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王の防戦

マキシムへの話が終わったところで、リーンが侍従を呼んだ。


「少し休憩する」


「ではお茶をお持ちいたしましょう」


「頼んだ」


執務室は一気にリラックスモードになる。


いつもながらオンオフがきっちりしているのがいいところだ、とリーンは感心した。


緊張が解けたのか、マキシムが屈伸運動をはじめる。


溜め込んでいた思いを吐き出せて、すっきりしたのかもしれない。


自分が彼の思いにきちんと答えられたかどうかはわからないが。


執務室の奥では、ナイジェルが机の上の書類を片付けながら、愚痴めかして言う。


「今日は朝から働きづめで疲れました」


「僕もだ」


とアンリが伸びをした。


確かに私が来たときにはもうすでに、二人ともかなりの仕事をこなしていたように見えた。


そのあとも話し合いが立て込んだことを考えると、マキシムを呼ぶ前に一度休憩してもよかったかもしれない。


リーンは今朝ほど部屋に入った時のことを思い出し、二人を労った。


「今日はいろいろとすまない。私がやるべきことがあればやろう」


「兄上、今日は業務のことはもう大丈夫ですよ。このあとは婚約発表や結婚式のための打ち合わせがあります。そのためにマキシムにもいてもらっているし」


確かにこの後、バルトリスも呼んで、婚約発表や結婚式に向けて概略を決めることになっている。


侍従がやってきてお茶の準備をした。


「婚約と言えば」


とナイジェルが急ににこにこしながら聞いてきた。


「先ほど、トゥルーシナ姫とうまくやってらっしゃるとおっしゃっていましたが」


マキシムが話に乗る。


「なにそれ、俺も聞きたい」


リーンは顔をしかめた。


勘弁してくれ。


正直、恋バナは苦手だ。


しかも、あの朝のことは、絶対に、誰にも言いたくない。


誰にもだ。


トゥルーと二人だけの秘密だ。


四阿での出来事も。


あそこで止めた自分は、我ながらたいしたものだ。


ほめてやりたい。


が、それをこの二人に言っても理解されまい。


そんなリーンの頑なな気持ちが伝わったのか、アンリが


「僕は、ナイジェルが婚約者殿とどんなふうに過ごしているか、聞きたいな。数多の女性と浮名を流しつつ、婚約者殿の心を離さない手腕」


と助け船を出した。


ナイジェルは急に話を自分に振られてしどろもどろになる。


「えっ、私の話なんて」


するとマキシムが茶化した。


「こいつは、マメだからな。やましいことがあるときは必ず婚約者に贈り物をしている」


「ちょっ、マキシム、何を」


「いや、でも、婚約者の好みをばっちりつかんでるナイジェルには、ホント、頭が下がる思いだぜ」


「そういうマキシムこそ、休みの日は婚約者と必ず過ごして、頭が下がる思いだ。私だったら、息が詰まりそうだがな。さすが、マキシム、細やかな気配りのできる男」


二人の言い合いにアンリが目を輝かせる。


「僕、婚約者どころか、女性とお付き合いしたこともほとんどないんだけど、ナイジェルはどうやって婚約者殿の好みを知るの。マキシムは婚約者殿と何をして過ごすの」


と興味津々で聞いてきた。


それを聞いて少し気の毒そうな顔をしたのはナイジェルだ。


「アンリ、あなたもう、十八だよね。婚約者はともかく、女性と付き合ったことがないのはまずいんじゃないの」


「うーん。でも、兄上も似たようなものでしょ。ただ、僕、兄上がいろいろとやらかしたのを知っているから、何とかしなくちゃとは思ってる。でね、そういう方面は手堅くこなしているナイジェルやマキシムに教えてもらおうと思って」


アンリ。


なんだと。


いろいろとやらかした、、、


そうかもしれない、そうかもしれないけど。


変な形で自分に返ってきてしまい、リーンは閉口した。


するとナイジェルが思いついたというように


「リーン、婚約発表の時、トゥルーシナ姫も招いて、舞踏会を開きましょう。アンリのお相手を見つけてあげるためにも。ねっアンリ、相手がいないことにはどうにもならないからね」


と提案した。


マキシムも、いいねと賛成する。


「それも一つの案かもしれないな、アンリはどうだ」


「どうでしょう。前から叔母様にせっつかれて、兄上と一緒に僕もナイジェルやマキシム関係の夜会に出ています。ですが、心惹かれるご令嬢にはいまだお会いしていません」


リーンとアンリの父の妹は公爵家に降嫁した。


ナイジェルの母であり、彼は二人の従兄弟に当たる。


「アンリ、あなた、理想高いんだね。でもね、来る者は拒まず、数多く付き合っているうちに女性の気持ちがわかるようになるよ」


「ナイジェル、よせ。つまらぬことを言うな。いいな、アンリ、一人としか巡り合わなくとも、その一人が運命の人であればいいのだ」


「リーン、俺もそんな出会いがしたかったよ。親の決めた婚約者じゃなくて」


「マキシムは休日をいつも過ごす相手だから、いいじゃないか。わかった。もう、とにかく舞踏会は開く。そして開くとしても、アンリのためというよりも、貴族たちのために開こう。この際だから、普段の夜会には来ないような地方領主の子弟に声をかけてみるか。あとは周辺国の王族」


「そうですね。それは賛成です。任せてください。それにしても、リーンは、運命の人、トゥルーシナ姫とのひとときはどんな感じだったんですか」


おい、ナイジェル。


しつこいぞ。


「俺も知りたい。俺が公務でバルトリスと行動しているとき、リーンはトゥルーシナ姫と二人きりで散歩してただろ。あのときどうだったん」


マキシムよ。


ここは、お前の持ち味をきかせて、気を遣うべきところだろう。


「言えるか、そんなこと」


やっとの思いでそう言うと、アンリに指摘されてしまった。


「兄上、お顔、真っ赤ですよ」


ったく、もう。


追い打ちをかけるな。


リーンが観念しかけた時、扉をノックする音がした。

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