教会長語る_1
「私はジョエル・イハルンの所属する第一騎士団の団長、マキシム・ヴェルダーと申します」
教会長は椅子に腰かけたままマキシムを見、そのまま彼越しにリーンと目を合わせてきた。
にこやかだが、目は笑っていない。
疑うような目に見えたのは私も緊張しているからだろうか。
だが教会長が自分たち四人の来訪者を警戒しているのは間違いないだろう。
無理もない。
こんな牧歌的な辺境の地に、突然見ず知らずの男たちが押し掛けてきたのだ。
常駐しているジョエルはともかく、ほかは、一人が騎士服、もう一人が魔術師のいでたちだ。
一番後ろに立つ私にしても、この平和な教会にはどことなく不似合いである。
それでも教会長が堂々とした態度で、こちらに圧倒される様子もないのは、さすが、少ないとはいえこの国のテクレ教の教会を束ねる長だ。
また日頃から二人の辺境伯らと渡り合っていることもあるのかもしれない。
マキシムはひととおりの挨拶のあと、事務的に話を続けている。
「本日は二点お願いがあり、伺いました。一つは貴教会についてのお話をお聞かせいただきたく、今ひとつは貴教会で保護なさっているルシィ嬢とのお話しすることをお許しいただきたく」
そこまで聞いて、教会長が立ち上がってマキシムを右手で制止した。
「お待ちください、ここにはまだルシィは来ておりません、先に彼女を呼びに行かせましょう」
低く落ち着いた声でそう言うと、教会長はリーンたち四人の傍らを通り抜けて出入り口まで行く。
そして扉を開けて、たまたま通りがかった五歳くらいの子どもに声をかけた。
「あっトミー、ちょうどよかった。ルシィを呼んできてくれるかな。今食堂にいると思う。慌てなくていいよ。急いではいないから」
リーンはそれを優しい声だと聞いた。
ルシィが昼食の真最中で、ここまで来るのに時間がかかると判断しての指示なのであろう。
また、慌てるな、急ぐなの言葉には、おつかいにやる子どもへの思いやりと今からの自分たちの話に時間をかけようとする心遣いを感じた。
誠実な男なのかもしれない。
教会長は元の席には戻らず、机の前に立ったままマキシムに顔を向けた。
「それで教会についてお聞きになりたいこととは」
リーンはコホンと小さく咳をして、マキシムに合図した。
彼は前もって自分と打ち合わせしていた事柄を、打ち合わせしていた通りの手順に則って聞き取っていくはずだ。
狙いは、調べればわかること以外の情報を手に入れることと、教会長がどこまで信頼のおける男か見定めるということ。
マキシムが隣のバルトリスを見て発話を促した。
バルトリスが口火を切る。
「ここに来るとき、子どもたちを見かけました。学ぶ子ども、のびのびと駆ける子ども。子どもたちはみな、明るくて活発ですね」
教会長はそれまでの警戒や緊張を少し緩めるかのように硬い表情をちょっとだけ和らげて、バルトリスに視線を移して子どもたちの自慢を始める。
優秀なこと、素直なこと、頑張り屋なところ、等々、具体例を挙げながら、どんどん顔を綻ばせていく。
その笑みに偽りはなさそうだ。
バルトリスも微笑みながら相槌を打ち、重ねて教育方針や教育のしかたなど自分の関心ごとを尋ねた。
それらは教会長がこの施設で最も力を入れているところでもあるのだろう。
彼の喋りがどんどん滑らかになってきたところで、頷いていたマキシムが本題に入った。
「本当に素晴らしい教会ですね。最初からこのような教育方針だったのですか」
「いや、最初は他国から移住してきた民のための教会でした。今もその子孫が多数を占めますが」
「ほう、では教会のできたいきさつについて聞かせてください」
「教会はカール王七十五周年の時に建てられました。シリル・ハーリード様が辺境伯を継いですぐ、やはり即位したばかりのサーシ王から認可を受けたのです」
「わざわざ国に申請したのですか」
この国では王都に教会を建てる場合は、国に申請し認可を得る必要がある。
しかし領地内に教会を建てる場合は領主に届け出るだけでよい。
それはどの宗教についても言えることである。
「はい。テクレ教の教会は、それまではここハーリード領はもちろん、ルトリケのどこを探してもなかったのです。何事も最初が肝心ですから、しっかり認可を取っておこうとその時思い立ち」
「その年に建てたのは何か理由が」
「カール王七十五周年というのがどういう年かご存知ですか。あなたがたのような若い方々にはお分かりにならないかもしれませんが」
と、教会長は言葉をいったん切って、マキシムの後方にいるリーンに意味深な視線を合わせた。
リーンはまるで自分が王であることを見透かされ、教会長から挑まれているような気持ちになりながら、三十年近く前に何があったのか、考えてみようとした。
ところが教会長は苦笑いをしながら
「少し意地悪をしましたね。あなた方がお生まれになる何十年も昔のことです。そしてそれが、たまたまこの国にとってはカール王七十五周年に当たる年だったというだけです。この国であったことではありませんから。たとえ王国の歴史を習っていたとしても、当てられないのも無理ないことですよ」
と言う。
そして
「実は、その前年から隣国のテリク北東部でひどい干ばつがあったのです」
と続けた。
「隣国の干ばつとこの教会がなぜ」
「ヴェルダー騎士団長殿、まあそうお急ぎにならずに」
教会長が結論を急ぐマキシムをちょっとだけ宥めるような手振りをしながら続けた。




