面会_3
トゥルーシナにフォールシナの婚約相手を聞かれて、カルドリがいかにも名案を話すという体で得意げに言った。
「それはもちろん、アンリ殿だ。アンリ殿とフォールシナが婚約するのだ。ルトリケの王子二人の婚約だ。よってリーン殿とトゥルーシナの婚約発表と同時に行ってもなんら問題はない」
昨日その仮説はエルベルトからすでに聞かされていた。
聞かされていたとはいえ、カルドリから直に言われてアンリは目をむく。
「皇帝陛下、大変光栄なお話ですが、私には本当にもったいのうございます。それに先ほど国王も申しましたが、ルトリケの王と王弟が二人ともカラチロから妃を迎えるとなると、貴国や我が国の貴族はもちろん周辺諸国の理解が得られるかどうか。謹んでご辞退したく」
と慇懃に断ろうとした。
しかし、カルドリは引かない。
「何を言う。わが娘に不足でもあるのか。それにアリシアナとの約束を果たすこともできる。これ以上の縁談はない」
アリシアナとはトゥルーシナとフォールシナを生んだカルドリの側妃の名だ。
二人の幼いときにこの世を去っていた。
彼女との約束というのはつまり、二人の龍痕と恩寵に関わる約束だろう。
リーンは以前カルドリがアリシアナの言葉として話していた内容を思い返す。
「トゥルーシナとフォールシナの二人を引き離すことがないように」
「一人一人でも強い力を持つが、より大きな青龍の恩寵を受けようとするのなら、二人そろってこそ」
「二人を娶せることのできるような仲の良い兄弟を見つければ二人一緒」
確かにフォールシナ姫とアンリが結婚すればそれは実現する。
ただし現実にそれをやってしまうとどうなのか。
アリシアナ妃の言葉通りのことが起こるとすれば、ルトリケだけが突出した強大な力を持つことになりかねない。
私もアンリも、少なくとも今はそれが望ましいことだとは考えていない。
またその話を抜きにしても、先ほどから問題となっているように国どうしで姉妹が兄弟に嫁いでしまうのは反発を招くだろう。
ところがカルドリ帝は今、アリシアナ妃との約束や二人の龍痕に囚われすぎて、視野を狭くしてしまっている。
そもそも温厚な性格だと思っていたカルドリが、妃や娘が関わることとはいえ頑なになっていることにリーンは何とも言えない複雑な気持ちになった。
さすがにアリシアナ妃との約束を果たすためだけにアンリと婚約させるのはありえないだろうと思い、ですが、とリーンが口を開こうとした時、
「おとうさま」
とトゥルーシナが強い調子で言った。
「おとうさま。その考えには賛成しかねます」
「どういうことかな」
「ルシィと私が二人ともルトリケに嫁いだら、ルトリケにあまりにも大きな」
と言いかけて、トゥルーシナはアンリを一瞥したあと、父に目配せした。
それでカルドリも気がついたのだろう。
アンリやフォールシナの前で龍痕に関わる話を明らかにしてもよいのかというトゥルーシナの問いに。
「ああ、そうだな。たしかに」
と言ったところで、今度はフォールシナが口を開いた。
「皇帝陛下、私はアンリ殿下とは絶対に結婚いたしません」
小さな声ではあったが、これまでの、ともすれば頼りなげにも聞こえる返事からは打って変わった明瞭な言葉だ。
「なにっアンリ殿では不足か」
カルドリが冗談めかして言う。
アンリは自分がダメだと言われているわけではないとわかっているし、フォールシナに恋人がいるのは承知のうえだが、やっぱりしょげたような顔をする。
「いいえ、そうではないのです。私には他に好きな人が、恋人がいるのです。その人と婚約もしています」
遠慮がちな物言いながら、はきはきと話すフォールシナをリーンは眩しく感じた。
それなのにカルドリは一笑に付す。
「はっ、そんなことが許されると思っているのか、そなたはもはや平民ではないのだぞ。どこの誰かもわからぬような男に大事な姫をやれるか」
フォールシナは少し暗い顔をして黙ってしまった。
トゥルーシナが興奮気味に言う。
昨夜、リーンが恋人のいるフォールシナを応援してほしいと頼んでいたからだろう。
「どこの誰であろうとかまわないではありませんか。私もたとえリーンさまがどこの誰かもわからぬリーンさまであったとしても、リーンさまである限り添い遂げたいと思います」
高らかに宣言をするトゥルーシナにリーンは周囲の手前もあって気恥ずかしさを覚えてしまった。
でも、自分にとってはこの上ないようなうれしい言葉だ。
だがカルドリ帝には通じまい、そう思いながら、リーンはエルベルトを呼ぶタイミングを推し量っていた。
そこにここまで黙って聞いていたアンリが
「先ほど、トゥルーシナ姫がおっしゃりかけた二人の姫君がルトリケに嫁ぐとルトリケにあまりにも大きなというのは、どういうことかお聞きしても」
と話を変えようとした。
もちろん、話題転換だけでなく、アンリ自身も聞きたくてそう言ったのだろう。
しかし、龍痕に関わる話だ。
「うっ」
「それはっ」
リーンとトゥルーシナが同時に止めに入った。
以前カルドリから打ち明けられた時には三人だけの秘密だと固く口留めされた話だ。
ところが今のカルドリはまったく意に介さない。
「なに、アンリ殿は婚約者になるのだ。かまうものか」
と突っぱねた。
するとアンリが毅然として
「私は先ほども申し上げた通り、フォールシナ姫の婚約者にはなりません。婚約者にならない私には、お話しなさるべきではないのでは」
と問う。
今度は
「もし、婚約者にならお話しになるというのであれば、フォールシナ姫の婚約者ならアンリでなくても聞かせてよいのですね」
とリーンがたたみかけた。
カルドリは黙っている。
フォールシナも尋ねた。
「私はどうなのですか。そのお話を伺ってもよいのですか」
「フォールシナはよい。むしろ知っておくべきだろう。当事者なのだから」
「それでは私の婚約者はどうなのでしょう。彼だって当事者です。やはり知っておかなくてはならないのではありませんか」
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