騎士の報告_3
「フォールシナ姫には親しい仲の男性がいるようです」
「なんですって」
「どういうことだ」
「今回の検分で何度か出向いていた配下の者からの報告です。いつも決まった男と一緒にいたとのこと」
「どんな男だ」
「若い男だとしか」
「本当に親しいのですか」
「ルシィに尋ねると恋人だと答えたそうです」
「恋人!?」
本当に親しいのか尋ねたアンリが、両手で口を押さえる。、
「それは教会側も認めているのか」
「報告書だけではわかりかねます」
「しかし、本人が隠しもせずに恋人だと答えているわけですから、特に交際を禁じているわけではないように思われますね」
アンリが言うと
「教会公認ですか。ということは、シエラディト辺境伯やハーリード辺境伯も了承していると見てよいのでしょうね」
とナイジェルが指摘し、他の面子も納得したような顔をした。
「で、相手の男の年齢や容姿、身なりについては何かわかることはあるか」
「相手の男性の素性について、詳しいことは書かれていません。若い男であるとしか」
「その男はそこにとどまっているのだろうか」
「それもちょっとわかりかねます」
「何もわからない、か。まずいな。やはり、明日はどうしても行くぞ。フォールシナ姫であることの最終確認と、相手の男を見ておくために」
「殿下、何がまずいのですか。何か殿下を苛立たせるようなことがありましたか」
とリーンの焦った様子に、ナイジェルが戸惑ったように口を開いた。そして
「ルシィに恋人がいるということはいけないことなのでしょうか。親しい仲の異性がいるだなんて、素敵なことじゃないですか。正直なところ、私はフォールシナ姫に同情していました。生まれた時から肉親と離されてしまって。本当なら皇女として何一つ不自由のない生活をしていただろうに、孤児として育てられて。だけど、そんな男性がいるのなら、きっと彼女も今は幸せだということでしょう。少しほっとしているくらいです」
といつもはどちらかというとお調子者の彼がいつになくしんみり続けた。
すると今度は
「えっ。相手の男を見たいって。なんで。もしかして、リーンはフォールシナ姫も狙ってたの。執拗に探していた理由がそれだったりして」
と最近までフォールシナを探す必然性にこだわっていたマキシムが、リーンを茶化すように言った。
リーンは黙り込む。
そうじゃない。
私だって当然、フォールシナ姫の幸せを望んでいる。
だけど、そうじゃないんだ。
リーンの中で、昨日から引きずっていたもやもやとした気持ちがさらに大きくなっていた。
親しい間柄のこの四人にすら言えていないこと。
今、みんなに自分の背負っていることを言えたらどんなに楽だろう。
カルドリ帝から聞かされていたフォールシナ姫の秘密。
それは、トゥルーシナにも共通する秘密だ。
二人には龍痕がある。
そしてそれは、婚儀によって、相手に恩寵をもたらすという。
カルドリの言葉が頭をよぎる。
「だから、結婚するかしないか、結婚するなら誰とするのかというのは、とても重大な問題なんだよ。それは結婚する相手にとってだけでなく、我が国にとっても」
私はトゥルーシナと結婚する。
トゥルーシナが結婚によって結婚相手である私に大きな力をもたらすということは、場合によってはルトリケのほうがカラチロよりも勢力が大きくなるということだ。
それをフォールシナ姫に当てはめて考えてみる。
フォールシナ姫の恋人はまだどんな男かわからない。
けれど、フォールシナ姫も結婚によって大きな力を相手にもたらすことは事実なのだろう。
大きな力がどのような力なのかもわからない。
だが、それはすなわち、場合によってはフォールシナ姫の結婚相手にカラチロや、もしかしたらルトリケが脅かされる可能性があるということを示している。
その男が身分も権力もない男だったらどうか。
それならそれで皆が丸く収まるのだろうか。
フォールシナ姫自身も幸せで。
だが、野心は人を変える。
相手の男だってわからない。
ひとたび欲を出せば、どうなることかわからない。
恩寵のことを知れば、なおさら貪欲になるかもしれない。
しかも、シエラディト辺境伯やハーリード辺境伯が了承している可能性もあるのだ。
彼らが認める男との結婚。
それがもたらすものへの得体の知れない畏れ。
そこまで思うに至って、リーンは我が身を振り返ってはっとした。
ばかな。
それは自分にも言えることではないか。
欲を出すな。
それに何よりも、私はただ、そのままのトゥルーがいればいいと思ったではないか。
自分への戒めでもあるのだ。
思わず知らず苦悶の表情をするリーンにアンリが心配そうに声をかける。
「兄上、どうされましたか」
「いや、大丈夫だ。とりあえず、明日は出かける。ナイジェル、時間を調整してくれ。マキシムはいつでも出かけられるか」
声をかけられた二人はそれぞれ諾を意図する返事をした。
「もうひとつ。これは急ぎの要件だ。バルトリス、そなたを連れていく。そなたの転移術で移動したい」
「私も、ですか」
「ああ、そなたはマキシムと同様、カラチロでトゥルーシナと会っている。しかも、今回の捜索のもとになったおふれの発案者だ。文句はあるまい」
そう言われれば、バルトリスも頷くしかなかった。




