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街ゆき_2

店先でトゥルーシナが


「あっ、これ、かわいい」


とスズランとハクチョウをあしらったマグカップを手に取る。


スズランはトゥルーシナの国カラチロの国花、ハクチョウはルトリケの国鳥で、ともに婚約記念のシンボルとして採用された。


「こうして製品になった現物を見ると、このモチーフを採用して正解だったようだな」


リーンは揃いの小皿や小鉢を手に取り、満足げに呟いた。


隣で若夫婦らしい男女が、モチーフのついたティーカップやソーサー、ポットをセットで買っている。


「ティータオルは三軒先の雑貨の店で、揃いの柄が売ってるよ、奥さん」


店の主人からそう言われて妻らしい女性が頬を染めていた。


別の店にはリーンとトゥルーシナの肖像画をうつした絵皿もある。


「これちょっと恥ずかしいね」


とトゥルーシナが照れ臭そうにした。


隣には工芸品の店があり、アクセサリーを売っている。


スズランとハクチョウそれぞれのピンブローチをセットにして売っているのを見て、


「なるほど、こういう売り方もあるのか」


とリーンが感心した。


その隣にはネックレスと銀でできた二種のモチーフが飾られている。


ネックレス一本に一種類ずつ通して、二本を重ねづけしたマネキンや、一本に二種類一緒に通したネックレスの見本が置かれていた。


リーンは珍しそうに見る。


一瞬どこかに行っていたトゥルーシナが


「シュルツ、お待たせ」


と戻ってきた。


歩き出そうとすると、トゥルーシナが店の列の途切れた場所に誘う。


「どうかした、トゥルー?」


「シュルツ、目を閉じて」


「ん?」


目を閉じていても、トゥルーシナの顔が近づくのがわかった、


えっ・


ええっ。


こんなところで何?


何だろうとどぎまぎする。


トゥルーシナはリーンの鎖骨のあたりを触っていたようだ。


ややあって、


「もう開けていいよ」


と彼女が言った。


そして、にっこりと笑って、ほら、とリーンの襟元を指した。


リーンが首を曲げて指された先を見る。


「スズランのピンバッジだ」


「シュルツは、私の服にこれをつけて」


とスズランのピンバッジを差し出した。


トゥルーシナに顔を近づけると優しい香りがした。


ピンバッジをつけながら


「いつの間に買ったの」


と尋ねると、トゥルーシナは


「えへっ」


と舌を出した。


リーンが知らないうちにピンバッジのセットを買ったらしい。


「二人でつけると恋人ぽいね」


トゥルーシナが少し恥ずかしそうに笑う。


王と皇女が身に着けるにはあまりにもつつましい装飾品。


けれどその控えめな、小さなかたちが、リーンにはたとえようもなくうれしかった。


通りを挟んで向かい側からは「ハーリード領の朝採りりんご、いかが」という呼び込みの声が聞こえてきた。


ハーリード領のりんご、と聞いてリーンはスイネ教会でのことを思い出す。


「ハーリード領と言えば、その中にスイネ教会というテクレ教の教会があってね。そこにルシィはいたんだよ。見つけた時、ルシィが籠一杯のりんごをもいでた。そのあとすぐエルベルト殿がやってきて籠を持ってあげてたんだ。どんな格好をしていてもお似合いの二人だったよ」


「えっ、そんなことが。私も二人の仲睦まじい様子、見たかったな。じゃあ、この中にスイネ教会のりんごもあるかもしれないね」


客の誰かが店番に言う。


「ハーリード領からここまでだと、朝は朝でも昨日の朝だろう」


「何言ってんだい、道が整備されて、時間が短縮されたんだよ:


店番が言い返した。


リーンがスイネ教会に行ったときは馬をとばして行って帰ってくるのに一日かかった。


ほんの三、四週間前のことだ。


それが、今は朝に収穫されたりんごが昼前には店で売られている。


リーンはやってきたことの一つが実を結びつつあることに少しほっとした。


いきなり、キュウッというお腹の音が聞こえる。


見るとトゥルーシナが真っ赤になっていた。


「私、ごめんなさい」


「ううん、お腹すいたよね」


とリーンは辺りを見回し、あそこ、とトゥルーシナに知らせる。


クレープの店だ。


ナイジェルから今朝、耳打ちされた店のひとつだ。


座って食べようと、店の近くにある広場のベンチに二人で並んで座った。


トゥルーシナはハムやチーズ、野菜を巻き込んだクレープ。


リーンは生クリームに柑橘のマーマレードを添えたクレープ。


「シュルツが、甘いもの好きだったなんて。意外」


「と言うか、こんな時じゃないと食べられないから」


リーンはそう言いながら、トゥルーシナのほうにからだごと向いて


「本当は違う味だったら分け合うこともできて楽しいだろうと思って」


と微笑む。


トゥルーシナもリーンの方にうれしそうな顔を向けて


「ほんとだ。シュルツ、はい、あーん」


と、自分のクレープを差し出してきた。


しまった。


先制攻撃だ。


リーンは目を見開く。


でも差し出すトゥルーシナは耳まで赤い。


かわいい。


差し出されたクレープが羞恥のために引っ込められないうちに慌ててかじりついた。


先を越されてしまったな。


「トゥルーも、はい、あーんして」


トゥルーシナはうれしそうに口を開ける。


「あっ、甘くてちょっとほろ苦い。おいし~い」


目を細めて、頬に手をやり、本当においしそうに食べた。


リーンはなぜかわからないが負けてしまったような気持ちになった。


だが、ふと見ると、トゥルーシナの口もとにクリームが少しついている。


「トゥルー、こんなところに」


とリーンは手を伸ばし、そのクリームを指でそっと取り除いた。


その指を今度は自分の口もとまで持ってきて、下でペロッと舐めて見せる。


「ほんとだ、おいしい」


リーンの仕草にトゥルーシナはさっきよりもさらに赤くなって、うつむいていた。


勝ったっ。


リーンがわけのわからない勝負をしているころ、王宮ではちょっとした騒ぎが起こっていた。

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