二人の姫_2
アンリに自分の印象について聞かれたトゥルーシナが説明した。
「フルーラ様は、お顔も御髪も立っている姿もすべて素晴らしいとおっしゃっていましたわ。当然です。リーンさまとご兄弟なのですもの」
容姿のことを言われてアンリが、さりげなく自分のことを言われてリーンがともに微妙な表情になったが、トゥルーシナはそれには気がつかずに続けた。
「そうそう、フルーラ様からアンリ殿下のことで知っていることがないか聞かれましたの。でも、私はアンリ殿下のことをほとんど存じ上げないでしょう?ただ、控えめな方が好みだというのはこの間伺ったので、それを教えてさし上げました」
今度はナイジェルが下を向いて肩を震わせる。
こちらは「控えめな方が」云々の言葉が出てきたことに大爆笑しているのだろう。
しかしトゥルーシナの次のひとことに全員、真顔になった。
「でも、それはもうすでにフルーラ様もご存じのことだったみたいです。それで、私がそれ以上のことは存じ上げないと申し上げたら、少しだけがっかりなさっていました」
「控えめな方が好み」と言う鍵語を知っているのは、アンリと自分以外は、カルドリ帝との面会の席にいたトゥルーシナ姫とフォールシナ姫、エルベルト殿、そしていきさつを聞いたナイジェルだけのはずだ、とリーンは訝しんだ。
アンリとナイジェルも同じことを思ったのだろう。
「フルーラ様はどこでそれをお聞きになったのでしょうね」
ナイジェルがさりげなく聞くが、トゥルーシナは「さあ、わかりません」とだけ答えた。
アンリが場の空気を変えようと
「あのっ、それでクリスチノ姫はそれに対しては何かおっしゃっていましたか」
とおずおずと尋ねた。
トゥルーシナは少し驚いたように目を見開き
「あらっ、アンリ殿下はクリスチノ様のほうを気になさっているのですか」
と聞く。
「ち、違います。違いますが後学のために」
「トゥルー、私もそうだが、アンリは女性の気持ちがあまりわからないようなのです」
とリーンもアンリを擁護した。
トゥルーシナは少しだけ微笑んで、
「控えめな方が好みという話はもちろん、アンリ様についても特にはおっしゃっていませんでしたよ。ただ、婚約者の話が少し出た時に、クリスチノ様も婚約者はいらっしゃらないようなそぶりをなさっていました。でも、覚悟はなさっているみたい。王女として生まれた以上、政略結婚も仕方がないっておっしゃって」
と答える。
そして、思い出したというように両の手を軽く合わせて
「そうでした。そうはいっても彼女にも希望はおありなのです、一番の望みは身持ちのよい方だそうですよ。お相手がそんな方なら身分も気にしないのですって。だってほら、お兄様はあのエルベルト殿下です。彼の行状を間近に見ているからだって、笑ってらっしゃいました」
「えっ、それは噂に過ぎないでしょう。本人を実際に見れば、絶対に違うってわかりますよね。それにその場にはフォールシナ姫もいらっしゃったでしょうに」
とアンリが気の毒そうに言う。
フォールシナはエルベルトの婚約者なのだ。
「そうなのです。ルシィは苦笑いしていました。私が、ご本人を知るとそれが全くの嘘だとわかりますねって言ってさし上げたら、クリスチノ様も笑って頷いて、実はそれを方便にしておりますって。意外にユーモアのある方ですわ。それに、エルベルト殿下が近くにいらっしゃるからどんな美丈夫にもあまり魅力を感じないのですって」
その言葉に全員頷く。
確かにエルベルトは同性の目から見てもほれぼれするような男ぶりだ。
トゥルーシナはくすっと笑う。
「本当にお兄様がお好きなのね。あっ、お兄様と言えば、フルーラ様はお年が離れすぎていて、ほとんど一人っ子だったと寂しそうでしたわ。その分甘やかされたとも」
話題に一区切りついたところで、リーンは自分の気になっていたことを尋ねた。
「フォールシナ姫のことは紹介したのですか」
「はい、最初のお茶会で顔見せして。そのほうがいろいろと都合がいいと思いましたの」
「根回しですね」
ナイジェルが頷く。
「ええ。皆さんと仲良くなりたいとお茶会を開こうと思いましたのに、その時にルシィを呼ばないなんておかしいでしょう。私がルシィだったらすごく悲しいですもの。ルシィも知らせてかまわないって言いましたし。それに、隠していてもいずれはわかってしまうでしょう?知っている方がいれば、もしかしたらお披露目の時も滑らかに事が進む気もしましたの」
「なるほど、それを聞いた二人の姫のご様子は」
「お二人とも、とても驚いていらっしゃいましたが、すぐ受け入れてくださいました。クリスチノ様は、双子として生まれたのに生き別れになったことに同情し、見つかって幸せでいることに感激していらっしゃいました。フルーラ様は」
と一瞬口ごもり
「フルーラ様は、王族や貴族の庶子が認知されることがあることを例に、それが身近にあったのだと納得していらっしゃいました」
と続ける。
それに対し、アンリが憤慨したように言った。
「ちょっと待ってください。フルーラ姫、おかしいです。フォールシナ姫は庶子ではないですよ。どこをどうとらえるとそんなことになるのです」
ナイジェルが
「うーん、どこか聞き間違えた?のかな」
と庇ってみせようとするが、アンリは収まらない。
「どこを聞き間違えたら、フォールシナ姫が庶子になるのです」
トゥルーシナが
「私もすごく引っかかったし、クリスチノ様も微妙な表情をしてらっしゃいました。でも、ルシィがその場を荒立てたくないみたいだったから」
とその時のことを思い出したのか、少しばかり苛立ちを込めて説明した。
「フォールシナ姫がそんな様子なら」
と皆は渋々納得する。
「では、ルシィとエルベルト殿の婚約は」
リーンが尋ねた。
「それは話していません。殿下の妹でいらっしゃるクリスチノ様はご存じでしょうが、おそらく殿下とは面識のないフルーラ様にそれをお話しする必要性は感じなかったので。ルシィも婚約者のことを聞かれていましたが、ただにこにこしてやりすごしていました」
とトゥルーシナが答える。
「それは賢明な判断ですね」
一同が頷いた。
そろそろエルベルト殿とフォールシナ姫もこちらに着くころだろう。
「では、二人が到着する前に念のために段取りを見直しておきましょうか」
リーンが紙を開いた。




