露見_2
「前にお話ししたとおり、第二王子のエルベルト殿下、同母妹のクリスチノ姫ですね」
「異母兄の第一王子ミセル殿下が正妃の王子ということで立太子されましたが、第二王子派もくすぶっているようですね」
とアンリが言えば、ナイジェルも
「テリクはルトリケがレキラタに侵攻したのを見て慌てて、ミセル殿下を国の筆頭公爵家の令嬢と婚約させ、立太子したと聞きます。ちなみにレキラタの勝因のテリクとの同盟を主導し、ルトリケ敗戦後テリク側の代表だったのも筆頭公爵でした。跡目争いがこちらにまで飛び火することのないように、国内の各領主を引き締めておく必要がありますね」
と進言した。
「確かに。飛地のレキラタとテリクが手を結ぶには、カラチロ側かルトリケ側に協力者がいた可能性が高いと思います。その件とは関係ありませんが、おじいさまもハーリード辺境伯と第二王子のつながりを指摘していらっしゃいました」
アンリも、思い出したように言う。
「そうだったな。領主といえば、ハーリード辺境伯をはじめ、ルトリケ国内の子爵以上の貴族はすべて招待していると聞いたが、他国は」
「基本的に招待者の随行の者はいるでしょうが、単独で呼ばれたのはシエラディト辺境伯だけです」
「兄上も僕も彼と話したくておじいさまにお願いしたくらいですから。婚約式はいいタイミングでした。まぁあちらにしたら、なぜ自分が、と思ったでしょうが。スイネ教会の件はむしろ好都合だったかもしれません」
「まったくそのとおりだな」
「あとはカラチロのカルドリ帝とトゥルーシナ姫ですね。そのお二人は明後日には到着のはずです」
ナイジェルが微笑んだ。
「到着したら、まず、フォールシナ姫のことを相談しなくてはならないな」
リーンはトゥルーシナに会える喜びをそっと包み隠してそう言った。
そして、机の上の封書に目を遣り、それを取り上げて「そうそう」と言って切り出した。
「実は、私のほうからも報告があるんだ」
封筒から中身を取り出す。
「その手紙はもしかして」
ナイジェルの問いにリーンが頷いた。
「ああ。シエラディト辺境伯からの返事だ」
「なんと書いてあるのですか」
アンリが身を乗り出す。
「手っ取り早く言えば、事情は承知した、ということかな。これで、シエラディト辺境伯の叱責を恐れていたスイネ教会の教会長も納得してくれるだろう。この件は一件落着だ」
リーンが反論を許さないとでもいうように、きっぱりと言い放った。
アンリは意外そうな顔をする。
そして、でも、と食い下がり、詳細を求めた。
「確か兄上は辺境伯に、ルシィがおふれで探していた人物で、しかもフォールシナ姫であると書いたのですよね。それについては」
リーンはわざわざ手紙を開いたのに、手紙の字面を目で追おうとはしない。
もう、そらで言えるほど読んだのだ。
確認するまでもないと言わんばかりに口を開く。
「傷のことは知っていたようだが、フォールシナ姫であるとは知らなかったと主張しているな。私からの手紙を見てすぐ、カルドリ帝にも連絡したそうだ。カルドリ帝はルトリケに出発寸前だったらしいが」
「兄上、それはちょっと変ですよ。フォールシナ姫であると知らなかったとは、違和感があります。セレナは十八年前に彼女をシエラディト辺境伯に預けたときどう説明していたのでしょうね」
アンリがそう疑問を口にすれば、ナイジェルも
「カルドリ帝に知らせた時、彼からシエラディト辺境伯にお咎めはなしですか」
と不思議がる。
「それはそうなんだが」
リーンはそう言って開いていた手紙を元のように折りたたんで、もう一度封筒に戻した。
「わからないことは、今とやかく推測してもしようがない。今度会ったときにカルドリ帝やシエラディト辺境伯に直接聞くとしよう。場合によってはセレナ本人を呼んでもいいかもしれない」
そして執務机の一番上の抽斗を開けてその封筒を置く。
「だがな、当事者、特にカルドリ帝が前にセレナのことはもういいと言っていたこともある。辺境伯がフォールシナ姫だと知っていたかどうかは、とりあえず今は問うまい。後回しだ」
と言いながら、抽斗を閉めた。
「でも、それによってシエラディト辺境伯の思惑や彼が連れてきたエディのことなどもわかる気がするんですが」
アンリは引き下がらない。
「兄上、シエラディト辺境伯のほうから言ってきたことはないのですか」
「たとえばどんなことだ」
「その、フォールシナ姫にはエディという恋人がいたんでしょう。しかも、シエラディト辺境伯もハーリード辺境伯もスイネ教会の教会長も公認だという」
「それがどうした」
「フォールシナ姫の結婚について何か言及はなかったのですか」
「ないな。アンリ、気にかかっていることをはっきり言ってみろ」
リーンに言われて、アンリは少ししょげたような顔をする。
「すみません、少し回りくどく聞いてしまいました」
自分の話の進め方がまずかったと反省したのか、今度はテーブルの上に紙を置いてメモ書きしながらもう一度説明をし始めた。
「シエラディト辺境伯がルシィの正体を知っていたかどうかは、この際不問としましょう。でも、自分の孫のように、と教会長に指示するくらいです。マナーや教養など高位貴族の令嬢と比しても遜色のない女性に育てていたんです。だとすれば、結婚相手もそれに見合う高位貴族もしくはそれ以上の身分の男性を考えていたはずではありませんか」
「つまり、辺境伯が恋人と公認したエディはそういう身分の男だと言いたいのだな」
「はい。そしてそんな高い身分の若い男性は、国内はもちろん他国を探してもそうそういるものではありません」
「アンリ、率直に言ってみろ」
「兄上、シエラディト辺境伯もハーリード辺境伯も知っている高い身分の若い男性は、僕には一人しか思い浮かびません」
そこまで言われて、とうとうリーンは観念したようにナイジェルに命じた。
「ナイジェル、すまない。テリクの第二王子エルベルト殿下の肖像をもう一度見せてくれ。アンリはマキシムとバルトリスを呼べ。二人とも今の時間は城に戻っているはずだ」




