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面会_8

「面会」の部分、あとちょっとだけ続きます。

もう少しだけお付き合いいただけますか。

よろしくお願いします。

「どうしてそんなことをっ」


婚約の条件に王太子になる、もしくは王位に就くことを突き付けられて、エルベルトはそう言ったきり黙り込んだ。


リーンにはエルベルトが言葉をなくしたように見えた。


王位に未練はないと言っている男だ。


それなのに、カルドリ帝は結婚したらテリクの王になれと言う。


半ば命令のように。


エルベルト殿下もフォールシナ姫本人も知らないだろうが、彼女が結婚すれば恩寵がもたらされるという。


恩寵というものがある以上、エルベルトが望めばテリクの王位もたやすく手に入るということをカルドリ帝は言っているのだろうか。


そして、カルドリ帝は今その話をしようとしているのか。


理不尽なことも言いはしたが、先ほどまでのようすから彼はエルベルトを気に入ったようにリーンには映っていた。


しかも、フォールシナ姫との婚約を認めるとも言っている。


先ほどまでの流れからすると、婚約者には龍痕の話をするつもりでいるだろう。


リーンがふとトゥルーシナの方に目を遣ると、彼女も心配そうにこちらを見ていた。


そもそも龍痕のことを秘密に、と口止めしたのはカルドリ帝だ。


だから、カルドリ帝が話してもよいと考えるのなら、何の問題もあるまい。


だが、龍痕による恩寵をちらつかせて、テリクの王位に就くよう迫るのなら、さすがに捨て置けない。


リーンは思いを口に出して、カルドリにぶつけようとした。


「皇帝陛下、はなはだご無礼であることを承知で申し上げます。ご息女との婚約と引き換えに隣国の王子に王位簒奪を迫るなど、他国への内政干渉も甚だしいのではありませんか」


カルドリは唇に薄い笑みを浮かべて


「リーン殿、貴殿は先ほどエルベルト殿がお父上に対して不満を申したのを聞いただろう。不満があるなら、エルベルト殿が取って代わればよいのだ。現に貴殿もそうしたではないか。私はその気持ちを後押ししようとしているだけだ」


と断じた。


彼に動じる気配がない。


アンリが震える声でカルドリに呼びかけた。


「皇帝陛下」


アンリはカルドリと面と向かって話をするのは今日が初めてだったはずだ。


この面会で何度か会話し、少しは慣れてはきただろうが、その表情からして、今は意を決して何かを言おうとしているのだろう。


リーンは少しはらはらしながら、アンリの横顔を見つめた。


アンリは進言する。


「もし、エルベルト殿下がそのような約束をして王位についたとしましょう。けれどそれでは、殿下は陛下の言いなりになってしまうということではありませんか。結果として、陛下の傀儡となってしまうのでは」


カルドリの怒りを買うことも覚悟の上での物言いなのだろう。


「アンリ殿、その物言いは聞き捨てならんぞ」


いつもはリーンとアンリに好意的なカルドリが語気を強めた。


予想はしていたのだろうがアンリはたじろぐ。


リーンは左隣のエルベルトに目を遣った。


エルベルトはテーブルの下で拳を固く握っている。


その拳が震えるほどに。


カルドリには見えない位置だ。


「エルベルト殿」


リーンがエルベルトにそっと囁く。


エルベルトがその声にはっとしたように少しだけリーンに視線を移し頷いた。


そして今度は前を向く。


「皇帝陛下、私は確かに先ほどテリクの東部地域の干ばつに関連して、現王への不満を口にしました。しかし、私自身は王位につくことを望んでおりません。私は現王やこれまでの王がやってこなかったことに怒りを感じているのであって、やってきたことに怒りを感じているのではありません」


硬い表情で話し続ける。


「むしろ民は概ね満足しているのではないかと感じております。現に民からもそう不満も出ておりません。現王には宰相以下貴族の支持もあります。なにより、わざわざ私が無用な王位継承争いを引き起こす利点がありません。民の疲弊も貴族間の抗争も私の望むところではありません。繰り返しになりますが、私は王位に就くことを望んでいないのです」


「なら、婚約はなかったことにしても」


カルドリの突き放すような言葉に、今度はトゥルーシナが悲鳴のような声で反応した。


「おとうさまっ、それ以上は脅迫です」


フォールシナも覚悟したように、落ち着いた静かな声で言う。


「エルベルトさまの意思に反してまで、結婚することを望みません」


先ほどの発言で一線を越えたアンリも半ばやけ気味にたたみかけた。


「生き別れになったご息女と再会できたというのに、皇帝陛下の無理難題で姫の幸せを摘み取ろうとするのは」


そこでリーンが何とか収めようとする。


「皇帝陛下が、こよなくフォールシナ姫のことを大事に思っていらっしゃることは私にもよくわかっております。ひと月ほど前にカラチロでお話しした時、陛下はおっしゃいました。姫のことを諦めていない、大切な娘なのだと。今もそのお気持ちに変わりがあるはずはありません、それに陛下はもう、一度は姫とエルベルト殿下の婚約をお認めくださいました。本心では無条件にお認めくださっているのでしょう?」


といったん言葉を切り、語調をあらためて


「だからこそ、陛下の本心をお教えください。陛下はテリクを、エルベルト殿を通じて意のままにしたいとお考えなのですか。それとも、ほかに狙いがあるのでしょうか」


と問うた。

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