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露見_1

フォールシナ姫を連れ帰った日から一週間経つ。


リーンがナイジェル邸でのフォールシナ姫のようすを尋ねていた。


「フォールシナ姫のようすはどうだ」


「外から見るだけだと、だいぶ落ち着いてはいるようです。食事も残すことなく、しっかり食べているようですし」


アンリが思いやるように言う。


「でも自分がカラチロの姫だったとか、住み慣れた場所から引き離されてしまったとか、ストレスは大きいでしょうね。恋人とも会えなくなってしまいましたし」


「一度、私が説明したほうがよいだろうか」


「いや陛下が直接話す必要はないと思いますが、確かに先々の予定を聞かされていれば心構えもできますし、精神衛生上よい方向に働くかもしれませんね。私のほうで説明しておきましょうか」


「確かに、そのほうが彼女にとってもよいかもしれないな。私は恋人同士を引き離した悪役だから」


リーンが自嘲気味に苦笑する。


「兄上は真剣な顔をすると怖いですから」


アンリが宥めるように言った。


「で、予定の話の続きだが、当面はカルドリ帝トゥルーシナとの対面と婚約式だが、彼女の貴族としての振る舞いに心配はいらぬか」


「母や侍女の話では、やはり、マナーはひととおり身につけているようですね。言葉のほうも五か国語、ほぼすべて完璧だそうです」


「では他国の方々と引き合わせるのにも通訳なしで大丈夫だな。それにしても、さすがはハーリード辺境伯だ。もちろん、彼女の努力の賜物でもあるのだろうが」


フォールシナ姫は、スイネ教会にハーリード辺境伯が派遣した教師から一年間、貴族と遜色のないマナーや教養などの教育を受けていたのだ。


またスイネ教会では、ルトリケ、カラチロ、テリク、レキラタ各国の母語と、この四国の公用語であるルラクタ語を十歳ごろには日常語レベルまで習得させているという。


「確かにこちらにいらっしゃってすぐの、兄上から紹介されたときのご挨拶ひとつとっても、とても見事でした」


アンリも同調する。


「ダンスのほうはどうだ。婚約式後の舞踏会には間に合いそうか」


「それには間に合うと思いますよ。実は私が相手役をしたのですが、数年のブランクはあるものの、体が覚えているというか」


「ナイジェルが相手役。ふーん。兄上、舞踏会では僕も彼女と踊ってみたいです」


「珍しいな。アンリがそんなことを言うとは。でも、お前はあまり踊り慣れてないから相手は大変だな」


「リーン、それはあなたもでしょう。人のことは言えませんよ。しかも、みんなの前で最初にトゥルーシナ姫と踊るのですから。みっともないことはできませんよ。アンリもお相手探すんだから覚悟しておくように。二人ともダンスの練習はしておいたほうがいいですね。このあと私の邸で練習です。わかりましたね」


ナイジェルの様子を見るに、かなり本気のようである。


思わぬとばっちりを受けてリーンはアンリと顔を見合わせて肩をすくめた。


そんな二人を見ながら、ナイジェルはポケットからメモを取り出した。


「もう一つ、私から報告があります。大したことではないのですが、一応お耳に」


「なんだ」


「セレナの嫁ぎ先のハニウェル男爵の件です」


「何か動きがあったか」


「いや、本当にそんなに大したことではないのです。忍ばせた者によると、隣国レキラタの人間の出入りが多いという話で」


「あそこは確か服飾品を手広く扱う商会だったな」


「はい。少し前までは、衣類の原料となる植物も宝飾品の材料となる鉱物も、カラチロから輸入していたようですが」


「兄上、シエラディト領からでしょうか。あそこの特産物ですものね」


「確かに、セレナの実家から輸入していた可能性もあるな。調べればわかると思うが。しかし、それが、最近はレキラタから輸入に変えているとかもしれないいうことか」


リーンの言葉に


「レキラタも原材料の植物や鉱物は特産品としていますからね」


とナイジェルが指摘するのを受けて、アンリがふと


「確かに、それだけ聞くと、父上がレキラタに侵攻したのはわかる気がします。いや、絶対にわかってはいけないことなのですが」


と漏らした。


やや重苦しい雰囲気となり皆が少し沈黙した後、リーンが話題を変えようとするように言った。


「うーむ。それで言うと今度の婚約式にはレキラタからどなたを招待したのだ」


「お待ちください」


ナイジェルが執務机の上に立てられた本の脇から綴じられた書類束を取り出して確認する。


「王弟のヒラリス殿下とご夫人ですね」


「ルトリケがレキラタとテリクの同盟に敗れた時、敗戦処理でいらっしゃった方だな。アンリも私も面識のある方だ。夫婦仲もとても良いと聞いている」


レキラタはヒラリスの同母兄のケイズ王が即位して十年目だ。


リーンたちの父のキーツ王が三年前に侵攻した時、すでにレキラタに国内の政情は安定していて、盤石だった。


そもそもルトリケのつけ入る隙などなかったのだ。


リーンはここでも父の失敗と今も残る傷跡を痛感した。


「ヒラリス殿下はケイズ王より五歳下ながら、王をしっかりと補佐なさっていると伺いました。僕も内心尊敬していて、ぜひお話ししてみたいと思っています」


「アンリは自分に重ねているようだけど、夫人どころか婚約者すらいないところが違うね」


「ちょっ、ナイジェル、やめてよ。僕真剣だよ。そこ茶化すとこじゃないでしょ。兄上も何か言ってやってください」


「そうだな、舞踏会でこれはという女性が見つかることを祈っているよ」


「なんかもうっ、兄上までそんな適当に」


「だが、そうだな、私としても、安定している今のレキラタの国情にあやかりたい気持ちが強い。地形も気候もルトリケとは違うが、灌漑設備など施策も大いに参考にしたいところだ。王弟殿下との会談は私にとっても楽しみだ。で、テリクの招待者は」


リーンはクスクス笑っていた先ほどの顔を元の表情に戻して話を進めた。



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