騎士の報告_2
「一口で言えば、いろいろな子どもを引き取って養育している施設です」
「いろいろな子ども、とは。随分と漠然としているな」
「子どもたちは、身寄りのない場合はもちろん、親がいても事情があって育てられないとか、親から逃れてきたなど、さまざまな理由で引き取られたようです。それから、この孤児院がテクレ教の教会に併設されているという事情もあるのかもしれません。以前から、この辺りの国、つまりカラチロやテリクだけでなく、もっと東の国や南の国の血を引く子どもも育てていたようです。実際、配下の者は検分に行った際に、肌の色の濃い子どもや顔立ちが明らかにこの辺の国々とは異なる子どもを見かけたと話していました。また、生まれつき、あるいは後天的に体に欠損が見られる子どもや親が世話をすることのできないほど病状の深刻な子どもも預かっていたことがあるようです」
「なるほど、そのような中であれば、もしかしたら、青い傷があったとしても、気に留められなかったかもしれないな」
「それで、その孤児院で子どもたちはどのように過ごしているのですか」
横からアンリが尋ねた。
「勉強を教わったり、耕作して野菜や花を栽培したりしているようです。もちろん普通に、その辺で遊んでもいるようですが」
「なんの勉強だ」
「七歳ごろまでには言葉と計算をしっかり教わるようです。ルトリケ、カラチロ、テリク、レキラタ各国の母語に加え、この四国の公用語であるルラクタ語まで。十歳ごろには日常語レベルまでマスターするとのこと」
アンリが驚く。
「ちょっと待って。この国の貴族でも、五つもの言葉を話せる人は少ないよ」
「そこまで行き届いているとは。工夫して勉強させているようですね」
バルトリスが興味深そうに述べた。
「その地域にはそういう素地があるのかもしれないですね」
「それで、十歳以上はどうしているのだ」
「そのあとは子どもたちの適性に応じて、歴史や建築、家政、農業など専門的に教えるそうです。そのなかでもさらに優秀な子どもは寄付金で上級の学校に通えるそうです。おそらく領主であるハーリード辺境伯からの寄付でしょうが」
そして、マキシムは
「俺だったら絶対逃げ出してるんだけど」
と小声で言ったあと
「実際、勉強についてこられない子もいるようで、そういう子どもたちには無理強いはさせていないそうです」
と付け加えた。
それに対してバルトリスが感心しながら尋ねる。
「なかなか教育についての考え方がしっかりしていますね。それで、上級の学校を出た後はまたスイネ教会に戻ってくるのですか」
「いえ、それが」
とマキシムは口ごもったあと、
「教会の記録にも書かれていることですが、シエラディト辺境伯やハーリード辺境伯のもとで職に就くそうです」
と言った。
一同黙り込む。
しばらくしてようやくリーンが溜息をついた。
「まったくあの二人は想像の斜め上を行くな」
アンリも頷く。
「おじいさまが、ハーリード辺境伯のことを要注意人物とおっしゃったのも理解できる気がします」
「まったくだ」
その時、先ほどまで黙って聞いていたナイジェルがマキシムに聞いた。
「そのような専門的な教育をルシィも受けていると考えてよいのでしょうか」
「はい、十歳から十五歳まで、家政学、特に食について学んでいたようです」
「上級の学校に進学しなかったのか」
リーンの疑問にマキシムが答える。
「成績は可もなく不可もなくというところです。上級の学校に進学するほどではなかったかと」
「今は十八だ。十五歳以降はどうしていたのだ」
「マナーについて教わっていたそうです。記録によれば、ハーリード辺境伯のつてでマナー講師の派遣が十五歳の時から一年間。ダンスも教わっています」
「なんだと。それではルトリケの貴族の子女と変わらないではないか。しかもハーリード辺境伯がわざわざ。特別扱いというには過ぎる待遇だな」
「兄上、ルシィを何かの形で社交界にデビューさせようと考えていた可能性がありますね。たとえばルシィを連れてきた人物、おそらくはシエラディト辺境伯でしょうが、彼やハーリード辺境伯が、成長したルシィを引き取って」
アンリの言葉にナイジェルも同意した。
「確かに、ただの孤児ならそこまではしないはず。ルシィが引き取られるときに何らかの指示があったのかもしれません」
バルトリスも考えを述べる
「二人の辺境伯は、ルシィの素性についても何らかのことを知っていた可能性がありますね」
リーンが話を進めた。
「今は十八だ。十六からの二年間はどうしていた」
「言葉や計算など、幼い子どもを教える補佐役をしていたとのことです」
「それ以外の日頃の生活についてはどうだ」
報告書のページをめくりながら、マキシムが答える。
「特に申し上げるべきことはないですね。ふだんは他の子どもたちと同じように生活しているようです」
「周りの子どもたちや教会の人間との関係はどうだ」
「勉強を教えていることも大きいのでしょう。年少の子どもたちをまとめ、子どもたちもルシィに懐くなど、良好のようです。教会関係者と問題を起こしていることを窺わせる記述も特にありませんね」
そう話した後、最後のほうのページで急に手を止めて顔を上げた。
「ルシィ、フォールシナ姫には」




