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教会長語る_3

「どうなのですか、違いますか」


教会長は目を閉じる。


「そうだとしたら、何か問題でも」


「我々は、ルシィがここに来たいきさつを知りたいと思っています。もし、ルシィを連れてきたのがシエラディト辺境伯であるなら、その時のようすや、ルシィをどうするつもりなのかを教えてほしいのです」


「なぜ、ルシィにそこまで」


教会長にそう問われて、マキシムはリーンを見た。


事前の打ち合わせで、少なくとも本人がいない場ではフォールシナ姫のことを口に出さないことにしていた。


マキシムのまなざしは確認の合図だ。


そう見て、リーンは首をかすかに横に振った。


言うなというメッセージだ。


マキシムが言う。


「三か月ほど前にルトリケ中に出されたおふれを教会長はご存じありませんでしたか」


「おふれ、とは」


「うなじから右肩にかけてケロイド状の青い傷のある人物やその人物を知る者は名乗り出よ、というおふれです。ここ、ハーリード領にも伝達はあったはずですが」


「なるほど、それで」


「ルシィはその条件に合います。教会長、あなたもご存じだったはず。彼女の傷は髪の毛を上げればすぐ露わになりますから」


教会長は黙っている。


リーンは焦った。


今はそこを糾弾するところではない。


追及も度が過ぎると自分が罰を受けるのではないかと委縮させてしまう。


この際もう、おふれを知っていたかとかなぜルシィを引き渡さなかったかとかはいい。


話をルシィが来たいきさつに戻してくれ。


リーンはバルトリスに目配せした。


バルトリスは顎に手をやり少し考えていたが、話がそれたことに思い当たったのか、


「話を戻しますが、ここにルシィを連れてきたとき、シエラディト辺境伯は何か言っていませんでしたか」


と教会長に尋ねた。


彼はまだ黙っている。


「聞き方を変えます。ルシィは辺境伯の子どもですか」


「いや、そうではない」


やっと教会長が口を開いた。


「自分の娘の子どもだと言っていました」


「娘の子ども」


「そう。孫だと。それで、どこに出しても恥ずかしくないように養育しろと言う話でした」


「辺境伯の孫として、どこに出しても恥ずかしくないように養育するということですね」


バルトリスが鸚鵡返しに聞いた。


「そうです」


「それはつまり、貴族として」


「そうです」


リーンは教会長の立ち姿を見ていた。


この様子だと、教会長は嘘をついているわけではあるまい。


シエラディト辺境伯はどこまでルシィのことを知っているのだろう。


マキシムを見た。


マキシムは自分が先ほどした後のほうの質問を思い出したようだ。


「で、この先ルシィをどうするつもりだったのですか。もう彼女も十八ですよ」


「時が来ればシエラディト辺境伯が引き取りに来るはずです」


「時とは、いつ」


「それは、、わかりません」


これは本当に知らないのだろう。


しかし、今の話からすると、このままにしておくと、やがてルシィはシエラディト辺境伯のもとに戻される。


そのとき、あのエディという男はどうするのだろうか。


リーンがそう思ったとき、マキシムも思い当たったのか、教会長に尋ねた。


「あの、ルシィの恋人という男はどうするのです。傍観していてよいのですか。シエラディト辺境伯がよく黙っていますね」


かなり乱暴な聞き方だったが、意外にも落ち着いた声で教会長は答える。


「それについては大丈夫です。エディはそもそもシエラディト辺境伯に連れられてきたのですから。エディが初めて来た日、たまたま山からイノシシが降りてきて、ケガをしました。手当てをしたのがルシィです」


先ほど遠目に確認したルシィを思い浮かべる。


トゥルーに似ていると思った。


そしてたぶんフォールシナ姫だろうと。


でも、そうだとしてそのあとどうするのか、その時点では決めていなかった。


今も何も決めていない。


フォールシナ姫が見つかったとして、では今日はどうするのが正解なのか。


何も言わずに帰るのか。


事情を簡単に説明して帰るのか。


しかし、今の話からすると、教会長の言うように時が来ればシエラディト辺境伯のもとに戻り、エディと結婚する可能性もある。


もちろん、フォールシナ姫が幸せならばよい。


幸せならばよいのだ。


しかし、それはどうなのか。


本当に幸せか。


カルドリ帝との約束はどうするのか。


それにしても。


まったく私はいつもいったい何をうじうじと悩んでいるのだ。


リーンはどんどんと一人だけ自己嫌悪に陥っていた。


リーンをよそに、マキシムが思い切ったように尋ねる。


「それで、エディという青年はいったい何者なのですか。カラチロの貴族でしょうか」


「それはっ」


教会長が口籠ったとき、ドアノブのカチャッという音がした。


リーンがそっと後方にある扉を窺う。


リーンの位置から扉が少しだけ開いたのが見えた。


そして、そのわずかな隙間から、幼い子の声が聞こえた。


「きょうかいちょうせんせ、るしぃおねえちゃん、つれてきたよ」


その声に教会長の頬が緩んだ。


そして扉のほうに向き、


「ああ、トミーだね、ありがとう。外で遊んでおいで。ルシィはお入り」


となんとも優しい声をかける。


はーいと言う元気なかわいい声が聞こえて、小さな足音が扉から遠ざかっていった。


全員の視線が扉のほうに向く。


リーンもまた扉がゆるりと開くのをぼんやりと見ていた。


ルシィがいよいよここに入ってくる。


私は何をどうするべきなのだろうか。


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