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恋人_2

リーンは今何を優先にするべきかを考えていた。


最優先はフォールシナ姫の保護だ。


見逃す?


それはできない。


相手は姫なのだ。


ただの孤児ではない。


なら、いつ保護するか。


今か。


それとも一度帰って、出直すか。


もう一度目の前の男を見た。


結婚を誓っているという。


女性のほうだって離れたくはないだろう。


下手をすると一緒に逃げてしまうかもしれない。


考えたくはないことだが。


そうするともう、手が届かない。


しかもバックに二人の辺境伯がついているのだ。


今を逃すともう機会はない。


リーンの心は決まった。


今ここで遠慮するべきことは何もない。


私はこの国の王だから。


遠慮するべき相手もいない、はずだ。


「ルシィ様」


リーンはルシィの目をしっかりと見て呼びかける。


ルシィの視線がエドアルドからリーンに移った。


怯えているのが見て取れる。


しかし今はそれは気にかけまい。


流されてはだめだ。


もう一度呼びかける。


「ルシィ様」


そして一気に踏み込んだ。


「いえ、カラチロ国カルドリ帝ご息女フォールシナ姫殿下。私はこの国の王、リーン・シュルツ・セオドア二世・ルトリケです。あなた様をお迎えに上がりました」


それを聞き、先ほどまで顔を上げて真直ぐにリーンやマキシムを見ていたエドアルドがうなだれた。


そのようすに少しばかりリーンの心が痛む。


私は心惹かれあう二人を無理やり引き裂こうとしている。


ルシィは体をこわばらせたまま、立ち尽くす教会長と跪いてうなだれたままのエドアルドを交互に見て助けを求める。


けれど私はこの国の王だ。


そしてこれはこの国の王のすることだ。


誰も何もできない、はずだ。


もう一度自分に言い聞かせてリーンがフォールシナ姫の右手を取った時、上からさらにもう一人の手が被さった。


「お待ちください、国王陛下」


エドアルドが顔を上げる。


「ルシィが、陛下のおっしゃる通り、そのフォールシナ姫であるとして、保護されたあとどうなるのですか」


「っ、エドアルド、無礼だぞ」


教会長が止めようとする。


リーンは実際のところ、連れ帰ったあとどうするかは、はっきり決めてはいなかった。


ただ確実に言えることはある。


「教会長、かまわぬ」


と言い、リーンの右手に重ねたままだったエドアルドの右手をそっと自分の左手で戻した。


そしてフォールシナ姫の右手に添えていた自分の右手を離すと、跪いたままだったエドアルドを立たせる。


誠実であらなければ。


エドアルドの目を見て、静かに言い聞かせるように話す。


「フォールシナ姫と結婚を約束していた貴公にとっては寝耳に水で、さぞ驚かれたであろう。それについては詫びを言う。姫はわが城にお連れしたあと、まずはゆっくりお休みいただく。そのあと、姫との再会を心待ちになさっているカラチロ国の皇帝陛下と姉君の皇女にお引き合わせする予定だ」


「そのあとは、そのあとのことは」


エドアルドが堂々と食らいついてくる。


どこまで話していいのだろうか。


迷う。


リーンが振り返ってマキシムトバルトリスを見た。


二人とも頷く。


それで正直に話してよいのだと判断した。


「あと数週間後にある、私の婚約発表に出席していただく」


落ち着いていたエドアルドが急にうろたえた。


マキシムが小声で


「リーン、端折りすぎ」


と囁く。


それで気がついた。


「勘違いするな。私はフォールシナ姫の姉君のトゥルーシナ姫と婚約している。私の誕生日に彼女との婚約式を執り行う。その式に婚約者の妹君として出席していただくのだ」


「ルシィが陛下の、婚約式に出席」


「そうだ。とりあえず決まっているのはそこまでだ」


エドアルドはうつむいて黙り込んだ。


教会長がおずおずと尋ねる。


「陛下、今日のことはルシィを私に託したシエラディト辺境伯になんとお話しすればよいでしょうか。私には申し開きができません。辺境伯から彼の孫のように育てよとお預かりしているのに叱責されてしまいます」


「教会長、そなたは何も心配しなくともよい。シエラディト辺境伯には私からきちんと話をする。それよりも、フォールシナ姫を十五年以上大切に育ててくれたこと、姫の父君に代わって礼を言う」


それを聞いて教会長が先ほどとは逆に思い切ったように言う。


「それでは、最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか」


「なんだ。私にできることであれば」


「身分差があるとはいえ、恋仲の二人です。せめて、別れの時間を二人に設けてやっていただけませんか」


「確かに。そうだな、私たちは十分間だけ、この部屋から出ていこう。愛しい相手との別れだ、聞かれたくないこともあろう。防音魔法をかけよう。ただし、十分間だけだぞ」


そう念押しをして、リーンはバルトリスに部屋に防音魔法をかけさせた。


そして部屋にエドアルドとフォールシナ姫を残し、全員が出て行く。


部屋を出た男たちはみな、終始無言だった。


これでよいのだと、リーンは自分に繰り返し無理やり言い聞かせる。


約束の時間が過ぎた。


「入るぞ」


そう声をかけ、そっと扉を押して部屋に入る。


リーンは二人を見た。


涙のあとでもあるか、そうリーンは思ったが、見当外れだった。


フォールシナ姫は先ほどの動揺のようすが嘘のように穏やかな表情をしている。


そして振る舞いも格段に優雅に見えた。


一方のエドアルドもまた堂々としている。


二人は最後に短い時間だが抱き合った。


「それではまた、エ———トさま」


小声でそうフォールシナ姫がエドアルドに告げるのを聞きながら、「また」があるのかと、リーンは訝しがる。


やがてリーンはバルトリスの転移術でマキシム、フォールシナ姫とともに王城に戻ってきた。

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