面会_7
アンリに、教会で自分だけが貴族としての教育を受けさせられた理由を問われ、フォールシナは戸惑うような表情をした。
そして首を左右に振り、
「ごめんなさい。わかりません。教わっている当時は、それがどんな意味を持つものかを考えることもなく、学んでいました」
と答える。
リーンが思い出したように、手を打つ。
「そういえば、スイネ教会の教会長が言っていたな。シエラディト辺境伯がフォールシナ姫を自分の娘の子どもだと。自分の孫としてどこに出しても恥ずかしくないように養育することを命じられたと」
「私、そんな話は聞いたことがありませんでしたよ」
フォールシナの言葉を受け、トゥルーシナが
「確かに生まれて間もないルシィを連れ去ったセレナ嬢はシエラディト辺境伯の」
と遠慮がちに言いかけた時、カルドリがそれを打ち消すかのように左手をさっとトゥルーシナに出して
「もうよい。いずれにせよ、フォールシナはすでに完璧な姫であることに間違いがない」
と言い切った。
エルベルトがこの話は終わったと踏んだのか、
「それで、陛下はフォールシナ姫と私の結婚をお認めくださるのですよね」
と話を引き戻す。
確かに、それこそが今優先するべき話だ。
リーンは、先ほどからの満足げなカルドリのようすから、エルベルトが彼の懐に入り込むことができたと判断していた。
いったん懐に入れた人物は、とことん大切にするのがカルドリだ。
だから、きっと婚約を認めるだろう。
そう、楽観した。
エルベルトも肯定の返事を待っている。
だがカルドリはややあって
「今回のことにテリクはどう言っている。貴殿のお父上である国王陛下もご存じなのか」
と逆に尋ねてきた。
エルベルトは少しだけ視線を落とし、自分の左手を見つめるようにしながら
「父には話していません」
と短く言う。
「エルベルト殿、貴殿は王位継承権を持つ第二王子だ。国王の許しなくしては、私もおいそれと認めるわけにはいかぬ」
「皇帝陛下、国王には皇帝陛下からお認めいただいたのち、必ず許可をえます。それに」
エルベルトはそう言ったあと、次の句を告げるべきかどうか迷っているのか、少しの間沈黙した。
フォールシナが心配そうに見つめる。
エルベルトがそれに気づき、二人の視線が絡まった。
皆がエルベルトの続く言葉を待つ。
やがて彼は
「それに、私は自由なのです。何をしても咎めるものはおりません」
と自嘲気味に言った。
「どういうことだ」
カルドリの問いに
「三年前、テリクの王太子が私の兄のミセル殿下に決定したことはご存知でしょう。私もそれまでは等しく教育を受け公務を担っていました。けれど、その時点ですべての義務から解放されました。率直に言えば、任を解かれたのです」
と吐き捨てる。
「ばかな。そんなことをしては立ち行かない。わが国では王太子のウィルドを弟のハリヒが補佐しているし、アンリ殿も弟として王太子のリーン殿を助けている。貴殿はそのような役割を求められてはいないのか」
カルドリもまた、かつてリーンたちがエルベルトに尋ねたことと同じことを聞く。
「王や王太子の補佐は、宰相ら側近に任されています。王太子が決まるまでは兄弟をすべてのことについて競わせ決まれは他方は用済みというのは、後継者争いを避けるための父の考えによるものです」
エルベルトはそう言ったあと、皆から視線をそらし、
「私は自由になりましたが、重圧からの解放ではなくただただ無力感だけが残りました」
と、先に話した夜会への出席や他国の視察への動機とも交えて、今の事情を正直に説明した。
そしてエルベルトは姿勢をもう一度正して、カルドリをしっかりと捉えて
「第二王子とはいえ、こんな名ばかりの状況ではフォールシナ姫の結婚相手としては力不足と判断なさるかもしれません。けれども、彼女がルシィとして生活していたころも私は彼女のためなら王籍を離脱し平民となってでもルシィと添い遂げたいと思うほど愛していました。もちろん、今もその気持ちに変わりはありません。ルシィへの思いを断つこと、ルシィを諦めることなど、決して私にはできません。また、ルシィを一生守り抜くと誓います。ですからどうか、フォールシナ姫と私の婚約を認めてください」
と懇願した。
フォールシナは人前で自分への気持ちを連ねる恋人を目にしてか、顔を赤らめてうつむいていた。
今度はみながカルドリの返事を待つ。
トゥルーシナも
「おとうさま」
とエルベルトに加勢するように呼び掛けた。
カルドリは呼ばれてトゥルーシナを一瞥し「うむ」と返事したあと、再びエルベルトのほうをしっかりと見据える。
そして一度息を吸ってから告げた。
「エルベルト殿、貴殿の言うことはよくわかった。貴殿とフォールシナの婚約については認めよう」
「本当ですか」
皆が一斉に歓声を上げる。
しかしそれを鎮めるようにカルドリは冷たく言い放った。
「一つ条件がある」
「条件とはどのようなことですか」
「王太子になりなさい、もしくは王位につきなさい。それが婚約を認める条件だ」
エルベルトは訝しげに見る。
「どういうことですか」
「結婚するからには、テリクの王となると約束してほしい」
カルドリは言葉を変え、エルベルトの出方を窺うように小さく口元に笑みを乗せた。




