教会にて_2
マキシムが尋ねる 。
「エディというのは本名か」
「愛称か何かだと思います。子どもまで、みんなエディと気安く声をかけていますね」
「なるほど、彼はここによく来ているのか」
「はい、毎日だいたいこれくらいの時刻には来ていますね」
「毎日か」
「ええ、少し農作業の手伝いをしたあとルシィと一緒に昼ご飯を食べて、一時間ほど過ごしてから帰っていきます」
「いつ頃からここに来ているか、知っているか」
「それについては存じあげません。私が一週間ほど前に、教会の検分を命じられて初めてここに来た日にはすでに」
「なるほど、どのような素性の者だ。何かルシィが話していないか」
「それについては何とも。無理に聞くこともできず」
「確かに、それなら、二人のなれそめ、どうやって知り合ったかについても聞くのは難しかろう」
「そうですね。それについてもわかりかねます」
リーンは「わからない」と繰り返すジョエルをぼんやり見ていた。
やむをえまい。
あくまでも調査を命じられた対象はルシィだ。
それからすると、エディの存在は二次的なもの。
彼に対してそこまで時間もかけられまい。
むしろ今日ここに私がいるというのは幸いなことだ。
この目で確かめればよいのだから、
マキシムとジョエルが話しているうちに、エディは右手にりんごでいっぱいになった籠を持ち、左手をルシィの右手と絡めて、保管場所とみられる小さな建屋のほうに向かっていく。
バルトリスが
「恋仲というのは、どうやら疑いようのないことですね」
と呟く。
リーンも肯定せざるをえなかった。
ナイジェルの「少しほっとしているくらいです」という言葉を思い出す。
ルシィに恋人がいると聞いたときに口にした言葉だ。
自分もルシィにも幸せになってほしいと思う。
そう。
だからなおさら、エディがどんな男で、どのような考えの持ち主なのか気になる。
と言うか、逆にもしエディの手がルシィの手を戯れに取ったのだとしたら許さない。
リーンはマキシムに囁いた。
「教会長のところに案内させろ。彼なら、エディの素性を知っているだろう」
「承知しました。でもくれぐれも勝手なことはお控えください」
リーンに念を押して、ジョエルに声をかけた。
「このあと、教会長と話がしたいのだが、案内できるか」
「畏まりました。昨日のうちに申し入れは済んでいます」
一行は降りてきた斜面を上がり、元の小径に戻ったあとゆっくりと下って、教会の建物のある場所を目指して歩いた。
先ほど丘のような場所から見下ろしたときにはよくわからなかったが、牧場はもちろん、畑や果樹園も思いのほか広かった。
また外からは見えないような位置に、子どもたちが駆け回れるようなちょっとしたスペースがあるようで、子どもたちの遊ぶ声がリーンのいる場所まで届いた。
なかなかに活気があるな。
そう思ったとき、建物の陰から男の子の顔がひょっこり飛び出した。
「ジョエルさん、こんにちは。ジョエルさんの声が聞こえたから」
ジョエルは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに微笑みを返して
「ああ、ゲルダ、こんにちは」
と応え、マキシムたちに
「少しだけここでお待ちを」
と言って、立ち止まらせた。
リーンたちは何ごとかと戸惑いながら待つ。
すると、建物の陰から見えていたゲルダと呼ばれた男の子の顔の位置が徐々に高くなっていく。
次に建物から出てきたのは松葉杖とそれを持つ左腕。
次いでゆっくりと右腕と松葉杖。
体の向きを変えてこちらに。
ゲルダが松葉杖をつきながらゆっくりゆっくりやってくる。
見ると左足の膝から下がなかった。
「今日はここまで来られたのか、がんばったな」
ジョエルはゲルダの頭をなでる。
ゲルダはニコッと笑った。
「えへっ、エディにいちゃんにもほめられたよ」
「そうなんだ、ゲルダは頑張り屋だからな」
ゲルダはにこにこしながらまたゆっくりゆっくりと元の場所のほうに戻っていった。
再び歩き出しながら、ジョエルは後ろのマキシムたちを振り返って言った。
「彼、俺と同じ日にここに来たんですよ、で、あんな顔ができるようになったのは最近です」
「あの足は」
「あれは、三年ほど前にルトリケがレキラタに侵攻した時に巻き込まれて」
と言いかけて、口を噤んだ。
リーンにはわかる、ジョエルがその次に言おうとした言葉が。
ゲルダが怪我をした原因となった戦争を仕掛けたのは私の父だ。
やるせない。
昨日の「この孤児院にはいろいろな子どもがいる」というマキシムの報告を思い出す。
いろいろな子ども。
その言葉には、こんな、戦争の被害者も含んでいるのだと思い知った。
戦争によってどんなことが起こったか、少しでも考えればわかることなのに。
創造力が足りなすぎた。
リーンの気持ちを察したのか、バルトリスが話題を変えるように
「教会長は礼拝堂ですか」
と聞いた。
目の前の扉は開放され、中のようすが見える。
ルティル教の礼拝堂と似ているが、礼拝堂の中央にテクレ教のシンボルとしておかれいているのは人を象った像だった。
「いえ、多分今の時間は私室に」
と答えるジョエルのあとについて他の三人も階段をのぼり、突き当たりにある教会長の私室に向かった。
ジョエルが扉をノックする。
「どうぞ」
中からやや年齢を感じさせるものの、張りのある低い声が聞こえた。
「失礼します。昨日の件で来室いたしました」
とジョエルが告げ、彼を先頭に、マキシム、バルトリス、そしてリーンが入室する。
教会長は部屋の奥にしつらえた木製の机の向こう側に座っていた。
リーンは教会長のようすを観察した。
年のころは七十歳前後か。
ジョエルに紹介されてマキシムが切り出した。




