騎士の報告_1
翌々日の朝、リーンは執務室にマキシムを呼んだ。
改めてフォールシナ姫についての報告を聞くためだ。
部屋には、ナイジェルとアンリ、そしてバルトリスも呼んでいる。
前の晩の時点で、その女性でほぼ間違いないという連絡は受けていた。
その女性とは、一昨日候補に挙がっていた十八歳前後で翡翠色の目を持つ三人のうち、ピンクがかったブロンドを持つフォールシナ姫ではないかと思われていた女性だ。
間違いないということは、問題となっていた傷も確かにあるということである。
女性は、周囲から「ルシィ」と呼ばれているという。
「それで、そのルシィという女性は今どこにいらっしゃるのですか」
ナイジェルがハーリード辺境伯の領地の西部地域の地図を広げながら、切り出した。
マキシムが報告書とリストを交互に見ながら説明する。
「このリストの四番目にあるスイネ教会です。西部のハズン地区の中央部に位置しています」
腕組みをしていたバルトリスが、それを聞いて横から補足した。
「スイネ教会といえば、この国にあるテクレ教の教会のうち一番規模が大きく、そのほかの教会を統括している教会ですね」
アンリが教会の場所を指で示す。
「ここですね。城からだと結構遠い」
マキシムが付け加えた。
「ここからですと行って帰ってくるのに、馬をとばして一日程度かかりますね」
リーンが念押しする。
「マキシムは会っていないのだな」
リーンに尋ねられて
「はい、夕方配下の者から報告を受けたあと、そのまますぐお知らせに上がりましたので。そのあとはその時点で上がっていた身上調査をとりまとめていましたから」
と、手元の資料の束を指しながら答えた。
「そうか。なら、やはり実際にこの目で確かめる必要があるな」
五人は「どうする」というように顔を見合わせる。
「婚約発表を控えて多忙な時ではありますが。陛下、どうなさるおつもりですか」
予定を確認するナイジェルに問われて、リーンはためらうことなく答えた。
「婚約発表まではまだひと月ほどある。明日にでも行こう。フォールシナ姫は最優先だ。それに婚約発表の準備については、もうそれぞれが動き出している。私が直々にしなくてはならないことも減っている」
「そうですね、兄上にその女性にお会いになるという意思があるのなら、僕もできるだけ早いほうがよいと思います」
「私もアンリの意見に賛成です」
意見が一致した。
「決まりだな。マキシム、明日、私の護衛として、そのスイネ教会に随行してほしい。都合はどうだ」
「仰せの通りに」
「あと、今、ルシィの身上調書を持ってきていると聞いたが」
「はい。とにかく早くということを優先したので、現時点でわかっていることをまとめた簡易的なものではありますが」
「うむ。それで十分だ。わかっていることを頼む」
マキシムは教会での記録をもとに説明し始めた。
「名前ですが、教会に引き取られた時点ですでにルシィと呼ばれていたようです。これは引き取られた日の記録に残っています。連れてきた人物がそう呼んでいたとのこと」
「教会に引き取られたのは、いつだ」
「記録には彼女が二歳三か月の時とあります、今から十六年ほど前ですね。スイネ教会に連れてきた人物は匿名で、明らかになっていません」
「2歳3か月とは。随分細かい月齢までわかっているのですね」
バルトリスが感心したように唸った。
アンリが指摘する。
「ということは、兄上。その匿名の人物は、ルシィの生後間もなくから彼女を世話をしているか、彼女の両親から誕生日のことを聞いていることになりますね、託されたか何かで」
「なるほど、確かに。その人物について、何も記述はなかったのか」
「これを見る限り、特に申し上げるべきようなことはありませんね。性別や年齢も書かれてないようです。ただ、当時のスイネ教会長が直々に対応したようです」
「教会長が直々に」
バルトリスが驚いたように言う。
「先ほども申し上げましたが、スイネ教会は、この国にあるテクレ教の教会のうち一番規模が大きく、そのほかの教会を統括しています」
「そんな教会の長が対応したのだとすれば、相手は高位の者だろうな」
リーンの言葉にアンリも続けた。
「そして、テリク教会と関係の深い者となると」
「陛下、これはもう」
ナイジェルの問いかけにリーンも頷く。
「シエラディト辺境伯にほぼ間違いないな」
「前にセレナが教会で五歳ごろのフォールシナ姫を見たと言っていましたが、それならありうる話ですね」
バルトリスが思い出したように言う。
「つまり、セレナは実家に生後すぐにフォールシナ姫を預けて、最終的にハニウェル男爵のところに身を隠した。一方、フォールシナ姫は2歳過ぎまでシエラディト辺境伯のもとで育てられ、その後、スイネ教会に託されたと」
「ああ、今、アンリが推測したようないきさつである可能性は十分にある。本人だという断定はまだできないが」
「あくまで慎重ですね、陛下は」
ナイジェルが半ば呆れたように言った。
「仕方なかろう。間違いがあってはならないことだからな」
そこでナイジェルは、思い切ったように
「やはり、カラチロには知らせましょう。その方が何かあった時にすぐ動けます」
と提案した。
リーンはしばし考えたあと、
「では、間違いだった時はナイジェルに」
と冗談めかして言い、すぐさま一筆したためた。
リーン自身も少なからずそう思っていたのだが、踏ん切りがつかなかったのだ。
控えていた侍従を呼んで、親書を託す。
「遅くなった。マキシム、中断してすまない。続きを頼む」
「はい。教会に引き取られてそのまま、隣接する孤児院で育てられたとのことです」
「その孤児院はどのような施設だ」
マキシムが別の資料を取り出して、説明をし始めた。




