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午後の執務室_3

二人の王女の肖像画を並べてみる。


向かって左側に置かれた一枚はうねるような金色の髪と深い青色の目、透き通る白い肌、彫りの深い顔立ち。


華やかな美しさが目を引く。


もう一枚はカフェオレにさらに白を混ぜたような薄い薄い茶色の髪が真直ぐに流れ、飴色の瞳が印象的な優しい顔立ち。


清楚な美しさを湛えていた。


ナイジェルが、二枚の絵の中央に立つ。


向かって左側の絵に右手を、向かって右側の絵を左手に軽く置いて


「これ、どちらがどなたかすぐわかるでしょ」


いたずらっぽく尋ねた。


アンリもリーンも


「金色の髪の女性はエルベルト殿下を思い出させるから、クリスチノ姫。消去法でこちらがフルーラ姫かな」


と絵を指し示しす。


ナイジェルはその通りです、と笑った。


リーンが


「フルーラ姫は亡くなった母上と雰囲気が似ていると聞いたが」


と言って、フルーラ姫の肖像をじっと見つめる。


アンリはリーンの言葉には反応せず


「どちらもきれいな人だね。僕、ダンスの練習だけはしておくよ。兄上に恥をかかせるわけにはいかないからね」


とだけ答えた。


確認が終わったところで二枚の肖像画をしまう。


元あったように布で覆いながら、ふと思いついたようにアンリが言った。


「兄上、兄上はトゥルーシナ姫との婚約を父上にお話しになるのですか」


先ほど少しばかり父親の話が出たからだろう。


リーンが物憂げに言う。


「実は私もずっとそのことを悩んでいたのだ。もちろん、私から言わなくても情報はいっているはずだし、正直なところ私は顔を合わせたくない。向こうだって、私の顔など見たくもないだろう。私が父上を玉座から引きずり下ろしたのだから。だが、だからと言って何もこちらから言わないというのも大人げない。それにどこかで父上とけじめをつけたいと思っていた」


「やはり何らかの形で報告はすべきでしょうね。リーンからすれば三年前に婚約を台無しにされたとはいえ。ただ先王は離宮に引きこもっていはしますが、名目上は追放された身。そういう場所に王が直接出向くというのはなかなか」


とナイジェルが真顔になる。


だが、そう言いながらも立ち上がり、机の上の帳面を手に取った。


中にリーンの予定が書き込まれている。


「それだけではない。君たちもわかっている通り、今も私は父上のレキラタ侵攻を許せないのだ。終わったこととか、もう裁かれていることだなどと割り切ることはまだ私には到底できない。会えば婚約を報告するというよりもそっちを責めそうで」


リーンの言葉を聞いて、黙っていたアンリがさっと手を上げた。


「僕も行きます。兄上の婚約の報告とは関係ないけど」


「えっ」


とナイジェルが迷惑そうにする。


「二人一緒にまたいなくなったら、、」


リーンも


「なんでだ。自分が行くときはマキシムを連れて行こうと思っていたが」


とアンリの気持ちを訝しむ。


「どうして僕じゃなくてマキシム?」


「護衛だ」


「兄上、マキシム以外にも護衛はいるでしょ。マキシムを自分の都合で振り回しちゃダメです。婚約式が迫ってきてほかにも仕事がいっぱいあるんだから」


リーンを嗜めるように言ってアンリは話を続けた。


「僕が行きたい理由はちゃんとあるんです。さっき母上の話が出たでしょう。僕、母上の話って誰からもほとんど聞いたことがありません。肖像画もないし。そもそもどこから嫁いでいらっしゃったのかも」


「確かに、そうだな。調べればわかることもあるのかもしれないが、そもそもなぜかそこには疑問を持たないまま、ここまで来てしまった気がする。叔母さまのナイジェルの母上を見ても、自分の母上のことなど考えないようになっていたし。羨ましいとか思った記憶もなかった。ルトリケの王族には母という存在はないのだと本気で思っていたこともあった」


ナイジェルが痛ましそうにリーンを見た。


恐らくリーンからそんな話を聞くのは初めてだったのだろう。


「僕も多かれ少なかれそうです。でも、兄上とトゥルーシナ姫やエルベルト殿下とフォールシナ姫を見ていて、父上と母上ってどうだったのだろうと思って。それで父上から母上の話を聞こうと思ったのです。父上だけが本当の母上のことを知っていると思って。父上のしたことはもちろん僕も許せないんだけど、もしあの人もこの世からいなくなると、母上のことを一番よく知っている人が僕の周りにいなくなる。母上の話を聞けなくなるから」


母上の話。


確かに私自身もほとんど聞かされたことがない。


でも私とアンリが生まれるまで母上は父上と過ごしていたはずだ。


最低でも三年。


だが、物心ついたときにはもう、おじいさま、父上、弟、と男しかいなかった。


身の回りの世話はおじいさまや叔母さまの侍女にかわるがわるやってもらっていた。


誰か特定の女性にずっと世話をしてもらったということはほとんど記憶にない。


おじいさまと父上は不仲で、父上は私たちを遠ざけていた。


だからいつの間にかおじいさまと過ごすようになってしまった。


「考えてみると、父上ともう何年も話らしい話をしていないな」


「本当に。三か月半ほど前に兄上が即位して父上が追放を言い渡されたときも、直接かわす言葉はありませんでしたね」


アンリがしみじみと言うと


「王族、とは言うが、家族でもあるのにな」


と、リーンも相槌を打つ。


そして二人で


「会えば、嫌な気持ちになるかもしれないがっ」


「会えば、嫌な気持ちになるかもしれませんが」


と笑った。


ナイジェルが先ほどの帳面をめくりながら


「いいでしょう、二週間後。二週間後なら、なんとか二人とも予定を空けられます。先触れを出すのにも十分です」


と言って、片目をつぶった。


「二週間後と言うと、婚約式の二週間前か。ちょうどいいかもな」


リーンの言葉にアンリも微笑んだ。


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