教会にて_1
リーンとマキシムがバルトリスの転移魔法で約束の場所に着いたとき、すでにマキシム配下の騎士が待っていた。
彼は名をジョエルと言う。
マキシムがテクレ教の教会の調査を始めた一週間前からずっと、スイネ教会を検分している騎士の一人だ。
三人が交代でこの教会に泊まり込み、今日は彼がちょうど当番だったらしい。
調査開始から現在も引き続き調査をしていたるせいか、ルシィも警戒することなく話すようになっているという。
「ジョエル、いつも苦労をかける」
「はっ、騎士団長殿」
ジョエルは最敬礼をしたあと、マキシムの後に続く二人をちらっと見た。
そしてリーンの顔に気づき、さっと跪く。
「これは国王陛下。私はワイゼル・イハルン子爵が次男、ジョエル・イハルンと申します。このたび、マキシム騎士団長の命を受け」
リーンが遮った。
「堅苦しい挨拶はよい。今日はマキシムの随伴者だ。隣にいる宮廷魔術師のバルトリスも同様。本日はよろしく頼む」
「ジョエル、早速だが、ルシィの見えるところに案内してくれ」
そうマキシムに促されて、ジョエルが先導する。
ジョエルは歩く道すがら、遠目に見える教会のようすについて説明した。
歩いている小径は教会の敷地全体を一望できる小高い場所に沿って続いている。
この国で一番大きなテクレ教の教会とあって、敷地はたいそう広い。
しかし、その中で教会の建物が占める面積は決して大きくない。
畑や果樹園、牧場がある。
そこから収穫されるもので、教会やその周りに住む人々の暮らしがある程度は賄えるようにみえた。
左手を見下ろすと、教会の裏手に年端のいかない子どもたちが十人ほど座っている。
子どもたちに気がついて、ジョエルが解説した。
「あれは、言語や簡単な計算を教わっているところです。天気がいいので、外でやっているのでしょう」
「毎日やるのですか」
バルトリスの問いに、ジョエルは頷き
「お昼前の小半時は毎日あんな感じです。雨の日や風の強い日など、外で行えないときは、教会の中の集会室を使うそうです。ここ一週間晴れているので、屋内でやっているのは見たことがありませんが」
と答えた。
「子どもたち、熱心ですね」
「飽きないように、絵本や紙芝居、それから、日によっては体を使って教えています」
「なるほど、工夫していますね」
二人のそんなやりとりを聞きながら、リーンはマキシムと小声でこのあとの流れを確認していた。
遠くからルシィのようすを確認し、フォールシナ姫である可能性が高いとなれば、教会長に目通りし、彼女も呼ぶ。
「いいですか、陛下。そうなったら私に任せて。陛下は出しゃばらないで、後ろでじっとしていてくださいよ」
マキシムめ。
牽制しているな。
昨日私が「フォールシナ姫の相手の男に会いに行く」と息巻いたことを危ぶんでいるのだろう。
「陛下はいつもは冷静で思慮深いのに、トゥルーシナ姫フォールシナ姫絡みとなるとぐちゃぐちゃですからね。よろしくお願いしますよ」
マキシムに耳打ちされ、さらなる念押しをされたところで、不意にジョエルが立ち止まった。
「ここから少し下ります」
小径を外れ、斜面を三、四歩降りる。
教会側に体を向けると、赤い実のなっている数本の木が見えた。
手を伸ばせば届く程度に低く仕立てたりんごの木が、間隔をあけて植えられていた。
数人の若い女性が赤く色づいたりんごをもいでいる。
その一番右の木のところにいる少女を、ジョエルは指さした。
「あの、左手に籠を下げているのがルシィです」
マキシムがジョエルに聞こえないように小声で尋ねた。
「陛下、いかがですか。トゥルーシナ姫と似ていらっしゃいますか」
「マキシムはどう思う」
逆にリーンがマキシムに振り、彼は
「私は先日のカラチロ訪問の際にも挨拶を少し交わしただけなので。髪の毛の色は似ていなくもないと思いますが」
と遠慮がちに、お茶を濁した。
一方のバルトリスもカラチロでは同程度しか話していないはずだ。
そうリーンは思ったが、こちらは
「遠目で見ても、佇まいは似ていると思います」
と明言した。
リーン自身も
「立ち姿や髪の毛の靡くさまなど、トゥルーシナを思い出させるな」
と同意する。
ジョエルが声をかけてきた。
「どうなさいますか。もう少し近くに寄ってごらんになりますか」
リーンはマキシムと顔を見合わせる。
リーンが頷いた。
マキシムがジョエルに合図し、さらに数歩斜面を降りようとした。
そのとき、一人の若者がゆっくりとルシィに近づいていくのが見えた 。
「うん?あの男は」
リーンが目配せし、マキシムがジョエルに問う。
「あれは、エディですね。ルシィはエディのことを恋人だと言っています」
昨日聞いた報告の通りだ。
「エディ、か。ジョエルは話したことがあるのか」
「あっ、はい。挨拶を交わす程度ですが、感じのいいやつですよ」
ジョエルがマキシムに答えている。
リーンは男の容姿を確認しようと目を凝らした。
しかし、エディの顔立ちを確かめるには遠すぎて、よくわからなかった。
髪色はこの国によくある茶色、伸ばした髪を左肩のところでゆるく結び、前に垂らしていた。
背は高く、すらっとしてやせ型。
服装は平民のように見えるが、見たところ労働をしている体つきではない。
体つきだけでなく、身のこなしも貴族のそれのように見えた。
エディの素性を知る術はないだろうか。
教会長なら知っているだろう。
いや、むしろ、知らないはずがなかろう。




