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面会_10

面会すぐの時点で、トゥルーシナとリーンの婚約式と同時にフォールシナとアンリの婚約発表をすることを提案したことについて


「ああ、あの時点で思いついたのがアンリ殿だけだったからだ。アンリ殿はリーン殿と同じく、私が尊敬してやまないサーシ殿の孫だ。信頼できるし、誠実な男だとわかっている。龍痕のことももちろんある。だが加えて、突然第三皇女と発表されたフォールシナが、いらぬ求婚の嵐に巻き込まれるのを避けたかったという思惑もあったのだ。それにルトリケは今、三国の中では国力は最下位に落ちてしまっている。二人を娶せても、周辺国とのバランスをそこまで崩さないだろうとも考えていたのだ。なにより、二人一緒のほうがというアリシアナの言葉もあった」


とカルドリは説明した。


信頼できる、誠実な男などと思わぬ褒め方をされて、少し照れながら、アンリが尋ねた。


「ご自分の国で探すというお考えはなかったのですか」


「カラチロの貴族に嫁がせてみろ。恩寵は無欲の者を欲深にしかねない。元々謀反の可能性のあるやつらはともかく、そうでない者も望めば叶うと思えば何をしでかすか。たとえばそいつらが邪な考えを持ちでもして、国家の転覆など考えたらどうする。それこそ目も当てられないぞ。幸いカラチロは長らく平和で、民は豊かだ。現皇族も民から支持を受けているのに、いらぬ混乱の可能性などつぶしておくに限る」


リーンにはカルドリの些か大袈裟ともいえる心配もよく理解できた。


恩寵は漠然としたものだ。


しかし、結婚によってそれがもたされるということは、場合によってはトゥルーシナの嫁ぎ先のほうがカラチロよりも勢力が大きくなるということだ。


トゥルーシナの結婚相手にカラチロが脅かされる可能性があるということを示している。


それが国内で起こってしまうと下手をすれば内乱を招き、民は疲弊する。


さらに国力が弱まれば大国カラチロ帝国といえども、他国からの侵略を許してしまうだろう。


これは決して杞憂ではないのだ。


リーンにはカルドリの気持ちが痛いほどわかった。


アンリが問う。


「国内はだめ、ではルトリケ以外の他国からというのは」


カルドリが苦笑する。


「周辺を見ても釣り合う相手が見当たらなかったのだ。レキラタは王も王弟も人格者だが既婚者だし、フォールシナに見合う年齢の婚約者のいない独身の王族はいない。テリクの王太子も宰相の令嬢と婚約済み、フォールシナより一つ年上と聞く第二王子については婚約者もいない独身で、年齢的にもぴったりだが、失礼ながら」


そう言って、エルベルトを見てにやりとした。


エルベルトはどぎまぎしたように


「第二王子については失礼ながら、いかがお聞き及びでしたか」


とカルドリの言葉に鸚鵡返しに尋ねた。


カルドリがまたしてもカラカラと笑う。


「三年前にミセル殿が立太子のあと、自棄になってか放蕩三昧、夜会はどんな怪しげなものもすべて出席。自慢の容姿を武器に女遊びに余念がない。おまけに」


リーンは焦った。


あわわ、ちょっと待ってくれ。


キケンだ、ほっといたらこれ以上何を言い出すかわからない。


まったく本人の前で何を言い出すのやら。


あのエルベルト殿すら渋い顔をしているし。


トゥルーもフォールシナ姫も顔を赤らめてるじゃないか。


カルドリ帝は調子に乗るとこういうところがあるから。


こんな事実無根を。


止めなければ。


リーンがあたふたしていると、アンリが


「お待ちください、皇帝陛下。ご本人をご覧になっていかがでしたか」


と冷静な声で諭す。


「ああ、本当に百聞は一見に如かずという諺を実感したよ。エルベルト殿は情報操作に長けておられるのかな。それとも、私の諜報機関が役立たずだったか」


と笑い声交じりの声でしゃべった。


エルベルトも少し砕けた表情になって


「なるほど、私のことをそのように聞いておられましたか。道理で最初から私を見て驚いたような顔をなさったり、第二王子の証拠がないとおっしゃったり、ルシィが騙されているだの誑かされているだの決めつけたりされていたのですね」


と納得したように微笑む。


場が少し和んだ。


そこにアンリがもう一度話を戻す。


「つまり、トゥルーシナ姫やフォールシナ姫の伴侶となることは、龍痕の恩寵を得ることであり、望めば手が届くということであると」


「そういうことだ」


リーンが再度尋ねる。


「では陛下の本心は」


カルドリが迷うわずに言う。


「私が望むのはこの地域の恒久的な平和だ」


「恒久的な平和、ですか」


「そうだ。今は一応、大国のカラチロがリーン殿とトゥルーシナとの婚約と同時に約束した四国の平和協定をなんとか維持している状況だ。その協定で、カラチロとレキラタ、ルトリケ、テリクは互いに不可侵となっている、だが、三年前のルトリケのレキラタ侵攻を見ても明らかなように、どこかの国が暴走すると簡単に壊れる脆い協定だ」


リーンとアンリはまたしても父の愚行を思い出し、一瞬暗澹たる気持ちになった。


カルドリはかまわず続ける。


「それでも今は私が睨みを利かせていて、どうにかなっていると自負している。しかし私も齢五十、今後ウィルドに譲位したあとに四国の関係がどうなるかはわからない。そこで、恩寵を持つ二人の娘にこの地域の平和を、争いのない未来を託したかったのだ。最初はフォールシナ姫の相手にアンリ殿を、と考えたが、今日エルベルト殿と会い、話をして思った。この男は王になりうる男だ、そしてこの男が王であれば、リーン殿と二人で四国とも豊かにできると」


カルドリが一気に話した。

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