面会_6
カルドリの哄笑に、エルベルトは訝しむように彼を見る。
「何か、おかしなことを申しましたか」
「いや、なんでもない。百聞は一見に如かず、だな」
カルドリはどこか満足げだ。
彼なりに答えを出したのだろう、とリーンは感じた。
「それで、エルベルト殿は、どのようにして、フォールシナと知り合ったのだ」
カルドリが二人のなりそめを尋ねた。
エルベルトが話し始める。
「ルシィと知り合ったのは本当に偶然です。皇帝陛下はフォールシナ姫のいらっしゃったスイネ教会のことをご存知でしょうか」
「テクレ教の教会で、ルトリケでは最大の教会だということは聞いている」
「はい、ルトリケのハーリード辺境伯の領地内にあります。私は貴国のシエラディト辺境伯に誘われて、ハーリード辺境伯に会いに行く途中、スイネ教会に立ち寄ったことがきっかけです」
これはリーンとアンリが昨日聞いていた話と同じだ。
カルドリはシエラディト辺境伯の名に反応した。
「ユール・シエラディト殿とはどういう知り合いだ」
「夜会で知り合いました。私は長年テリクの干ばつ問題も研究し、テリク北東部の移民運動にも関心を持っていました。そしてその受け入れの当事者であるシエラディト辺境伯の話を聞き、感銘を受けたのです。スイネ教会もそもそも、シエラディト領で受け入れきれなくなった移民をルトリケで受け入れるために創設されたと聞き、視察したいと思ったのです」
「シエラディト領でのテリク移民受け入れ」
カルドリの記憶にあるのだろう、
「私の二十歳頃のことだったな」
と呟いた。
そして重ねて聞く。
「干ばつなど、数十年に一度起こるか起こらないかの天災だ。現に、あれからは一度も起こっていない。そんなことを研究する意味があるのか」
「お言葉ながら、私はそうは思いません。数十年に一度起こるか起こらないかと言っても、現に起こっているのです。この前の干ばつは三十年ほど前でしたが、その前からは十八年しか経っていませんでした。更に遡るとその五十二年前になりますが、必ず起こる災害です。しかも起これば数年間続きます。教訓は生かさなければならないですし、対応する術がないかを探して見つけなくてはならない。たとえ滅多に起きないことだとしても、必ず起こるし、いつ起こるかわからない。そうしたことに備えて民を守るのは、王族の義務だと思っています」
「なるほど。貴殿の言うことはよくわかる。もっともなことだ。でもそれは理想論ではないか。起こるかどうかわからないことよりも喫緊の着手するべきことを優先するのが筋だ。しかもそちらのほうが多すぎる。それゆえどうしてもそこまで手を回すことは難しい」
「理想論、それは十分承知の上です。ですから喫緊の着手するべきこととも兼ねられる方策がないかといったことも含めて模索しています。私には自分の生まれる前からそういう問題が起きていたのに、その前の王はもちろん、数十年に一度の話だからと言って何も手を打ってこなかった父も許せないのです」
エルベルトはやっぱり真直ぐな男だ。
しかも、カルドリ帝に臆していない。
かつ、頭も切れる。
リーンは二人のやり取りを見ながら、カルドリがエルベルトを気に入ったと確信した。
「で、フォールシナとはどうやって」
カルドリが話題を変えた。
「ユール殿が、シエラディト辺境伯が引き合わせたのか」
「いいえ、違います。それも本当に偶然でした」
そう言って、エルベルトはフォールシナを見た。
自分で話すよりも、娘が話すほうがより信じてもらえると判断したのだろう。
フォールシナが代わって答える。
「エルベルトさまが私を助けてくださったのです。滅多にないことですが、その日、教会に隣接する森のほうからイノシシが下りてきて、襲われそうになりました。そこに彼が来てくださって。でも、代わりに彼が怪我をしてしまいました」
「少々、情けないことですが」
とエルベルトが笑い、
「怪我をした私の手当てをフォールシナ姫がしてくださり、それから徐々に話すようになりました」
と最後は少しはにかんだ。
「ふむ、どうやらユール殿の画策ではないことは間違いないようだな」
「はい、誓って。現にルシィと親しいことが傍目にもわかるようになってからは、シエラディト辺境伯から何度か忠告されました。身分違いの恋は実らない、身を引くのが私にとってもルシィにとっても幸いだと」
「その言葉は、シエラディト辺境伯様が私を思ってくださってのことです。あくまでかの方にとっては、私は平民でしたから」
フォールシナもエルベルトの言葉を補った。
カルドリが驚いて、大きな声を出した。
「なにっ、ユール殿はそなたがフォールシナであることを知らなかったと」
カルドリ帝もやはり、私と同じくシエラディト辺境伯が知っていると思い込んでいたようだ。
無理もない。
フォールシナ姫を連れ去ったのは他ならぬ辺境伯の娘、セレナなのだから。
教会長から聞かされていたとはいえ、リーンはフォールシナ自身からの明確な否定を複雑な気持ちで受け止めた。
「はい。そういう話はもちろん、どこかの貴族であるという話も一度も。ですから、今回のことは本当に青天の霹靂でした。よもや私が隣国のお姫様だとは思ってもいませんでした」
フォールシナの返答に、それまでずっと聞き役に徹していたアンリが尋ねる。
「けれども、フォールシナ姫殿下は貴族としての淑女教育も受けられていると聞きました。私たちの叔母もレベルの高さに舌を巻くほどです。なぜ、あなただけがそんな教育をお受けになったのか、心当たりを聞いても」
アンリもなお、カルドリ帝の前で確認しておきたいのだろう。




