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姫の到着

もうすぐ昼食だという時刻に、ナイジェルは急な来客を告げられて対応に追われていた。


リーンはトゥルーシナと王都に出かけてしまっている。


二人が出かけてからそんなに時間は経っていない、


このままだとまだしばらくは戻らないだろう。


マキシムを呼んで、騎士を手配させた、


リーンに戻るよう伝言するためだ。


アンリが客の到着を聞いて、慌てて駆けつける。


客は二組。


本来なら、ともに今日の夕方以降に到着する予定だった。


しかも、時間も少しずれるはずだった、


ところが二組が同時にやってきて、ともに招き入れられるのを今か今かと待っている。


「なんか、間が悪いな」


とナイジェルがぼやけば、アンリが


「僕、いきなり女性軍団二組も無理」


とこぼす。


ナイジェルは「はぁ」と溜息をつきながら、


「わかった、わかった。アンリは私の後ろでにこにこ笑ってて。それで、最低限の挨拶でいいから」


と諦めたような顔をした。


アンリが聞く。


「でも、兄上がいらっしゃらないから、代わりに挨拶はしなくちゃね。どちらの国から挨拶したらいい?」


「ルトリケと親密な国からと言いたいけど、レキラタもテリクも同じくらいだね。それにどちらの国も規模も国勢も同程度だ。あとはもし随伴者がいれば随伴者が年上のほうかな。だけど、今回はいないから…おまけに二人とも同い年だし…そうだ、じゃあ、アンリ自身がより親しみのあると思われる方からすれば」


ナイジェルからそう言われて、


「じゃあ、クリスチノ姫かな。兄君のエルベルト殿下は、兄上の婚約者の双子の妹の婚約者だし、彼とはこの間話をしたばかりだし」


と無造作にアンリは決めた。


ナイジェルは「へぇ」と意外そうな顔をする。


「てっきりフルーラ姫かと思ったよ。アンリはヒラリス殿下を尊敬してただろ?いいの?」


ヒラリスはフルーラの異母兄でレキラタの王の弟だ。


「うーん。いいかな」


ナイジェルにはもちろん話していないが、一週間前に離宮で父から母の死にレキラタが関与している可能性を聞いてから、かの国に対しずっとわだかまりを抱えていたのだ。


「ん~、じゃあ、それでよろしくね。向こうが気にしているようだったら、その次は順番変えてあげて」


ナイジェルは特に追及もせず、アンリと簡単に打ち合わせたあと、この時間だと一行の昼食も必要かも、と従者に声をかけ、厨房に手を回した。


また


「到着が少しだけ早まったが、部屋の用意はどうかな。たぶん整っているはずだけど」


と、念のため確認させる。


そしてあまり待たせるわけにも、と客を迎え入れた。


客たちは、婚約式までの一週間を視察や観光、社交などの絶好の機会と見なして準備してきているようだ。


アンリをして女性軍団二組と言わしめたのは、テリク国第一王女クリスチノ一行とレキラタ国第一王女フルーラ一行である。


クリスチノはトゥルーシナの双子の妹フォールシナの婚約者エルベルト王子の同母妹だ。


フルーラはレキラタの王と王弟の異母妹で、本来は王弟の妃が来る予定が、事情があってフルーラに変更された、


ともに隣国からの姫二人でそれぞれ侍女を連れてきている。


クリスチノは二人、フルーラは七人。


ナイジェルは固まる。


城のほうの女手が絶対的に少ないので随伴者で賄えるのは助かるが、七人も侍女が来るとはさすがに考えていなかったようだ。


それでも何とか、頭の中で彼女たちの部屋を割り振ったのか、得意の笑顔を貼り付けて出迎えた。


「私はこの国の宰相、ナイジェル・チューリングと申します。このたびは遠路はるばるようこそお越しくださいました。現在、皆さまのお部屋を準備しております」


アンリは少し顔をこわばらせつつも


「王弟のアンリ・ルカリス・ルトリケです。王はちょうど不在にしております。代わってご挨拶申し上げます」


と言い、まずクリスチノの前に跪いた。


「お待ちしておりました、クリスチノ姫」


クリスチノはごく自然にすっと手を差し出し、アンリのキスを受けた。


次いでフルーラの前に。


「お待ちしておりました、フルーラ姫」


と跪く。


フルーラは恥ずかしがってかなかなか手をさし出そうとしなかったが、侍女に「姫さま」と耳打ちされておずおずとアンリのキスを受けた。


二人の姫君は城の侍従らに案内されてそれぞれの部屋のほうに向かったようだ。


今回人を招待するに当たって、賓客を城に泊めることとし、東側を女性、西側を男性の居室と決めている。


東側にはトゥルーシナやフォールシナの部屋もある。


二人の姫とその一行が去ったあと、ナイジェルが急に顔を緩めて、いたずらっぽくアンリに話しかけた。


「アンリ、どっちが好みだった?」


アンリは閉口しながらも


「うーん、わからない。僕、緊張してて、あんまり顔とかしっかり見てないから」


と生真面目に答える。


「フルーラ姫、どう?アンリの母上の面影があるんでしょ?今日の挨拶の時のようすも、控えめな女性が好きっていうアンリの好みなんじゃない?」


「うーん、よくは見てないけど、母上とは似てないような気がする。フルーラ姫もとても清楚な感じの方だったけど」


キーツのところで見た肖像画を思い出しているのだろう。


そして、そう言ったあとで


「それに、あれは控えめっていうより、ただ恥ずかしがってるだけじゃないかな」


と続けた。


「なんだアンリ、しっかり見てるじゃない。しかも意外と言うね」


「と言うか、一国の王女たるもの、もう少しこう、なんというか、ほら」


「はいはい、わかった、わかった。手厳しいね」


ナイジェルはアンリの言動を微笑ましいと感じているのだろう。


ポンポンと肩を軽く叩く。


「では、その、厳しいアンリの目から見て、クリスチノ姫はどういう印象?」


「うーん、きれいな人だね。肖像画はエルベルト殿下に似ていたけど、実物はもっと華があった。所作は自然で好感が持てた」


「なら」とナイジェルが身を乗り出す。


「でも、僕の隣に立ってもらうのは恐れ多いかな。彼女、王とか王太子じゃないと釣り合わないよ。僕、王弟だし」


ナイジェルはなおもアンリの肩をポンポンと叩きながら


「そうかそうか、第一印象がテリクに軍配、と。まったく、アンリって」


と笑った。


「アンリがなんだって」


いつの間にかリーンが戻っている。


街ゆきの際の服から着替えていた。


予定よりも早い客の到着と二人の姫のようすをナイジェルとアンリから聞いて、一言だけ


「アンリ、先入観は持たないようにな」


と釘を刺した。

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