面会_11
リーンは、カルドリから「四国の平和のためにテリクの王に」と、再度求められたエルベルトの横顔を見ていた。
エルベルトはじっとカルドリの目を見つめているようだったが、カルドリの話が終わると即座に
「フォールシナ姫と結婚したとしても、自分が王になろうとするかどうかはわかりません」
とだけ言った。
その言葉にカルドリは心底不思議そうな顔をする。
「貴殿は私の本心を聞いてなお、そう言うのか。四国の恒久的な平和、四国とも豊かになることは私にとっては悲願のようなものだが」
「皇帝陛下、どうぞお聞きください。それは私も同じです。誰がそうした、争いのない未来を望まないでしょうか。心ある君主ならみなそう願うはずです。ただ」
エルベルトはそこで一呼吸してから告げた。
「陛下は肝心なことをお忘れになっていらっしゃいます」
エルベルトの言葉に目を眇める。
「肝心なこと?どういうことだ」
エルベルトは言葉を選ぶようにゆっくりと話す。
「それは、フォールシナ姫自身の気持ちです。フォールシナ姫は、ルシィは、陛下のために動く人形ではありません。姫のお父上であろうと、国で一番地位の高い皇帝陛下であろうと、いや、誰であろうと、ほしいままに動かしてよい存在ではありません。ルシィの気持ちが大切です。そして私もまたルシィの望むように生きたいと思っています。ルシィと二人で幸せになることが私の一番の望みなのです」
エルベルトの語調が徐々に強まっていった。
「ふん、皇族に生まれた娘だぞ。そんな戯言を」
カルドリは素っ気ない。
その言葉を聞き咎めたトゥルーシナがエルベルトに加勢した。
「おとうさま、私の話もお聞きください。ルシィはついひと月前まで平民でした。貴族の教育は受けていたかもしれませんが、心得までは無理でしょう。まして皇族です。生まれた時から皇女だった私とは立場が全く違います。それにそのように育てられた私だって、相手がリーンさまでなければ嫁がないと、前におとうさまにも申し上げたでしょう。添い遂げようとするのがリーンさまだったからこそ、彼の特別な存在でありたいと思ったのです。平和を願うおとうさまの気持ちはもちろんよくわかります。そうおっしゃるおとうさまを私も誇りに思います。でも、それとフォールシナの結婚とは別の話です。どうか、なんの条件もつけずにルシィとエルベルト殿下の婚約を許してさし上げてください」
カルドリは黙っている。
今度は龍痕の話を初めて聞かされたフォールシナが、横を向き、今日初めてカルドリのほうに向いて語りかけた。
「皇帝陛下にお尋ねいたします。もし私が龍痕の恩寵など持っていなければ、陛下もエルベルト様との結婚を簡単にお許しくださったのではありませんか。なまじ恩寵があるから」
と少しだけ言い淀み、改めて真直ぐな言葉で吐露する。
「なまじ恩寵があるから、私をそのような道具としてお考えになるのです。先ほど陛下は、恩寵は無欲の者を欲深にしかねないとおっしゃいました。けれど、それは陛下も同じではありませんか。」
カルドリは一瞬度肝を抜かれたような顔をした。
そしてすぐ寂しく笑う。
「なるほど、そうかもしれんな。フォールシナが生きていることを知り、フォールシナの龍痕に囚われて、私は四国の平和という欲を出したというわけか。本来はフォールシナが生きていたことにまず感謝し、ただ喜ぶべきだったのに」
そう言って、フォールシナのほうに顔を向けて、頭を下げた。
そのあと今度は自嘲気味に言う。
「争いのない未来の実現は、恩寵などに頼らず、まずはおのれ自身ができることをもっと模索し、努力するべきだということだな。自分でも少しは頑張っているつもりではあったが、まだまだ足りないということだ。本当に、私こそが恩寵によって欲深になっていたとは。まったく皮肉なものだな」
そのようすにフォールシナが逆に慌てた。
「申し訳ありません。皇帝陛下に向かって、差し出がましいことを申しました。陛下、いいえ、おとうさま、ごめんなさい」
おとうさまと呼ばれてカルドリは目を見開く。
「私もルシィと呼んでも」
フォールシナが頷いたのを見て、カルドリは
「エルベルト殿とルシィの考えについては理解した。私の考えが間違えているとは決して思わないが、未熟なことは確かだろう。そして、それにリーン殿もトゥルーも巻き込んでしまった。龍痕の恩寵は心に留めておいてほしいがそれに囚われすぎるのもいけない。アンリ殿にも不快な思いをさせたな」
とにこやかに言い
「ここに私カラチロ帝国皇帝カルドリ・カラチロは第三皇女フォールシナ・カラチロとテリク王国第二王子エルベルト・リューリュ・テリク殿下の婚約を正式に認める」
と宣言した。
エルベルトが微笑む。
「これでテリク国王の許可を得ることができます。ありがとうございます」
そこにリーンがカルドリに伺いを立てた。
「フォールシナ姫の存在はまだ知られていません。お披露目はどのように」
「リーン殿とトゥルー婚約式後に舞踏会があるだろう。その冒頭で発表できないか」
「承知しました」
それを聞いてエルベルトが遠慮がちに尋ねる。
「その時にその場で私が婚約の申し込みをしても」
「それがいい。いや、むしろ是非そうしてくれ。でないと、あとがうるさい。ルシィも愛らしいから、先にエルベルト殿が手を打って、他の者の求婚を牽制しておいてくれないと」
カルドリが重いものを下ろしたかのように晴れ晴れとした顔で快諾した。
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「面会」今回で終わりです。
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