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面会_9

リーンに婚約の条件の裏にある狙いを問われて、カルドリが沈黙する。


自分自身の気持ちの高ぶりを少しずつ抑えるかのように。


そして一人でうんうんと頷くと、ゆっくりと話し始めた。


「望めば」


もう一度言う。


「望めば手が届く、ということを知っておいてほしいのだ」


エルベルトが疑わしげにカルドリを見た。


「望めば手が届く?何度でも申し上げますが、私は望んではいないのですよ?今のテリクはそれなりによくまとまっています。そこをあえて乱す必要はありません。そんなことを条件になさるのは、それこそ皇帝陛下の私利私欲によるものでは」


心なしかエルベルトのほうは先ほどよりも興奮して見える。


「エルベルト殿、今、私が望めば、と言ったのは、何も王位に限ったことではない」


だが、カルドリはもう今度は落ち着いていた。


つい先ほどまでの挑発するような語調ではなくなっている。


一方、リーンはカルドリのその言葉で、彼がこれから何を話そうとするのか理解した。


望めば手が届くというのはやはり龍痕の恩寵があるということを言いたいのだろう。


リーンが念を押す。


「皇帝陛下、その話は先ほど当事者に話すとおっしゃった事柄ですか。アンリが聞いても?」


カルドリは一瞬考えるように首をひねった。


そして何か思いついたような顔をして、アンリに顔を向けて少し微笑みながら尋ねる。


「つかぬことを尋ねるが、アンリ殿は、トゥルーシナやフォールシナと結婚したいと思うか」


アンリは先ほどまでのカルドリとの会話で、畏怖でいっぱいいっぱいの気持ちだっただろう。


そこに思わぬことを尋ねられて、面食らったような顔をした。


「っ、何をいきなりっ。どうしてそんなことをお尋ねになるのです。ご息女二人の結婚相手はもうすでに、それぞれ決まっています。そこに私が割って入る気持ちなど毛頭ありません」


「将来的に、好きになるということは」


妙なことを聞く、というような顔をして、アンリが


「ありません」


ときっぱりと言う。


「いっそ、好みではないと言ってもらった方が、私にはありがたいのだがな」


とカルドリは冗談めかしてクスリと笑い、


「アンリ殿の好みではないのだな」


と念押しをした。


アンリが下を向いて申し訳なさそうに言う。


「私はどちらかと言うと、控えめな女性のほうが好きです」


アンリ、それ、アカンやつだ。


やっぱりやらかした、人のことは言えんが。


そういう言い方だと、トゥルーもルシィもそうじゃないということになる。


この場合、控えめの対義語は、図々しいとか、大袈裟とか、出しゃばりになってしまう。


どう考えても、トゥルーはそうじゃないだろう。


元気で活発、明朗かもしれないが。


それにほら。


本人たちだけでなくエルベルド殿まで複雑な顔をしているじゃないか。


ただ「はい」とだけ言っておけばよいものを。


リーンがやきもきしているのをよそに、


「アンリ殿は二人と結婚する気は未来永劫なし、と」


と、カルドリは高笑いをした。


そして


「よかろう。それならアンリ殿にも聞いてもらおう。アンリ殿は当事者ではないが、アンリ殿のような信頼のおける人物が立会人として、今から話すことを知っているのは心強い。ただし、他言は無用だ。トゥルーとリーン殿はこれから話すことに口を挟まないように。知っていることがあっても、黙って聞くように」


と釘を刺した。


そして今度はエルベルトに


「貴殿は、フォールシナの青痣を見たことがあるか」


と尋ねた。


「はい。彼女がルシィとして教会にいるころはいつも目にしていました。首元の適度に開いた動きやすい服装で、ルシィ自身も隠そうとはしていなかったので」


「ねっルシィ」と視線を送られてフォールシナははにかみながら頷いた。


今日彼女が着ているのはトゥルーシナと同じように首元まで覆われた清楚なドレスだ。


それで外から見ただけでは青痣のことなどわからなかった。


恐らくナイジェルの母のクララベルの配慮だろう。


リーンはここでも叔母に感謝した。


「実は」


と、カルドリが切り出す。


「女性のからだのことなので詳しくは言わないが、フォールシナとトゥルーシナには同様の痣がある」


「えっ」


アンリが驚いたような声を上げたが、それにかまわず、カルドリは続けた。


「今は亡き二人の母親アリシアナのルーツは東国だが、龍神が関わっているらしい。そして双子は必ず二対の青龍の痕跡、龍痕を体に宿して生まれてくるという言い伝えがある」


「ではお二人は言い伝えの通りの」


アンリの言葉にカルドリが肯定した。


「ああ、痣は龍痕だ。そしてその龍痕は、青龍の恩寵を受けている印だそうだ」そしてアリシアナによれば、その龍痕は婚儀によって相手に恩寵をもたらすものなのだという」


「婚儀によって相手に恩寵をもたらす」


エルベルトが呟く。


カルドリが引き継いだ。


「そうだ。だから、結婚するかしないか、結婚するなら誰とするのかというのは、とても重大な問題だといえるのだ。結婚する相手にとってだけでなく、私たち、そして場合によっては我が国にとっても。まあ、今は二人とも婚約しているから結婚しないという選択肢はなくなったわけだが」


アンリが思い出したように言う。


「では、今朝まだエルベルト殿下がいらっしゃってないときに、陛下が私にフォールシナ姫との婚約を提案なさったのは、そのことが陛下の念頭にあったのですね」


カルドリが頷く。

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