?


流石に酷くない?


自分で言うのもなんだけど、私見た目は美少女だよ?


気持ち悪くないからね。



「あなたの言葉は全て本心からのものなのに…、その底は全部虚ろだった。」



驚愕の顔、理解の外側にいるものを見た顔。


未知を目撃して、動揺した顔だ。



「本当であり、噓でもある。」



………



「その言葉が全てじゃないのならそんな事もあるでしょう。しかし貴方の言葉はそれが全てだった…なのに情熱の根底には虚しさしかなく、全力なのに冷めている…」



…へー。



「前々思ったけど、領主代理さんってさ、やっぱり読心の力でも持ってる?」


「………」



そんな我に返って、まずい!みたいな顔をしてたら、はいと答えてくれた同じだよ。


その力で老獪な貴族やら、利益の事しか考えてない大商人やらを相手にして来たみたいだけど…


ポーカーフェイスすら出来ないじゃ、その力はを使いこなせたとは言えないと思うよ。


…ふむ、そして…読心とは言ったけど、たぶん読心の()()が正解かな?


なんせ私の本質は浅過ぎるからね、もし心が読めるなら私の事を未知とは思えないよ、頭がおかしいと思われる事があっても理解出来ないとは思わない。


そもそもずっと自分に仕えてた従者の裏切りを察知できない時点で……そうだね。



「言葉の真偽が分かる…くらいかな?」



たぶんそんな感じだろう…



「……」



ふーん…今回はポーカーフェイス出来たんだ。


早速反省してたって事か…


となるとやっぱり誘拐犯の彼が【死の言霊】を手に入れたのは最近の事かな…


いくら完全に心が読めないとしても、長年仕えてきたんだ。


もし最初から裏切るつもりなら流石に何処かでバレてたんだろう。


それに彼、ひょとしたら自分の【死の言霊】は一種の魔法である事すら分かってないかもしれないからね。


――む、【魔力探知】に反応が。



「気持ち悪くても我慢して。」


「え、ちょっと…」



肩に彼女を担いでジャンプ。


その次の瞬間に雷が通過し、そのまま木にぶつかった後木に縛り付いた。


威力弱め、痺れて拘束するのが目的の魔法か…


参ったな…この魔法を放った者は私以上の魔力を持っている。



「……」



ダンジョンの中から出てきた少年は沈黙のまま、そこに倒れている男の死体を確認した後こっちを警戒しながら観察している。


私もまた彼を観察する。


格好は軽装、何処かの遊牧民族っぽいデザイン。


茶色の髪に茶色の目。


片方の耳に羽のような耳飾りを付けている。


武器は片手剣、でも左の腕には魔法を増幅するブレスレットを装備している。


私が両手に着用しているハーフグローブ以上の性能かも。


それに剣だって相当な業物だよあれ。



「全能のエヴァン。」


「…!」


「な…っ!?」



彼の正体を口にし、動揺を誘ってみたら領主代理さんの方が動揺した。


でも狙い通りにエヴァンも一瞬だけど動揺したので、その隙に魔法を撃つ。


領主代理さんは邪魔なので上空にぶん投げる。



「キャアアア!!??」



全力で全速で、ありったけの魔法を打ちまくった。


【マナショット】という基礎の中の基礎、無属性な一般攻撃魔法だけど、簡単な魔法だからこそ発動が速いので牽制に使い。


それに両手を必要としないからね、空いた両手は【アビスブラスト】の魔法陣を沢山生成した後、空中に設置する。


そして一斉発射する。



「――ふん!」



しかし、その全部がた剣に切り払われた。


一振りで全ての【マナショット】を、更にもう一振りで全ての【アビスブラスト】を。


うわ…


勝てるビジョンが思い浮かべない。


なんで終盤のボスキャラがこんな所に居るのかなー?


そうりゃ、本来この時期でここ、城塞都市で活動しているはずのトルストとイグニスは約四年前に私に倒されてたから、代わりに別の誰か来るかもとは思ってたけど…


だからと言って急に最強戦力を投下するなや。


私、こいつとだけは絶対にさしで戦いたくないんだけど。


そもそもこいつ、設定上最強のようなものだよ?


異神と主人公くんを除けばだけど…


でも実際こいつは厄介だよ。


このゲーム全てのボスは間違いなく強いけど、攻略法はある。


攻略法が分からないならどんなにレベル上げても、どんなにいい装備をしても勝てないかもしれないけど。


攻略法さえ分かれば戦える、低レベルでも勝ってる。


異教のトルストは回避を徹底すればいい。


炎嗟のイグニスは水・闇・光属性の魔法で攻撃すればいい。


さっきの死の言霊使いだって【リフレクトデバイス】を使えばいい。


だけど、こいつだけは…全能のエヴァンだけは違う。


攻略法が存在しない、弱点がない。


純粋にあらゆる分野において最強のこいつに勝つには、自分も最強レベルの実力を持つしかない。


それはゲーム終盤で力が覚醒した主人公くんだから出来た事。


その身に宿る神の力を覚醒した主人公くんだからこそ出来た事。


私じゃどうにもならない。



「ちょっと…!?貴方ね…!」



領主代理さんが空から落ちてきたのでとりあえずお姫様抱っこでキャッチした。


文句が言いたいみたいだけど、聞く余裕がないからごめんね。



「――。」



何も言わず、今度は彼の方から魔法を放つ。


七つの光の矢が目で捉えない速さで私だけを貫く…と思いきや全部反射した。


そうだった、さっきは魔力の反応を察知してつい避けたけど、まだギリギリ三分は経ってないから【リフレクトデバイス】の効果が残っている。


助かった。


そして自分に返ってきた神速の矢を黒い波動で相殺した。


闇属性魔法だ。


…正直私、完全に戦意喪失してるんだけど。


逃げたいけど、逃がしてくれないだろうな…


背を向けた瞬間切り殺されるのが容易に想像つく。


ああ、ホント嫌になる。


あっちは全武器を、全属性の魔法を極め。


全てが神の領域まで踏み込んでいる。


当然、魔力も魔法の発動速度も私より上、そして私の使えない魔法もたくさん知っている。


魔法使いとしてでも私以上の者だよ、格上というやつだ。


勝てる所が一つもない。


とにかくハーフグローブの下に付けてある魔戒の一つ、魔封じを無効化する魔戒の効果だけは切らせないようにしないと。


もし魔封じに掛かったら私は魔法が使えなくなる、そうなったら私は無力だ。


時間が経ってば治るし、アイテムを使えば一瞬で治せる。


でもそんな機会はきっと与えて貰えないだろうね。


【リフレクトデバイス】もそろそろ時間切れ。


でもそれを待たずとも全能のエヴァンには剣がある。


一瞬で眼前まで来た彼は私の心臓を目掛けて突き刺して来る。



「――!?」



へー、君もそんな顔をするんだ…全能くん。


目を見開き、さっきまで澄ましてた顔に明らかな驚愕がある。


どうやら自分の剣が切り払われるのは想外みたいだ。



「助かったー、ありがとうマヒル。」



さて、最強には最強をぶつけるよ。


全てにおいてではないけど、たった一つだけ、剣において最強な彼女は間違いなく私より強いので、頼らない理由はない。


他の人を自分のやりたい事に巻き込むつもりはないけど、マヒルは例外だ。


絆を深めるためにもどんどん巻き込まないとだし…ね?


死の言霊使いと対峙する時は念のため距離を取らせて、姿を隠して貰ったけど。


いつでも直ぐに駆けつけられる位置には居て貰ったよ。


だから上空に投げ飛ばされた領主代理さんを見て、彼女は直ぐに来てくれた。


死の言霊使いとは戦闘にはならない。


どっちかが一瞬で死ぬだけだからね、なにか動きがあったらそれはつまり予想外の何かが起きたという事。



「「――!」」



エヴァンとマヒル、二人とも一言も喋らずに斬り合いを始めた。


ので私は距離を取ろうと後ろへジャンプ。


この隙に新しい【リフレクトデバイス】を起動する。


これで残り二つ、そしてその一つはマヒルに持たせてるから私の方はもう残り一つ。


マヒルの方を見る。


白いポニーテールをなびかせながらとんでもない速度の身のこなし披露している。


全能くんも負けず劣らずだ。


激しく奏でた鉄の音は二人の烈し剣戟を表し。


その光景は何というか。


剣と()の鍔迫り合い、やっぱロマンがあっていいな――なんて言ってる場合じゃないね。



「ちょっと貴方…!いい加減私を降ろしなさい!」


「ダーメダメ。君には盾になってもらわないと。」


「はい!?」



だって彼の目的は領主代理さんを生け捕りし、聞きたいことを喋らせるために拷問する事だからね。


だから君がガードしてくれると相手の攻撃の邪魔になる。



「貴方…私を助けに来たと言いましたよね!?」


「ん、死んでも君を助けるから安心して。」


「じゃなんで私を盾に?」


「そうしないと私が死ぬからね。」


「言ってることが矛盾しかないですけど!?」



暴れない、暴れない。


私の言葉に噓はないって分かるでしょう?


大人しくお姫様抱っこされてて。


私が死ぬ=戦力が減り=君が捕まる=拷問の果てに死ぬ、だから。



「ちゃんと捕まっててね!」


「へ!?」



彼女を抱えながら全力疾走。


魔法は反射出来ても飛び道具は反射できない。


マヒルと戦っているとは言え油断はできない。


全能くんはマジで何でもありなんだから…


ついでに走りながら足で生成した【アビスブラスト】の魔法陣を地面に設置する。


両手が使えないから仕方なく足で。


そして魔法陣は地面に固定したから、上に向けて発射することになったけど何とか軌道を操作して。


曲げた後エヴァンの方に落とす。


マヒルとエヴァンの動きにはギリギリだけど、ついていけてない程じゃないから、出来るだけの援護射撃をする。


そしてマヒルには私が領主代理を連れて逃げれるように援護をしてもらう。


危険だけど、マヒルの実力なら可能のはずだ。


だって、彼女も彼女で設定が最強だし…


ゲーム中だと異神と戦う機会はなかったけど、正直彼女なら神ですら斬れるんじゃないかな。


それぐらい設定がね…


なので私は領主代理を抱えたまま走って、このまま離脱する。


そのつもりなんだけど。



「え!?」


「んつ!?」



囲まれた、聳え立つ岩の壁に。


一瞬で私達がいるこの地を中心に、地面から岩壁が昇り、囲うように私達を閉じ込めた。


魔法で作られた大自然のドームみたい。


しかも魔法で生成されたこの岩壁、元はただの土地でも今はエヴァンの魔力が込められているから魔力耐性がある。


つまり【ダークヴォイド】で岩壁をえぐり取る事が出来ない。


なら地面は?岩壁の方は無理でも地面なら、向こうに通ずる穴を作って逃げれば…


ダメだ、地面にもエヴァンの魔力を感じる。


諦めて戦うしかない。


じゃ…やっぱり領主代理さんが肝だね。



「頑張って盾さん、君が頼りだよ。」


「さ…最低…!!」



罵られるながらも私は彼女を盾にしたまま走り回る。


そんな私の事は今無理に手を出さない方がいい、そう判断したのか。


エヴァンは明らかにマヒルの方に集中している。


なら、私は全力で支援砲火を――えっ。


あいつ…反射魔法を使いやがった。


特殊な魔力がエヴァンの全身を纏い、その様子はゲームで彼と戦った時に見たことがある。


この世界に存在しないはずの反射魔法を使いやがった。


マジでやりやがったよあいつ…


【リフレクトデバイス】と同じく三分間しか保たないけど、【リフレクトデバイス】と違って何度でも使える。


当然だ、【リフレクトデバイス】は一回使ったら壊れるアイテムだけど、その反射魔法は魔法だから、何度でも使える。


それはつまり半永久的に魔法反射出来るという事…ズルい。


なら、支援砲火を止めて徹底的に嫌がらせをしてやる!


【アビスブラスト】【アビスブラスト】【アビスブラスト】【アビスブラスト】【アビスブラスト】【アビスブラスト】【アビスブラスト】【アビスブラスト】。


生成・設置、生成・設置、生成・設置、生成・設置、生成・設置、生成・設置、生成・設置、生成・設置。


そして発射…!!


狙うのは足元。


彼の足の周りにいる地面、もしくは斜め上からその足が正に立っている地面を。


そして次に移動しそうな場所、次に一歩で踏みそうな地面を狙う。


マヒル程の剣士が相手だ。


息が詰まるような極限的状況のはずだ、集中したくて仕方がないはずだ。


僅かでも気をそらしたら不味い、それ程マヒルはヤバいなのだから。


なので、足元が崩されるかどうか、剣の打ち合いにて余計な注意を払いながら足を運ばないといけない。


なんてのは、間違いなくうざくてストレス溜まる――だろう。



「…せこい。」



領主代理さん?


急に言葉で殴らないないでよ。


私だってカッコよく戦いたいけど、私にあるのは半端な頭とそこそこだけの観察力と悪運でここまで上げて来たレベルだけ…


そんな人ならざる領域には踏み入れないよ。


むしろ出来る事を頑張ったと褒めて欲しい。


だってほら、見てごらん。


目にも止まらないような無数の斬撃。


迫り来る荒れ狂う風の斬撃と静寂な雷の斬撃が何度も何度もぶつかる。


勿論それらは比喩だ、彼女達の太刀筋を表す比喩に過ぎない。


ホントはそんな派手なものじゃない、あくまでもただの斬撃だ。


だけど凄まじいの一言で収まれるようなものでもない。


彼女達の領域なら、もはや斬れないものはない。


それこそ恐らく例え神様でも、人の身で斬れる。


だから、マヒルは文句なしの最強剣士だよ。


全能くんとも、主人公くんとも違う。


神から力を貰ってなくても、そんな領域に踏み入れたんのだから。


最悪の可能性を考えて行動するのが癖だから、むやみ戦わず逃げる事にしたんだけど。


マヒルなら充分勝算がある。


全能くんが相手だって、引けを取らないよ。


全能とか関係ないんだ。


どんなものでも、どんな力でも、どんな存在でも、剣一つで、極めた剣一本で、彼女は斬れるんだから。


全魔法も全武術も極めたとしても、彼女との戦いにおいてはそれすら余計な事だと言えてしまう。


極めるのは一つでいい、極めた剣一つでその全てに対抗出来るから。


剣だけでどんな最強とでも渡り合える。


最強だから、他の最強に引けを取る事はない。


どんな属性のどんな効果の魔法でも、剣も拳も斧も槍も矢も弾も全て斬る。


何故なら。


比喩でも何でもない。


彼女の剣は世界だって斬れる。


全能くんも同じだけどね。


さっきからここ一帯の空間が変な事になっているよ。


多分、マヒルと全能くんが剣を振るう度に空間を斬ってしまったから。


にしても全能くんはさっきから剣しか使わないね。


多分あれだな。


選択肢を切り捨てたんのだろうね。


出来る事が多い分、考えられる選択肢も多いからね。


分かるよ、私も考えながら戦うタイプだから。


もっと早く判断出来るように、あえて選択肢を狭めた。


減らすことで、考える要素を減少した。


そうじゃないとマヒルについて行けないから。


ただ無心に剣を振り続けるマヒル相手に、あれこら考えたらやられる。


どれだけ早く思考を巡らせても、ほんの刹那の時間しか使ってないとしても。


その余計な刹那の時間で一気に後手に回される。


だから、全能くんもただひたすら無心に剣を振るうしかなかった。


そして私のささやかな嫌がらせはやはり最高に効いている。


集中しないといけないのに、私が邪魔して。


気を付けないといけないこと、考えないといけないことを地味に増やしたからね。


余裕の無くなった全能くんの顔を見ながら、心でほくそ笑むだその時。



――ピュルルルーードンーー!!



夜空に青い花火が咲き誇った。


いきなりの事で、意外な事だ。


だって、これは主人公くんがこっちに来ている合図。


…えぇ?なんで?

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