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中庭にて

中庭に置かれた円卓に六人が腰かける。


リーンから右回りにアンリ、ナイジェル、バルトリス、マキシム、エルベルト。


リーンの左右にアンリとエルベルトが座る格好だ。


侍従がやってきてスープを配膳した。


ルトリケ名産のカボチャをふんだんに使ったものだ。


「そういえば、確か、テリクは小麦と大豆の産地として有名ですね」


ナイジェルが言うと、マキシムがボトルを指した。


「このワインもそうじゃないですか」


エルベルトが気をよくしたのか


「みなさん、よくご存じですね」


とにっこりした。


そしてひとしきり、互いの国の産業や生活、それを支える基盤となる施設などについて話し合う。


周辺国との交易に話が及んだ時、アンリが尋ねた。


「カラチロと言っても、シエラディト領からの輸入が多いのですね。そういえば、エルベルト殿下から見て、シエラディト辺境伯はどんな方ですか」


以前、アンリはまったく同じ質問をおじいさまにしていたな。


リーンは思い出す。


その時おじいさまは何とお答えになったか。


あの時逆におじいさまから「どんな方とは」と問い返されて、アンリは「信頼できる方か」と尋ね直していた。


それに対して、おじいさまはシエラディト辺境伯がエルベルト殿下と懇意にしていることを挙げて「真意がわからない」という点で信頼するには至っていないとおっしゃったのだ。


リーンは思わずクスリと笑った。


これでは堂々巡りじゃないか。


「兄上、どうしました」


「いやなんでもない。それでエルベルト殿下から見てシエラディト辺境伯はどんな方だ」


「寛容な方ですね、いろいろな意味で。先ほど国王陛下は皇帝陛下を寛容だとおっしゃいましたが、皇帝陛下をよく知らない私からすれば、辺境伯のほうがよほど寛容です。でもまあ、実際にお会いになるのが一番ですよ」


「なるほど。実は婚約式には招待している。アンリも私も彼の領地の産業などに興味を持っていて、ぜひ話したいと思っていたのだ」


「そうでしたか。ではそのとき、私がお引き合わせいたしましょう」


「それは頼もしい。よろしく頼む」


「エルベルト殿下、よろしくお願いいたします」


そうして食事も進み、たけなわとなった頃、


「で、夕方いらっしゃるカルドリ帝への今日以降の対応についてだが」


とリーンが口調を改めた。


ナイジェルが


「そのことですが、ご到着なさったら簡単にご挨拶したあと、晩餐の時間まで休息をとって旅の疲れを癒していただこうと思っています。何時にお着きになるかにもよりますが、小一時間ほどでしょうか」


と言い、エルベルトに向かって


「晩餐にはお出になりますか。ゲストとしてご紹介しますが」


と尋ねた。


「いいえ。そのタイミングで姿を見せるのはいくらなんでも変ですよね。突然見知らぬ者が」


と即座に答えた後、少し思案して


「いったん王都の宿に帰ります」


と言った。


「護衛はいるのか」


「いえ、一人です」


「確かにお一人でお見えでしたが、王子殿下がさすがに護衛なしでは何かあった時に申し訳が立ちません」


マキシムが言うと、リーンも


「今夜は城に留まってはどうだ」


と勧めた。


「しかし」


とエルベルトが言い淀む。


「何か心配事でも」


「いえ、そんなことは」


「遠慮なら無用だ。それに今思いついたのだが、カルドリ帝となるべく早く話をしたいのであれば、ここにいたほうが動きやすい」


そう言われてやっとエルベルトは


「かしこまりました。ありがとうございます」


と少しほっとした顔をした。


「決まりだな。宿には使いを出そう。気になる荷物があれば持ってこさせるが」


「それは大丈夫です。何から何までありがとうございます」


マキシムが声を弾ませる。


「エルベルト殿下、今夜は語り明かしましょう。スイネ教会で会って以来、俺はっ」


「こらっ、マキシム、調子に乗るな」


「兄上、僕も、殿下にフォールシナ姫とのことを聞きたいです」


「アンリまで、しょうがないなあ」


そこにナイジェルが割って入る。


「いずれにせよ、晩餐のあとリーンにはカルドリ帝との面会やトゥルーシナ姫とお二人での時間をとっていただかなくてはいけません」


「そういうことだ、マキシム、アンリ。私がカルドリ帝と面会している間、エルベルト殿も近くに待機していただき、必要があればすぐにカルドリ帝との対面を実現しようと思っている」


エルベルトが驚く。


「えっと、それはどういう」


「カルドリ帝は何を話し出すか、こちらではなかなか読めないところがある。気紛れというのではないのだろうが、話をしていて何を聞かれているのか、何を言うべきか戸惑うこともあった。今日の懇談の中でも話がどこに飛ぶかわからない。婚約者の話が出たら、すぐ貴公を呼び、カルドリ帝と話す機会を作るつもりだ」


「そ、それは願ってもないこと」


「ああ。だから、失敗はするなよ」


リーンは冗談めかして言った。


最後の言葉は重かったかもしれない。


だが、エルベルトなら大丈夫だろう。


ナイジェルが念のため、と付け加えた。


「何らかのアクシデントで、到着が夜にずれ込んだ場合は、カルドリ帝とトゥルーシナ姫にはご挨拶なしでお部屋で寛いでいただきます。その場合は晩餐も各自のお部屋でとっていただくことにします。カルドリ帝との懇談は、遅い時間になりそうなときは明日午前中に設定し直します」


それを聞いてリーンが言う。


「それなら、初めから到着したらそのまま部屋に行っていただく方がよいのではないか。そのほうが体も休まるだろう。晩餐をご一緒できないのは少し残念だが、明日以降も滞在されるのだ。今日は旅の疲れを癒していただくことを優先しよう、挨拶はこちらから部屋に出向けばよい」


そして、エルベルトのほうに向かって


「そういうわけで、本日、カルドリ帝と話をする機会はない可能性が高くなった。すまない」


と詫びた。


「とんでもないことです。陛下にはもう十分ご配慮いただいています」


「その代わりと言っては何だが、明日の懇談の際は必ず機会を設ける。それと、フォールシナ姫をお呼びするつもりだ。再会を楽しみにしてほしい」


フォールシナの名に、エルベルトは一瞬目を見開き、次の瞬間目を細めて喜んだ。


「本当ですか」


「ああ。言っておくがフォールシナ姫に会いたいのは貴公だけではないのだからな」


「確かに。カルドリ帝は十八年間もお会いになっていませんね」


「そうなのだ。ナイジェル、明日はフォールシナ姫を頼んだぞ」


「任せてください、リーン」

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