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剣編・中編

更新遅くなってすみませんでした。


書いてる途中詰まったからって、気分転換に別の小説を書き始めてホントにごめんなさい。


でも、気分転換大成功です。V





今までの事を三行で纏めます。


村を滅ぼされた少女を引き取る事になった。


もう一人の生き残りである身代わりの人がなんと小さな女の子だった。


そして今彼女達は私と一緒にうちの館の前まで戻って来た。



「今日からここが君たちの家…少しボロいけど、中はちゃんとしているから。」



見るからに古い、でも別に穴が空いたりとかはしていないし雨漏れとかもない。


何だかんだで広くて見栄えもいい館である。


その大きな門を手で触れ、自分の魔力を認識させる事で門が自動に開く。



「おおおおー。」


「………」



元気そうな声を出しているのが身代わりの子、光の勇者に代わって死ぬはずの娘。


一方、始終沈黙な娘がもちろん光の勇者の姉(?)の娘。


ここまで戻る道中でも、ずっと静かで、大丈夫?と聞きたくなっちゃいそうだけど、そんなの勿論大丈夫じゃないし、何を言うべきかも分からないのでこっちも静かに見守る事しか出来なかった。


それに引き換え、身代わりの子――キアラは驚くほど元気で、ずっと好奇心旺盛で、目まぐるしくなる程、村の外の世界に興味津々だった。


色々と聞いてくるし、話して来るから、私としては助かる。


だって私、シャイだから、人と話すのは苦手なんだ。


しかしそんな彼女でもやはり哀しみを胸の内に秘めていたりするのだろうか?


まあ、空元気でも元気だ、強がれるだけの気力があるってことで、放っておこう。


泣きたくなったら、一人で部屋で勝手に泣きまくるだろうし、泣いたら元気にもなるだろうからやはり放っておこう。


何かを求めて来る時に、それをちゃんと答えてあげればいいか…


そう思って、アイシャを見守って来たけど、自分のやり方が正しいのか不安になって来た。


アイシャという名前する、彼女の口からではなく、キアラの口から知ったんのだからね。


ここまでの道中、ホントに碌に喋らなかったからこの娘、私より無口な人なんて初めて見たよ。


まあ、何はともあれ、彼女達を館の中まで案内した。


館の中は大抵な人が想像するようなもので、ありきたりな構造だから面白味もないと思うが、面白い存在も有る。



「おおおお!」


「――…。」



更に両目を光らせるキアラと少しだけ目を見開いたアイシャ。


彼女達が見たものはズバリ――妖精だ。


総勢7匹、水・炎・風・土・雷・光・闇の妖精がこの館には有る。


この館に転生した時からずっとお世話になってた妖精達だ。


でも何言っているのかは分からないから、良く分からない連中でもある。


でもいつも世話してくれるし、悪意はないはずだから、正直甘えている。


家事とか全部ほったらかしで、無心にモンスターだけを狩り続ける日々を送れたのは間違いなくこの手のひらサイズな彼女達のおかげだ。


じゃないと食っては狩る、狩っては寝るの生活なんて送れまい。



「この館のメイド達だよ…多分。」


「…多分?」


「多分。」



アイシャの疑問には同じ言葉しか返せなかった。


だって、良く分からないから。


案外彼女達の方が主人かも。



「ね!ね!彼女達と遊んでもいい!?」


「いいじゃない?…多分。」


「そうか!」



早速妖精達を追い掛け回る…


キアラはホントに元気いいね、いい事だ、ん。



「……この館には他に人がいないの?」


「いないよ、私と妖精の彼女達だけ。」


「…そう。」



相変わらず静かな娘だけど、いつもよりは喋ってる気がする。



「名前。」


「?」


「あなたの名前…」



………………………………………………………………?


……………………………………あ、そう言えば名乗ってない。


忘れてた…というか。



「名前ないよ。」


「…え?」



驚きの目だ、まあ名前がない人は流石に珍しいか。



「どうして?」


「付ける人いないから。」



それに無くても今日まで問題なく生きてこられたんだから特に不便も感じなかった。


前世の名前も忘れたしね。


ああ、でも今日から共同生活をするならやはり名前があった方がいいのかな?



「……じゃ、どう呼べば…?」


「ん……おいとか、君とかでいいと思う。」


「流石にそれはちょっと。」


「…どうしても気になるなら……いっそう君が付ければ?」


「え…?」


「だから、君が私の名前を決めて。」


「………」


「適当でいいよ、何ならやはりおいとか、君とかでもいいよ?」



どんな名前だろうと関係ないしね、そんな符号が無くても私は私だと言えるから。



「……でしたら――」




□■□■□■




「名前ないよ。」


「…え?」



いつもの、抑揚のほぼない声で彼女は言った。


自分には名前がないのだと。



「どうして?」


「付ける人いないから。」



この館に来るまでの道中、二ヶ月近く掛かった旅の中で聞きなれた静かな声。


大した事じゃない、と言わんばかりのいつもの無表情。


その人形のような可愛いらしくも虚無を感じる顔を見ながら思う。


それはようするに、自分を愛してくれた両親も、名前を呼び合う友人もいないということでは、と。



「……じゃ、どう呼べば…?」


「ん……おいとか、君とかでいいと思う。」


「流石にそれはちょっと。」


「…どうしても気になるなら……いっそう君が付ければ?」


「え…?」



それはいくら何でも、責任重大では…?



「だから、君が私の名前を決めて。」


「………」


「適当でいいよ、何ならやはりおいとか、君とかでもいいよ?」



…そんな名前は付けませんし、この人はいったい真顔で何を言っているの?


始めて会ったあの夜から変な人、不思議な人だとは思ったけど…ここまでとは。


呆れた……でも。



――ん…やっぱり美人さんだ。



月明かりの下、笑顔でそう言った彼女は、まるで夜空に輝く一番星のようで。


だから…



「……でしたら――ステラ。」



彼女に似合、綺麗な名前がいい。


ふさげた名前にならないように、私が自分の考えうる限りの素敵な名前を。


幼い私の精一杯。



「ステラ…ステラ、ステラ…ステラか……ん、じゃ今日から私はステラだ。」


「ホントにいいの?」



まあ…彼女はそもそもどんな名前でも良かったのでしょけど…


おいとか、君とかでもいいのだから。



「ん、アイシャがくれた名前だから……大事にする。」


「――――。」



ホントに…よく分からない娘。




□■□■□■




アイシャから名前を貰った後、何だかんだ嬉しい気分になった私は彼女を寝室に案内しながら、軽く館の説明もした。


どこに何があるのかとか、そしてこの館には広い浴場も有るんだとか。


この世界ではどうやらお風呂に入る時は街にある公衆浴場に入るのが主流で、田舎とかなら川沿いで或いは井戸を利用するみたいだけど、基本家には風呂がない感じだから、心なしかアイシャが少し驚いたように見える。



「それと、多分時々孤児院の子達も入りに来るし、ご飯も食べにくるから。」


「孤児院?」


「ん。」



色々と説明したらあっという間にに部屋の前まで来た。



「今日からこの部屋を使うといいよ、ちなみに隣の部屋はキアラの。」


「そう。」


「じゃ、ゆくっり休んでいて。」



アイシャと別れた後、中庭で妖精を追いまわしているキアラを見つけ、同じく部屋に案内しながら同じ様な説明をした。



「どんな子が来るの!?会うの楽しみ!」



明るい笑顔、やっぱりキアラは元気でいい子だね。


この日はもう特に何事もなく、この後は夕食を食べれば終わり。


そう言えば、この館の妖精達が作る料理だけど、何故か私の前世で食べてた料理を再現しているみたいだよね。


腕もいいから美味しいし、アレンジをすることもあるけどやっぱり美味しい。


孤児院の子達にも好評で、その料理を食べる時にあの娘達はどんな反応をするのか、ちょっと楽しみ。




□■□■□■




さて、昨夜に続き今朝も美味しそうにご飯を食べた彼女達だが。


いい加減ちゃんとした日用品とか色々、買い揃えてあげた方がいいと思って。


今までは旅の途中ってこともあって、最低限のものしか揃えてないのよね…


服も…


村が焼かれ(吹っ飛ばされ)、ほぼ身一つしかないような彼女達に私は何枚かしか買ってあげてないんだよ…


というわけで街中なう。


あ、これもう死語だっけ…どうでもいいか。



「何か必要なもの…欲しいものがあったら言って。」


「はーいー!」


「…(ペコリ)。」



ん…相変わらず対極な元気さと静かさだ…


日常生活において彼女達には何か必要なのか私には正直よく分からないので、ちゃんと自分で言ってくれるといいんだけど…


まあ、とりあえず先ずは最初の店へ。


普通は道中で街の事も紹介するものかもしれないけど、私は街に無関心だから無理。


紹介できる場所なんて四つぐらい?


そしてその一つがここ。



「ここは頑固爺さんが経営している倒産寸前な鍛冶屋。」


「おおお!」


「鍛冶屋…?」


「…相変わらず口がなってない嬢ちゃんだ。」


「久しぶり、頑固爺。」



あれこれ五ヶ月はあるかな?


蒼白な髪にふさふさの白い髭、背は小さいし肌もしわしわの老人。


如何にもファンタジーものに出てくる鍛冶屋のドワーフ職人みたいな見た目だけど、彼はドワーフでは無い。


ただの人間の老人、でもその腕は噂のドワーフ達とも遜色ないと思う。


にしてもカウンター席に居るの珍しいね、いつもは作業スペースに籠るのに。


ん、久しぶりに不機嫌そうな声が聞けて嬉しいよ。



「まだ倒産してなくて良かったね。」


「…で、こんな倒産寸前な鍛冶屋に何の用だ?」


「彼女達――アイシャと、キアラの服を買いに来た。」


「は?」「え?」「ん?」



戸惑う頑固爺とアイシャ、そして戸惑う彼らに戸惑うキアラ。



「服を買いに来た。」


「服屋に行け。」


「なんで?」


「逆になんでだ?」



???客が来たのによその店に行けなんて、これだから頑固爺は…



「…どうして鍛冶屋に服を買いに?」


「?…一番いいから?」



アイシャはどうしてこんな質問をするんだろう?


私の服は全てこの店で買ったものだし…問題ないよね?


今着ているこの服も…


白ベースで赤を飾るように添える上衣、短ぎず長すぎずな黒いスカート、どっちもデザインいいし、可愛いでカッコイイ。


結構お気に入りで、いいセンスだと思っているから、この服を作った頑固爺の所に彼女達の服を買いに来たんだけど…


ん?ひょとしてセンスいいと思ったの私だけ?実はダサかった?



「…おい嬢ちゃん、一応聞くが…服屋と鍛冶屋の違いはなんだ?」


「?…服屋は安いけど性能の低いもの、鍛冶屋は高いけど性能のいいものを売る…よね?」


「なんだその認識。」



んんん?



「服屋は日常で着るものを、鍛冶屋は戦いで着るものを売るんだよ。」


「…ん?やっぱ同じってこと?」


「こいつ…日常と戦いを同じだと考えてやがる…」



んんん?



「…私達、そんないいものは要りません。」


「え?だめだよ、万が一の時もあるから、一番いい装備を着ていないと。」


「……」



何か諦めたような顔だけど、有難迷惑だったかな?


でも、やっぱり装備は出来るだけいいものを揃わないと。


どのゲームも同じだけど、装備は大事。


装備によってはレベル差なんて簡単に覆すぐらいだからね。


このゲームも、いえ、この世界もそう。


レベルよりも装備の方が重要、勿論レベルも大事だけど。


HpとMPはレベルと共にしか上がらないし…新たなスキルも覚えるから…


でも、敢えて言おう、装備の性能の違いが、戦力の決定的差であると。


この世界では、一番上手く装備を使いこなせる人が一番強い。


だから、私は殴り合ってでも、頑固爺に私の装備を作らせたんだ。



「そういう訳だから、彼女達の装備を作って。」


「……まあ、良いだろう、今採寸するから少し待っておれ。」


「…随分あっさりだね、私の時はグーで殴り飛ばしたのに。」



認めない奴には装備を作ってやらん!とか言って。


私、ずっと警戒てしたのだけど…



「嬢ちゃんに名前を覚えさせただけで大したもんさ。」


「ん?」


「……それに嬢ちゃんみたいな危うさもないしな。」


えぇー、それどういう意味…あ、そう言えば名前。



「私ステラ。」


「あ?」


「アイシャから名前貰った。」



だからどうというわけでもないんだけど、ちょっと自慢?



「……そかい。」



あんま興味なさそう、まあいいか。




□■□■□■




その後、アイシャとキアラの採寸が終わって、後日また成品を取りに来るということで。


今、私達は別の店…ではないけど、まあ店みたいな所に行ってるよ。


そして到着。


スライム区にある、ちょっとボロいけどここではむしろ綺麗な二階建ての民家。


これが私達の目的地だ。



「居る?どうせ居るから勝手に入るよ?」


「……」「フッフッフー♪」



一人大人しく、一人機嫌良さそうについて来たけど。


ん……自分で言うのもなんだけど、私今ボロい扉を蹴り飛ばし、勝手に入ったんだけど…全然突っ込まないだね、この娘達。


と思ったら、アイシャが何かジト目で凄い見て来る…


とりあえず――



「外で待ってて、後、念のため少しこの家から離れて。」


「え…?」「ン??」



さて、やるか。


一呼吸をし、集中する。


――【魔力探知】


魔力を感じる事、それは魔法使いとして基本中の基本。


出来て当たり前、というより出来ないと魔法が使えない。


それでも魔力を探知する事に特化した魔法がある。


それはこの世界は魔力に満ち溢れているから、路傍の石、地面の中の昆虫、吹き通る風、その全てには魔力がある。


ただ魔力を感じるだけじゃ、あっちもこっちも魔力だらけという事しか分からない。


つまりは何も分からない。


せいぜいこっちの方が多い?ぐらいの差しか。


だから【魔力探知】という魔法が生まれた。


誰でも簡単に覚えられるような基礎的な魔法、だけど実用性はピカイチ。


ゲーム中では遭遇率を下げて、待ち伏せを回避する効果を持つこの魔法は現実でも正にその通り。


使用者が知りたい魔力(情報)しか探知しないこの魔法はすっごい便利。


おかげで今も曲がり角で私を待ち伏せしようとする魔力()を探知する事が出来た。


ん?でもおかしいな…彼なら、私が入った瞬間問答無用で撃って来たはずだけど、大人しく息を潜めるのはらしくない。


囮?彼の魔力のはず…何か新しい発――!?



「――グハッ。」



撃ち抜かれた…!


背後から私の身体を貫通して、地面に落ちたそれは――弾丸だ。


痛ったあああーつ!!


魔力探知で高速に近づいている弾丸を察知しなかったら、今頃心臓が…!


でも、今は――



「ステラ!?」「えつ!?なになに!?どういうこと!?」



アイシャとキアラの声を無視して走り出す。


――また来た、…よし、避けた。


撃たれた角度から大体な方向は推測出来る。


そっちから飛んで来ると分かっていたなら、回避出来る。


所詮連射不可な、一発一発に間隔を開けてしまうような攻撃。


魔力探知で警戒すれば、高速に接近して来る弾丸も事前に察知できる。


撃たれた所も、走るには支障ないような部位。


なら全力で走れる――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――見・つ・け・た。


遮蔽物の有無を気にせず、ただただ最短ルートで走り抜き、途中で色んな人の悲鳴を聞こえてきたけど、気にしない気にしない。


私はちゃんと他の人が流れ玉に当たらないように走ってるし、彼も流石に無関係な人が傷づくようなへまはしないでしょ。


もしそうなったら、私が許さないって分かってるはずだからね。


さてと、屋上に飛び移り、目の前の高台に鎮座する廃屋をじーっと見る。


隣接する建物はなく、その高台にある建物はその廃屋のみ。


念のため魔力探知でチェックしたけど、やはり彼以外に人はなし。


なら遠慮は要らない。



「――【アビスインフェルノ】。」



吹っ飛べー!


撃たれた恨みを百倍にして返す。


痛かったぞこん野郎ー!!!


掲げた右手に生成された大きな闇の塊をそのまま廃屋にぶつける。


廃屋は爆散し、闇の炎だけが燃え続ける。


しかし、その炎には熱はなく、ただ全てを蝕む。


ゲーム中では全体攻撃のそれは、炎の形をしている闇。


その闇に蝕んまれ、廃屋は瓦礫すら残らず消え去る。


だけど…



「会いたかったぞ~~~!!狂人ちゃん~~!!!」



元気よく炎から飛び出して私に抱きつくな。



「臭いから離れて。」



相変わらず何日風呂入ってないのかも分からないな匂いをしているな、この人。



「相変わらず冷たいね~」



やめい、頬ずりすんな。


離れろー、そろそろポーション飲みたい、痛い、血がどんどん流れてるから。



「分かった、分かったから、魔法を撃つのはやめて、痛いから!……ポーション飲んどこう。」



というわけで、燃え盛る闇を背景にポーション、正確にはハイポーションを飲む女の子と成人男性がここに居るわけだけど…


近くの住民達からはまたこいつら…!って顔をされた。


ですよね。


…とりあえず、家の方に戻ることにした。




□■□■□■




「紹介する、この人は狂人さん、色んなものを研究し発明している人。」


「どもども~狂人ちゃんと狂人コンビをやっている狂人さんです~」


「……」「……」



ぼさぼさした髪に寝不足が一目で分かるような顔色、でも不健康な見た目とは逆に、無駄に元気良く、ピースまでして自己紹介するのがこの男。


アイシャだけでなくキアラまで絶句し……ん?…なんか私まで呆れた目で見られてるんだけど?



「説明して。」



アイシャの言葉にしばし考える。


説明というのは恐らくなんでこの人はいきなり私を撃ち抜いたにも関わらず、仲良さそうな態度で絡んで来る事で間違いないだろう。


でも、どう説明すればいいだろう…



「ん……私をいつでも殺しに来ていい代わりに色々と武器を作ってもらっているから?」


「……」「……」



気のせいじゃないね、ホントに呆れた目で見られてるね。



「私が説明しよ~、狂人ちゃんは言葉足らずで、そもそも人に何かを説明するのが苦手だからね~」



むむむ、反論できない。



「私は色々と作りたい、色々研究したい!だけど資金も資源もない、そこで狂人ちゃんが資金も資源も提供し、代わりに私が作ったものは全部彼女のもの、そういう約束の関係だ。」



そうそう、この人ゲーム中でもランダムにお金と素材を要求して、あげたら何かしらなものを作ってくれる。


役に立つものかもしれないし、まったく役に立ったないものかもしれない。


そしてなんと、低い確率だけどエリクサーが出来上がる事もある。


でもそれは超レアで、ゲームをやっている時も一個しか手に入れなかった。


現実の彼曰く、偶然に出来上がったもので、もう一度作る事は出来ない。


今も研究は続いているけど、どうしても同じように再現は出来ないとのことだ。


だから私もエリクサーは一個しか持ってない、今は0個。



「そして~!私が作った武器は全部彼女で試していいってさ!だから作り上げたこの銃で彼女を撃ったって訳!」


「「バカなの?」」



キアラにまでバカと言われた。



「「バカなの?」」



二回目!?


…い、いや!しかし敢えて言い訳をさせて貰う!


私は、ゲームを通してこの世界の色んな事を知ってる。


だから何が必要とか、どんな準備をするべきだとか、どんな立ち回りがベストだとかそういうのは大体分かる。


でも、だから私は、不測の事態もしくは未知の敵を対処する経験が圧倒的に足りない。


この世界は現実だ、ゲーム中に出ていない場所も、魔物も存在する。


だから、ゲーム知識だけを頼るわけにはいかない、それだけじゃ足りない。


セーブ&ロードは現実にはいないからね。


なので、色んなものを作り、私の予想を超える彼の襲撃は全部いい経験になる。


まあ…その代わり、油断したらホントに死ぬんだけど…


実際先も危うくそうなったのだけど…


一応襲撃していいのはこのスライム区に居る時だけって事にはなってるん…だよ?



「…どうやってこんな銃を作り出したの?」



この世界では銃は普及し始めたばかりなもの、いや、現状普及しているとは言い難い。


マニア向け、と言うべきかな?


連射性能のない銃なんて、大した役には立ったない。


威力も攻撃範囲も魔法の方が優秀、そこそこな戦士でも一瞬で繰り出す強力な連撃の方がもっと力強く。


重装備の戦士や硬い魔物に至ってはダメージすら碌に与えられない。


銃の利点なんて速さぐらい?


でも、敏腕な魔法使いと戦士ならもっと早いからな…


まだ発展途上の微妙な武器、それが銃…のはず。


なのに、頑固爺が作った最高レベルの装備を貫通した?


この服をただの布と思うなよ、イグニスの炎ですら耐えたんだから。


優秀程度の防具ですら貫通できない銃が…しかも、探知できない程の距離からの狙撃。


こんなもの、ゲームにはいなかったぞ?



「頑張ったので!」


「……」



そうか、頑張れば狙撃銃ですら作り出せるのか……凄いね。


私も頑張れば新しい魔法を作れるかな?



「量産できる?」


「無理。」


「もう一本作るのは?」


「可能~!」


「作って。」


「了解であります!」


「ところで、(うち)のものが減った気がするんだけど。」


「勝手に資金に変えました~」


「そう、ならいい。」


「いいんだ…」「いいの!?」



テンプレのツッコミをありがとう。



「二階に行くよ、二人共。」



この家の二階には彼の作ったものがたくさん置かれている。


多種多様なアイテムに、奇妙な武器装備、そしてただのオモチャ。


チョーカー(アイテムストレージ)に入りきれない、もしくは入れる必要のない物は二階に放置している。


チョーカー(アイテムストレージ)はほぼ無限に物を入れらるけど、何故か同じ物を99個しか入れられないのが謎。


違う人が作った同品質なロングソードでも99個しか入れらないのに、同じ人が作った同品質だけど折れたロングソードなら、ロングソードとは別に、折れたロングソードとしてカウントするので、99個のロングソードが入っていても入れられる。


にしても実験用な剣だから低品質でいいのに、頑固爺と来たら本気でいい品質な剣(初心者用)を100本作ったんだから…


ちなみに、その一本を折った時にもう剣は作ってやらんと言われた……


…いつか絶対また作らせてやる。


とにかく色んなもの、そしてスペアのアイテムストレージもあるから彼女達をここに連れて来た。



「ね、狂人ちゃん。」


「?」



二階に上がろうとする時に、狂人さんからふいに呼び止められた。



「目指している狂人(もの)には近づけたかな~?」



その問いに私は…



「……どうだろう。」



としか。



「「?」」



不思議そうな顔をしている彼女達を見て、彼女達の村を思い出して。


私はやはり…



「そうか~まあ、私は研究に戻るから自由にしててね~」




□■□■□■




日も暮れた頃、私達はやっと館の前まで戻って来た。


スペアのアイテムストレージをあげる為に、中に入れた物を整理したら予想以上に時間を使った。


あの人は本当に色んなものを作るし、私の要求通りにあれこれ99個作ったからね…


それに色んな素材も入っているから、本当…大変だった。


結局日用品は買いそびれたし、また明日にでも買いに行くしかないか。



「ああ~!おねえちゃん本当に戻って来た!」



ん?この元気で可愛いらしいな声は……おお、やっぱり。


声の方に向けば、そこには5人の少年少女が居た。


みんな私と同じぐらいの年齢で、一人除けば全員年下。



「…久しぶり。」


「…久しぶり。」



久しぶりに久しぶりを返す、唯一の同い年で金髪の彼女。


そんな彼女は私の横にいる二人に気づき、自己紹介を始めた。



「初めまして、私はアミスティア、アイシャとキアラですよね?頑固爺から聞きました。」


「…初めまして。」「初めまして!」


「彼女はよく私のレベリングに付き合ってくれてたヒーラーさん、そしてこの子達が昨日に言ってた孤児院の子達。」


「私はリヴリー!」「エルダです、よろしくお願いします。」「俺はニートラルだ、よろしくな。」「…ソリッド。」



そのまま他の子達も自己紹介を始めたので、私はその間に門を開けた。



「とりあえず、中にに入ろうか。」




□■□■□■




「それでね!おねえちゃんとティア姉がね!魔物の氾濫をほぼ二人だけで止めたんだよ!ギルドの人達が言ってた、死者が出てないのが奇跡だって!」


「おお~流石にステラなのです!」



夕食の時、もう既に孤児院の子達と打ち解け始めたキアラであった。


凄いね……


そして何故か私の昔話をする流れになった。


いやまあ、私という者は言わば共通な話題なのだからそういうことにもなるのか?


しかし、昔話と言ってもまだ数年前の話し。


だけど、確かに昔だと感じたね…



「…ステラ。」


「ああ、私の名前。アイシャから貰った。」


「知ってる…頑固爺から聞いたから。」



頑固爺、興味なさそうだけどちゃんと聞いてたんだね…



「アミスティアさんはステラのパーティメンバー(仲間)ですか?」


「……昔はそうかもしれません。」


「今は…たまに厄介な依頼を一緒にこなすぐらい…かな。」



アイシャは私達の答えに何やら不思議そうにしたけど、これ以上は何も聞いて来なかった。



「そう言えば、一応お土産はあるから、後で渡すね。」


「やーた!」「ほんと?」「ありがとう!」「…ども。」



食卓で騒ぐのはあんまりお行儀良くないかもしれないけど、まあいいか。


子供は騒ぐくらいがちょうどいいかもだし。


というより、私自身こういう賑やかさは嫌いじゃないから。




□■□■□■




夕食後はお風呂の時間。


何やらみんなで一緒に入ろうって流れになったけど、私は後で入る事にした。



「じゃー!私達が先に風呂に入るのですー!」


「じゃまた後でね、おねえちゃん。」



いつも元気なあの子が少し残念そうに見えたけど、私はやはり後で一人入るよ。


というわけで、彼女達の風呂が終わるまで中庭で風をあたりながら夜空でも眺める事にしたんだけど…



――スタ、と、足音が背後から伝わってくる。


ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。


近づいた人は、振り返らずとも誰なのかは何となく分かる。



「アイシャもキアラもいい子ですね。」


「…ん。」


「………」


「………」



しばしの沈黙。


気まずい沈黙。


そして金髪の彼女は口を開く。



「私の名前はなに?」


「……」



――――――――。



「………フラクタルさんとクランキーさんは誰だか分かりますか?」


「……」


「狂人さんと頑固爺の名前です。」


「……」


「あなたはやはり変わりませんでしたね…」



ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。



「……あの子達はあなたのお土産に喜んでました。」


「…そう。」



金髪の彼女はこれ以上何も喋らず、中庭を離れた。


ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、と。


静かなになった中庭で、心臓の音だけがずっとうるさいまま。



「……、月は綺麗だ。」




□■□■□■




「……ふうー。」



温かいお湯に浸かれながら軽く息を吹き出し。


リラックスしたまま私は思う。


ああー、何だか今夜は上手く眠れそうにないなー、って。


それはそれとして。



「どうして君も入るの?」



左の方に、少し距離を空けながらアイシャも一緒に浴場のお湯に浸かっている。


てっきり先にあの子達と一緒に入ったと思ってたから、急に入って来た時には少し驚いた。



「賑やかなのは得意じゃ、ありませんから。」


「そう。」



いつも静かな娘だしね。



「先程……」


「?」


「…いえ、なんでもありません。」


「そう。」



……………………。



「…――!」



んー…いきなりなに?まじまじと身体を見られるのは流石に気恥ずかしいんだけど…



「その傷…なに?」


「……今まで少し無茶をしたからね。」



噓です、本当はめっちゃくちゃ無茶をしてました。


服の上では見えないけど、結構身体のあちこちに傷痕を残ってたんだよねー。


こういうのって、見たらあんまりいい気分にはならないでしょう?だから一緒に風呂に入るのをやめたのに…



「治癒魔法では治せないんですか?」


「…治癒魔法って、古傷とかの方が治し辛いみたいだからね。」


「……なら私達の(うた)は?」



詩の一族の詩か……


昔の伝承とかを(うた)にし、語り継いできた一族。


失われた知識や真実を持つ一族、しかしこの一族にはもっと特別な所がある。


歌うことで不思議な力を発生させるという。


魔力の運用だけでなく、詩の表現、上手さも重要で、その全てが効果と威力を影響するという、如何にもな力だ。


その詩は傷を癒す事も出来るけど…ゲーム感覚だと治癒魔法とは似たような効果だったね…?


現実だと詩の一族は謎に満ちているから、分からん。


その力も伝説みたいな扱いだし、先祖は空から降りたとか言うし、情報が碌にない。


でも、ゲームだと治癒魔法と同じくらいの効果だから……



「物凄く上達すれば…或いは?」


「……そう。」




□■□■□■




結局あれから一言もそれ以上は喋らず、私達は風呂から上がった。


孤児院の子達も帰ってたので、私も寝る事にしたんだけど……


ちょっと寝付けが悪い、この感じはちょっと眠れない奴だ。


あーあー、あーあー……ん?


ドンドン、と。


軽いノック音の後、アイシャが入って来た。


ノックの意味は?まあ、いいけど。



「どうしたの?」


「子守唄をしようと思って。」


「…ん…?…なんで?」



思わず身体を起こした。


ホントにいきなりなんで???



「詩の練習をしようかと。」



練習…?



「まさか、変な負い目でも感じたの?」



エリクサーの事とか。


確かにエリクサーなら私の全ての古傷を綺麗に治せるだろう。


けど…



「そもそも私はエリクサーを使おうとは一度も思ってない。」



結局、私はこれからも無茶をし続けるのだから、治す意味がない。


どうせそのうち新しい傷ができちゃうので。



「…もっと上手くなりたいだけです、迷惑でしたらやめます。」


「……迷惑じゃないけど。」


「ではよろしいという事で、歌います。」


「…ありがとう。」


「……――――。」



何も喋らずに彼女は歌い出す。


静かな声で、澄んだ声で。


伴奏のない歌、いわゆるアカペラ。


その詩もしくは歌はとっても綺麗で、聞いてて耳が幸せになる感じだ。


そう言えば、この世界は前世の世界と違って簡単に歌は聴けないから、こんな上手い人の歌を横になりながら聞くのは間違いなく贅沢な事。


前世の()は歌を聞くのが趣味みたいだけど、なる程分かる。


確かにいい、何だかリラックスも出来るし、心地がいい。


でもね、たしかに落ち着く歌声だし、心地のいい旋律だけど…子守唄ってこんな感じなの?


誰かを探し続ける旅、愛する人との約束を覚え続ける旅。


あの地、あの岸辺とあの湖の間にある、その小さな地を求めて。


愛を形にするために、真実の愛にするために。


抽象的で、でも確かに愛する人の事を探し続ける、歌い続けるような、そんな歌。


子守唄にしては、ちょっと違うような……?


でもまあ…いいか、なんか眠気が来たし、寝よう……




□■□■□■




翌日の朝、私のベッドで寝てるのは私だけではないことは目を開けた瞬間で知った。


……ビックリした。


アイシャ…そのまま私のベッドで寝てたの?


ホントにどうしたんだろう???


そういうキャラではないと思うんだけど…?


穏やかに呼吸を繰り返し、静かに寝ている彼女を起こすのも忍びないから……二度寝しますか。




□■□■□■




昼過ぎの頃に孤児院組の子達がやって来た。


金髪の彼女はいない、どうやら私に相談…というより、助けて欲しい事があるらしい。


その事を簡単に纏めると、彼らは私が居ない間に一人新しい友達が出来たみたいで。


そしてその友達はいい子だけど、いい子過ぎて逆に追い詰められたという。


毒親というのはちょっと違うかもだけど、愛がある母親だけど、だからこそこじれたみたい?


なので、早速行動だ。


キアラに頼んで、彼女の変身能力でその子に化けた後、キアラとあの娘を入れ替えて、その娘を家から連れ出した。


詩の一族であるキアラはどうやら一族の中でも詩で奇妙な力を発揮するらしい。


彼女は歌うことで自分の歌った内容に沿った姿になれる。


あの娘を見て少し言葉を交わして、即興というより適当に、あの娘の容姿や声を表す詩を歌ってあの子に変身した。


それで今、私達は孤児院に居る。


あの娘…確か……アウローラ?って名前だったね……私と同じ髪の色をしている娘だ。


どうやらアウトドア派なので、2週間も家から出られないのはキツイらしい。


今は孤児院達の子達と遊んでいる…と思ったら一人でブランコを漕いでいる私の方に寄ってきた。



「ありがとうございます、おねえさん。」



礼を言いながら、彼女は私の横にあるブランコに座る。


孤児院の外にあるブランコは二つだけなのでこれで満員だね。



「どういたしまして、少しは気分転換出来たかな?」


「うん!」



ん、いい笑顔。


しかし参った、何を話せなばいいのかがわからん。



「……食べる?」



なのでとりあえずチョーカー(アイテムストレージ)からチョコレートを持ち出した。



「ふふ、おねえさんの事は前から聞いたけど、なんかイメージと違うね。」


「そう?」


「もっと人の形をした何かと思った。」



可笑しいそうに笑う彼女だけど、流石にこのイメージは酷すぎだと思う。


というか誰、こんなイメージを伝えた奴。



「ティア姉も人が悪いね。」



…あ、ああ、ん…彼女か。


それは、はいすみません。


人の形をした何かです、弁解の余地がない。


流石の私でも、酷い傷つき方をした自覚がある。


けどそれでも止まるつもりはない――いや、止まる選択肢がない。


生まれた時かずっと。


あの時からずっと。



「声も表情も何も籠ってないように見えるけど、ずっと気遣ってくれるし、何も言わずに直ぐに助けに来てくれたって聞いたよ。」


「……それは、」


「優しい人なんだね。」


「それは…違っ…」


「え?」


「…いえ、…ありがとう。」


「……?」



そう、違うんだ。


私は自分の事しか考えてない。


だから、きっと、今夜で君はきっと――



「あ!アウローラだけズルい!私もチョコレート食べたい。」


「リヴリー…」


「大丈夫だよ、君のも…みんなのも有るから。」


「やったー!」



子供の私よりもまだまだ子供の彼女達。


嬉しそうにチョコレートを食べる姿は喜ばしいもので。


でも、今夜過ぎたら多分、いえ、きっと金髪の彼女だけでなく。


私が見せないよに、未練がましく隠している本性を知ることになるだろう。


もう彼女達から懐かれる事もない、笑顔を見せる事もない。


それを寂しいと感じてる自分は確かに存在する。


だけど、それでも、それ以上に私は私を突き動かすものをどうしようもないくらい、止められないんだ。


だから、まあいいか。


いつも通りに、捨てて行こう。


必要なら、邪魔なら。


だって、必要ないから、贅沢だから。


だから。


今日でさよならだから。


未練がましく君たちの笑顔を見納めよ。




□■□■□■




夜が来た。


やる事があるから、途中からあの子達を離れた私だけど。


今、アウローラの家に居る。


もう少しで彼女は帰って来るでしょう。


この私以外に()()()()()()()家に。


扉が開く音がした。


戻って来たか。


これで私は折角自分の事を優しいと言ってくれた優しいあの娘を深く傷つく時が来た。


あーあ、あんまりこの時、来て欲しくはなかったんだけどな…まあ、いいか。



「え?おねえさん?どうしてここに?お母さんは。」


「もういないよ。」


「……え?」


「もういない。」


「――何を言っているの?」



信じられない顔、理解を拒む顔、当然だ。


彼女にはこの状況を理解すら為に必要なものがあんまりにも足りない。



「もういない、私がそうしたから。」


「だから何を言っているの!?」


「――――つ!!!」



扉の方から予想外の人が入って来た。


ああ、君か。



「ティア姉…」


「っ…!」



いつも綺麗な金髪が少し乱れた、恐らく凄く急いでたのが見てわかる。



「あなたという人は…!」


「凄いね、もう状況を把握したのか?」


「あの子達は君に助けを求めたって言ってた、なら、あなたは…また…!?」


「ん…君の想像通りだろうね。」



だって君は不思議と私の事がよくわかる。



「キアラから話しを聞いたよ。」



変身したあの娘から、彼女はアウローラのお母さんからどんな風に接されたのかを。


暴力は一切振るわてないらしい、だってお母さんはアウローラが可愛くて可愛くて仕方ないから。


だけど、可愛過ぎて、家どころか、部屋からすら出されないらしい。


何があったら怖いから、可愛い可愛いアウローラに万が一の事があったら生きていけないから。


でも将来の為にきっと勉強は大事だから、色んな本を部屋に置いた。


歴史から軍略、科学から魔法に、小説やただの絵本まで。


何の脈絡もなく、多種多様というより雑多な数々な本を彼女の部屋に置いて来た。


何本読んだのか、覚えているかどうかもチェックするらしい。


もし足りないと思ったら泣き崩れるらしい。



――全てはあなたのために思っての事なのよ!



と。


試しに友達と遊びたいと言ったら、出ちゃうダメなら家に誘っていいのかと聞いてみたら、怒られた。



――あんなスラム区育ちの子達と遊ぶなんて危ない事させられないわ!いや、人なんてのはみんな危ないんだから、誰とでも関わっちゃダメよ!!



心底恐怖している顔でそんな事言っている始末だ。



「そんな母親の傍に居続けたる、君も壊れるよ。」


「それでも!私は母さんを支えたい!父さんがあんな事になったから…っ…母さんがあんな風になっただけで……!きっと、時間が…!私が…!母さんの傍に居続けたら、私がちゃんと頑張るなら母さんも…!」


「しかっりしてる子だね…でも無理よ、壊れた人間はそんなじゃ治らない、君も一緒に壊れて終わり、だけ。」


「それは傲慢だよ…。」



そうだね、金髪の君、この子の気持ちを全無視しているから。


でも――



「違う、独りよがりだ。」


「…分かっているなら――!」


「分かっていても私は止められない。」



この衝動は絶対に。



「私は何かを救いたくて救いたくて仕方がないんだ。」



救いたいものなんて何一つもないのに。



「そのやり方は間違ってる!」


「知ってる。」



知っててやった。


そもそも私には正しい救い方なんて分からない。


何となく周りの人達と自分を見比べて、自分のやり方が間違っている事には何となく分かるけど。


そもそも私が憧れているあの人達ならこんなやり方は取らないと分かっているから。


それでも正しい救い方なんて分からないから。


あの人達ならもっと上手く出来たかもしれない、正しい救いの元に正しいハッピーエンドを引き寄せるかもしれない。


でも私には出来ないし、知らないから。


だから、間違った方法でも救うね。


理由なんてない。


ただ私は、救いたくて救いたくて仕方がないんだ…!



「だから、あの子には私の救う対象(被害者)になってもらう。」


「この大馬鹿!」



流石の彼女でも怒りが爆発して、ナイフを抜き私に向かって来た。


そのナイフを私はそのまま手で受け止めた。


貫かれた左手は血を流し、痛いけど我慢してそのまま手を押し込み、鍔まで届き彼女の手を掴む。



「やめた方がいい、君じゃ…私に勝ってる訳、ないじゃないか…」


「――つ!」



更に激しくなった彼女だが、ただ私の手を引きはがし、そのまま茫然としたアウローラに寄り添うだけ。



「意味わかんない…」



アウローラは言葉を…呪いを吐き出す。



「なんのお前え!!!意味わかんないよ!!!…許さない!…つ…絶対に…ぐす…っ…っ!許さないから!!!」


「それでいい、それがいい。」



それでも私は君を救う。


独りよがりで君を救う。


聞いた話しでは君は冒険者に夢に見るらしいじゃないか。


なら私は全ての資源を、財産を君にくれても君を一流の冒険者に育てよう。


例え、実力を付けた君は憎悪で私を殺しに来るとしても。


でも、良かった…


金髪の君、私がそぎ落とした君。


やはり君はまともな人だ。


素敵な人だ、優しい人だ、正しい人だ。


なら、きっと私よりも君の傍にいた方がアウローラは良く成長するだろう。


だから、本来は私の館に無理矢理でも連れ込み、彼女には私への増悪を糧とし、成長させるつもりだったんだけど。


君に、君達に任せた方が良さそうだ。


少なくとも私は気付かれないように彼女の成長を見守り、手助けするくらいがちょうどいいだろう。


その方があの子の精神の健康の為になる。


だから、今はこの場を君に任せよ。


ああ…我ながら最悪だ。




□■□■□■




「…っ…ぐす…っ…つ………ひくっ……つ!」


「大丈夫、大丈夫だからきっとまたお母さんに会えますから。」



彼女が去った後、ただ泣き崩れるだけのこの子を私は慰める事しかできない。


こんな事になるかもと思ったから、彼女にはこの子の事を相談するつもりがなかったのに。


本当に…あなたという人は…


「本当に…?どうしてそう言えるの…?」


「あの人は間違ったやり方でしか人を救えない……けど…」



それでも――



「人を救っちゃうような娘だから…」



いつか、笑顔で私に手を差し伸べてくれた時みたいに――


だからきっと――



「あなたのお母さんは大丈夫、きっとまた会える…」


「つ…!…っ…ぐす…っ!……お母さんに…会いたい…つ!会いたいよ…!」


「うん…きっとまた会える。」




□■□■□■




「はあ…」



無自覚にため息を吐いた。


後悔はないし、してはならない。


けど、ため息は吐く。



「…はあ…。」



いつの間にか館まで戻ったか。


右手で門を触れ、開き、中に入った。


いつもの我が家、いつも通りの我が家。


だけど、そうか。


もう違ったね。



「――ステラ!?」「えええ!?どうしたのその血!?」



昨日から、我が家に新しい住民が増えたな…


血、血か…そう言えば左手の血、止めるのを忘れてたな…


なんか少し弱った気がする。



「キアラ薬を!」「う、うん!」


「いや、大丈夫。そもそも薬なら…」



このチョーカー(アイテムストレージ)に有るから。


おもむろにポーションを持ち出し、飲む。


いつもの苦い味、今更慣れた味…だけど今夜は何故かいつも以上に苦い気がする。


……これで、今夜で、本当に…完全に。


あの子達とは……まあ、いいか。


所詮名前を覚えるのすら面倒と思った程度の人達。


だから…いい。


でも…あーあー。


何となく、また外に出て月を見上げる。



「ステラ?」



背後からアイシャの声が聞こえる。


だけど、私は返事をする事なく。


ただ…何となく。


深い意味はなく。



「月が…綺麗、ですね。」



と呟いた。

次はまた多分遅くになります。


それでも図々しく言います、もし面白く感じてくれたら、どうか待っててくださいと。


楽しみにしてください、ありがとうございました!


いい一日を。

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