二人の姫_1
婚約式を三日後に控えて、リーンは特別室にいた。
二十日ほど前、カルドリとエルベルトの面会に使用した例の部屋だ。
部屋にはほかにナイジェルとアンリ、トゥルーシナがいる。
遅れて、エルベルトとフォールシナも合流することになっている。
婚約式の手順の確認が目的の会議だったが、先に四人だけで集まっていたのには理由があった。
ひとつにはもちろん、到着して間もないエルベルトにフォールシナと会う時間を作ることだ。
二人はカルドリとの面会の時に会って以来だから、二十日間近くは会っていなかった。
二十日間という日数は、三年以上顔を合わせていなかったリーンとトゥルーシナからすればそんなに長期間というわけではない。
しかし、フォールシナがスイネ教会にいたころはほぼ毎日エルベルトと会っていたのだ。
二人とも再会の日を一日千秋の思いで待っていただろう。
要するに会議の前に二人きりでの逢瀬をという計らいである。
もう一つの理由はトゥルーシナとリーンたちで情報を共有する時間を作ることだった。
現在、城に滞在している隣国の姫二人についての情報共有である。
一人はエルベルトの妹なので、彼がいると些か話しにくい。
そんなこともあって、集合時間を二人だけずらして案内しておいたのだ。
リーンがトゥルーシナを気遣う。
「急に二人の姫のもてなしを任せて驚いたでしょう。こちらはとても助かっているのだけれども」
ナイジェルも言う。
「いざとなったらチューリング公爵夫人に助けを求めようかとも思っていましたが、同年代のトゥルーシナ姫がお相手をしてくださったので、お二人の姫も肩のこらない滞在を楽しまれていることと思います。ありがとうございます」
チューリング公爵夫人とはナイジェルの母であり、リーンとアンリの叔母であるクララベルのことである。
フォールシナを連れてきた当初は、王城の侍女の数が心もとないということもあり、ナイジェルの邸で過ごさせてもらっていた。
そばで彼女の世話を焼いていたのがクララベルだ。
ナイジェルによると娘がいないせいで、ことのほか年ごろの娘をかまいたいらしい。
「ありがとうございます。ルシィと二人で過ごす時間も楽しいですが、ほかの方々とご一緒するのも新鮮です。今流行している読みものや嗜好品、ドレスや装飾品のことなどについておしゃべりし、お茶会は毎回楽しいひとときとなっています。よその国でどんなものが作られているのか、何がはやっているのか、とても勉強になります。といってもまだ三回ほどですが」
トゥルーシナはそう言って、少しだけお茶会の話題の内容を披露した。
ナイジェルに肘でつつかれ、アンリが神妙な面持ちになって聞いている。
「四人とも好みは似ているのですか」
「みんな少しずつ違いますのよ」
「たとえば」
「そうですね。お菓子は私とフルーラ様は甘いものが好きだし、ルシィとクリスチノ様はちょっぴりほろ苦い方が好き。食感も私とルシィはサクサクしたものが、フルーラ様とクリスチノ様はしっとりしたもの好きです」
リーンは心の中に「トゥルーは甘くてサクサクしたお菓子が好き」とメモした。
「それから読みものだと、私とルシィは冒険ものが、フルーラ様は恋物語が、クリスチノ様は歴史ものがお好きみたい」
「トゥルー、冒険小説が好きだったの?」
思わずリーンがつっこむ。
トゥルーシナが頷くと、リーンはすごく意外そうな顔をして知らなかったなと呟いた。
ナイジェルが咳払いし
「トゥルーシナ姫からご覧になったお二人の姫の印象やようすは」
と尋ねて、アンリに合図した。
よく聞いておけ、ということだろう。
トゥルーシナは「そうですね」と少し考えて
「フルーラ様は明るくお話し好きな方で、クリスチノ様は物静かで聞き上手な方ですよ」
と言う。
「えっ、意外ですね。私の印象は逆です」
ナイジェルが無遠慮に反応した。
トゥルーシナは苦笑して
「もしかして、お顔の印象だけでお決めになっているのでは。いけませんよ」
とやんわりと注意する。
ナイジェルが恐縮するようなそぶりを見せた。
トゥルーシナは少し微笑みながら
「フルーラ様は今回の婚約式のあとの舞踏会で何としても婚約者を見つけてくるよう、お母君のミリアーラ様から厳命されているそうです」
と同情交じりに話した。
ミリアーラはリーンとアンリの母フィオラの従妹だ。
フィオラの母カーラはミリアーラの母ノーラの姉で、ともにレキラタ筆頭公爵のサイザリス家の令嬢だった。
リーンとアンリ、ナイジェルが顔を見合わせる。
レキラタの招待客は本来王弟とその妃だった。
それがひと月ほど前に妃に妊娠の兆しありということで、異母妹に変更になったはずだ。
トゥルーシナは三人のようすに気づかずに
「それでね、彼女、ことのほか、アンリ殿下のことを気にされていましたのよ」
とアンリの方を見て微笑む。
ナイジェルが
「確かにアンリとフルーラ姫がくっついたら、カラチロともレキラタとも縁続きになりますね」
と、冗談交じりに言う。
アンリもリーンも先日父キーツと会ったとき、母の死にレキラタが関わっている可能性を聞かされていた。
リーンが聞きとがめて
「ナイジェル、あんまり余計なことを言うなよ」
とたしなめる。
ナイジェルは悪びれずに
「だってそうでしょう。クリスチノ姫と婚約したら、四国のうちレキラタだけが孤立します」
と反論した。
カラチロの皇女二人はそれぞれルトリケとテリクに嫁ぐ。
テリクの王女であるクリスチノがアンリと結婚することになれば、確かにレキラタと結びつく国がない。
しかし、リーンは
「アンリには、心から添い遂げたいと思う人を見つけてほしいのだ。外交や政治など無関係に」
と真顔で応じた。
二人の話をよそに、少し困ったような顔をする。
アンリは先のキーツの話と到着時のフルーラのようすを思い出したようだ。
「フルーラ姫はなんとなく引っ込み思案な感じでしたね。王弟の妃と言えばヒラリス殿下のお妃のような方が理想だと思うんだけど」
と呟いた。
そして困惑した気持ちをごまかすように
「えっと、それで、僕のことは何と」
とトゥルーシナに振る。




