面会_2
リーンは改めて三人に視線を送った。
フォールシナ姫はうつむき加減でこちらからは表情が伺えない。
意図的に表情を見せないようにしているのかもしれない。
カルドリ帝はもうすっかり相好を崩していた。
恐らく、今朝から顔は緩みっぱなしなのだろう。
トゥルーは柔らかく微笑みながら自分を見ていて、つい顔が緩んでしまう。
カルドリが待っていたとばかりに口を開いた。
「リーン殿、この度のこと、本当に感謝している。まさか、またこの手でフォールシナを抱きしめることができるとは思ってもいなかった。心から礼を言う。ありがとう」
リーンは何と言ってよいかわからず生返事をした。
カルドリ帝はうれしいだろうが、フォールシナ姫は平穏な日常を奪われてしまったのだ。
しかも自分は彼女から日常を奪った張本人である。
もう一度そっとフォールシナ姫を窺うが、今度もやはり表情はよくわからない。
一方、生返事のままそれ以上反応しないリーンのようすを見かねたのか、アンリが緊張の面持ちながらも
「理不尽なことで引き裂かれた皇帝陛下とフォールシナ姫、またトゥルーシナ姫とフォールシナ姫との再会を実現することができ、望外の喜びです」
と代弁した。
それでカルドリはアンリの方に顔を向けて礼を言う。
「アンリ殿、フォールシナを探し出すにあたっては、ご苦労もあったことだろう」
アンリは、フォールシナを発見するまでのいきさつを説明した。
人海戦術や教会めぐり。
教会がテクレ教の教会ではないかと辺りをつけて、一挙に進展したことなど。
頷きながら、カルドリ帝はリーンのほうに向いて話す。
「リーン殿もよくひと月足らずの間に見つけてくれた。あの時、私はフォールシナのことを婚約式までに解決してほしいと言ったが、本当に解決してくれるとは。しかも、フォールシナを生きてここに連れてきてくれるとは」
カルドリの言葉に
「私も、フォールシナ姫は必ずどこかで生きていらっしゃると思っていました。お引き合わせすることができ本当に良かったです」
とやっとの思いでリーンも話を合わせた。
フォールシナの表情をみたび窺うが、なおもわからない。
アンリが自分の斜め前に座るフォールシナに聞こえるように顔を向けて、少し声を上げて尋ねた、
「フォールシナ姫殿下、今朝は早くにいらっしゃったと聞いています。夕べはよくおやすみになれましたか」
フォールシナはやはり硬い表情で、小さいながらそれでもしっかりした声で
「はい」
とだけ言う。
トゥルーシナが助け舟を出すように、
「お城の皆様のご配慮で、朝食から今までの時間を一緒に過ごさせていただきました。心から感謝しています。もちろん、まだまだ打ち解けるには時間がかかると思いますが、ルシィ、トゥルーと愛称で呼び合えるようになりました」
と言って、顔を綻ばせた。
カルドリが
「まだ私のことは陛下呼びだがな」
と残念そうにするので、リーンが
「では陛下やトゥルーシナ姫がフォールシナ姫殿下ともっと距離を縮めることができるように、フォールシナ姫殿下に婚約式までこの城にご滞在いただくのはいかがでしょうか」
と提案した。
するとすぐにカルドリはにこにこして
「それはいい、そうしなさい、フォールシナ」
と言う。
フォールシナも硬い表情のまま頷いた。
やや間があって
「ところで、その婚約式だが」
とカルドリが急に口調を変えた。
「リーン殿とトゥルーの婚約の発表と同時に、フォールシナの婚約発表も執り行いたい」
リーンは驚く。
いきなり来た。
もうその話をするのか。
しかもトゥルーと私の婚約式の時にフォールシナ姫の婚約発表とは。
エルベルトから聞かされていて多少予想していたとはいえ、初っ端からその話が来るとは思わなかった。
だがカルドリ帝の両隣の席の二人も衝撃を受けたのだろう。
二人が同時に机をバンと叩いて立ち上がった。
おかげで間仕切りの向こうから漏れてきた「えっ」というエルベルトの驚きの声は自分以外には聞こえなかったようだ。
「座りなさい。行儀がなってないぞ」
カルドリが両隣を交互に向き、冷静にたしなめる。
二人ともゆるゆると腰掛けた。
ここはまず外側から攻めていったほうがよいだろう。
そう判断して、リーンが遠慮がちに言う。
「婚約式を執り行うのはあくまでもルトリケです。フォールシナ姫についてこちらで行うというのは筋違いではありませんか」
だが、カルドリも引かない。
「何を言う。フォールシナはほとんどルトリケの地で育ったのだ。そこまでおかしいことでもあるまい」
いや、それはどう考えてもゴリ押しだろう。
顔には出さずに心の中で文句を言った。
そして
「しかし、これまでフォールシナ姫の存在すら知られていなかったのです。突然のお披露目と同時に婚約発表まで行うとなると、出席されている方々に姫ひいては皇帝陛下への疑念が生じかねません」
と踏み込む。
「どういうことだ」
「ほんものにせもの、という言い方に語弊があるのはじゅうじゅう承知のうえで申します。お許しください」
そう断ってリーンは続けた。
「そもそもトゥルーシナ姫に双子の妹がいたということが事実なのか疑念を抱く者もいるでしょう。また、事実だと信じても、ここにいらっしゃるフォールシナ姫はにせものではないかと怪しむ者もいるかもしれません。さらに婚約まで仕組んでしまうと、なおさら、姫がほんものではないから手駒にすると見る向きもあるでしょう。また婚約相手によっては極めて政治的なものとなり、外交問題となる可能性もあります。いずれにせよ反発は免れません」
リーンは必死になって説明するが、カルドリが考えを変えようとする節は見えない。
トゥルーシナが見かねて口を開いた。
「お相手はどなたですの」




