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面会_4

カルドリに向かってそう質すフォールシナは、しっかりした意志の強さを感じさせる表情をし、ハリのある声で物を言う。


リーンが特別室に入ってきた時からずっと見ていた言葉少なな硬い表情の彼女とは全く別人のようだ。、


これが本来の彼女なのだろう。


そしてこういうところはトゥルーにも通じるな。


いや、二人とも父親譲りなのかもしれないが。


そんなことをリーンが考えていると


「ふん、どこの誰かもわからぬ者に言えるか」


とカルドリがまたもやにべもなく言う。


その言葉を聞いたフォールシナが震えているのがリーンの目にも明らかにわかった。


泣いているのではない。


明らかに、婚約者を侮辱された怒りに震えているのだ。


「皇帝陛下、たとえ陛下が私のおとうさまであったとしても、私の婚約者様のことを悪く言われてこれ以上黙っているわけにはいきません。そして私の婚約者様を侮辱するということは、その相手である私をも、皇帝陛下は心の中では軽く見ているということです」


先ほどよりもさらに強い口調だ。


ところがカルドリはフォールシナの問いに直接答えることをせず、あえて挑発する。


「だが、どうせ名前も明かせぬ男だろう」


まずい、売り言葉に買い言葉状態だ。


アンリも焦っている。


父娘関係の悪化を危惧したのだろう。


リーンのほうをしきりに見てきた。


そしてトゥルーシナもまた、心配そうに


「ルシィ」


と声をかける。


フォールシナはうつむいてしまった。


だがリーンの中では、カルドリの態度に対する違和感が少しずつ大きくなっていた。


明らかにいつものカルドリ帝とは違う。


確かに相手は誰だかわからない。


けれど、ここまで執拗に誰かもわからぬ相手を貶めるような発言をするとは。


リーンは自分が出したおふれのことでカルドリに問い詰められた時のことを思い出しながら、言葉の裏にあるものを見出そうとした。


わざと、か。


何かを確かめようとしているのかもしれない。


その一方でリーンには間仕切りの向こうのエルベルトの動向も気にかかっていた。


カルドリ帝がなんらかの意図を持っているとしても、彼のことをよく知らないエルベルトには気づけないだろう。


自分が「抑えてくれ」と言ったから、今必死に自分の気持ちを抑えているに違いない。


なんとかしなければ、そう思ったとき、フォールシナが震える声で言った。


「…様です」


彼女の吐き出す言葉に躊躇いを感じる。


恐らく、最後まで自分からは明かしたくなかったのだろう。


誰が恋人なのか。


婚約者が何という名なのか。


「ルシィ、今なんと言ったの」


トゥルーシナがその声を掬い上げる。


フォールシナが俯いたまま小さな声でもう一度言った。


「隣国の王子様です」


カルドリが疑わしそうに見て、フォールシナが勇気を出して言った返事を切り捨てた。


「なんだと。隣国の王子だと。そなたはルトリケの教会の孤児院にいたと聞いた。そんなところにわざわざ隣国の王子が出向くはずがないだろう。隣国の王子など嘘っぱちだ。騙されたのだよ」


「騙された」という言葉は人をひどく傷つける。


けれどそれが逆にフォールシナの気持ちに火をつけたようだ。


彼女も負けていなかった。


覚悟を決めたのだろう。


傷ついた気持ちを打ち消すかのように、しっかり顔を上げてカルドリに向かって、つい先ほどまでのように今またはっきりとした声で一気に喋った。


「騙されたですって。いいえ、そんなはずはありません。いくら陛下のお言葉であっても、聞き捨てなりません。私の婚約者様はテリクの第二王子エルベルトさまです。このブローチが約束のしるしです。とても誠実な方です。あの人が約束を破るわけがありません」


とドレスの襟元をめくって見せた。


目立たないようにわざわざ襟で隠れるところに着けておいたようだ。


それでもなおカルドリは信じない。


というか、信じるつもりは端からないようだ。


「そんなもの。そんなはずなかろう」


とブローチに目を向けようともしなかった。


今だな。


というか、むしろ今しかない。


リーンは決意した。


アンリを見る。


彼もこちらを見て頷く。


リーンは覚悟を決めて、カルドリの目を見すえて呼びかけた。


「皇帝陛下、エルベルト殿下のことは私もアンリもよく知っています。信頼のおける男です。もちろん、フォールシナ姫と婚約していることも彼から聞いています。フォールシナ姫がご自分からおっしゃるのをずっと待っておりました」


さすがのカルドリもリーンの言葉を突っぱねることはできなかったようだ。


何も言い返さず、にわかには信じがたいという顔をしている。


トゥルーシナも目を見開いて息を呑んでいた。


フォールシナはほっとしたように大きくひとつ息を吐く。


リーンは三人を見渡し、頃合いを見計らって


「今からここに呼びます」


と断ってから席を立ち、間仕切りまで歩く。


そして、間仕切りの引き手を引いて蛇腹を少しだけ畳み、人の出られる隙間を作ると、間仕切りの向こう側にいるエルベルトに声をかけた。


「お待たせした。よく、ここまで耐えてくれた」


エルベルトもいろいろと気を揉んでいたのだろうが、リーンの呼びかけに晴れ晴れとした笑顔で応じた。


振り向くとカルドリが半信半疑のようすでこちらを見てくる。


「行こう」


リーンのすぐ後ろにエルベルトがつく。


リーンの目にフォールシナの驚きと安堵の入り混じった表情が映った。


まさかここに本人を呼んでいるとは思わなかっただろう。


だが、フォールシナの表情を見てリーンも少しほっとした。


とりあえず、二人をもう一度会わせることができて本当に良かった。


フォールシナ姫を教会から連れ去って以来、二人の仲を自分が引き裂いた責任を痛感していたのだ。


だが今日カルドリ帝とエルベルトを引き合わせられた。


少しだけエルベルトを振り返ると自信に満ちたいい顔をしている、


なんとかこのあとの話し合いがうまくいってほしい。


そんな気持ちでカルドリを見ると、何を考えているのか周りからは窺えないような表情になっていた。

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