騎士の迷い_1
マキシムは王のいる執務室に急いでいた。
至急、執務室に来るようにという伝言をことづかったからだ。
何用だろうと訝る。
先日まで、王であるリーンのカラチロ国訪問に同行していた。
だからリーンたちと情報等は共有していたはずだ。
それにもかかわらず今呼ばれたということは、何か新しい伝達事項が出てきたに違いない。
何に関することか。
ありうるとすれば、現時点での最優先事項のことだろう、
今の自分は騎士団長としての通常業務に加え、とある人物を探している。
うなじから右肩にかけて青い傷のある女性だ。
名をフォールシナといい、カラチロ国の皇女トゥルーシナ姫の双子の妹だという。
手掛かりは女性で、年齢が十八歳であること。
そしておそらく髪の色はピンクブロンド、瞳の色は翡翠色ということだけだ。
ひとむかし以上も前の目撃談、不確かな手掛かりということもあり、見た人はもちろん、記録もない。
雲をつかむような作業だ。
それでもまず初めに、十三年前に教会で目撃したという情報をもとに、国中のほとんどの教会をしらみつぶしに探した。
そのことは王のカラチロ訪問前にすでに報告済みだ。
その報告の時点で残していた西部地域も一部を除いて終了している。
未調査のあの地域一帯には、この国で一般的なルティル教の教会は少ない。
正直なところ、マキシムにはもう、何か新たなことが出てくるとも思えなかった。
ここまでの経験から、すっかり自信を無くしてしまっていたのだ。
これが終わって何も出なければ、あとは記録確認の二巡目くらいしか術がない。
そして、それももし虚しい結果に終わってしまえば―しかもその可能性が高いのだがー、このあといったい、何をすればいいのだろう。
マキシムは終わりの見えない捜索にもやもやしたものを感じながら、執務室にたどり着いた。
何気なくその引き手に手をかける。
その時、もやもやしたものの正体が何であるかに気がついた。
だが、それには蓋をして、そのままゆっくりと扉を引く。
思わず知らず力を入れてしまっていたのだろう。
扉は目いっぱい開き、ソファー奥、向かって右側に座るリーンと目が合った。
どうやら、ノックもし忘れていたようだ。
驚いたような、あるいは何かを言いたくてたまらないような、そんな表情をしている。
マキシムは目礼をして近づいた。
リーンのそんな表情に、彼の向かい側に座る男も気がついたようだ。
こちらからは背中を向けて座っていたナイジェルが立ち上がって、マキシムを見た。
待ちかねたというように手招きをして自分の隣の席をすすめる。
リーンの隣に座るアンリも手を振った。
「それで」
とマキシムはソファーに腰掛けながら口を開いた。
「陛下、私をお呼びになった理由は」
心の中では例のもやもやの正体をここで曝したいとうずうずしながら。
一方で、でも今はその時ではないとプレッシャーをかけながら。
リーンは表情を戻し、いつもの口調で尋ねた。
「うむ。まず、今の進捗状況について教えてほしい。カラチロから帰ったばかりで申し訳ないが、前回の報告から進展があれば」
マキシムはいささかむっとした。
そしてその気持ちに何よりマキシム自身が驚いた。
自分はリーンに絶対の忠誠心を持っていると思っていたから、そんな気持ちがわきあがることがあるなんて微塵も思っていなかったのだ。
それでも今は、少しばかり負の感情を持ってしまった。
そのわけはわかっている
前に報告した日から幾日も経っていない。
しかも、その間、自分はリーンと行動を共にしていたのだ。
リーンだって、進展がないのは承知しているだろう。
それなのに何をわざわざ聞く。
自分の無能さを愚弄しているのか。
そんなことを思うほど、なぜか卑屈になっていた。
マキシムは自分の気持ちが先ほど感じたもやもやした思いによるものだとは気づいていない。
それでもやっと
「ありません」
と低い声で短く答えた。
リーンは労う。
「無理もないことだ。帰国からそう日にちも経っていない。それなのにマキシムは本当によくやってくれている。手掛かりも少ないなか、心から感謝している」
マキシムは少し落ち着いた。
自分の単純なことは自分が一番よくわかっている。
だが、大切に思っている主君でしかも幼いころからの親友の飾らない言葉は心にしみた、
だから先ほどリーンの問いに対して切り捨てるように放った自分の言葉が気になった。
それで
「進展はありませんが、調査も残すところ、西部の一部地域のみとなっています」
と机の上に広げられた地図を指さしながら、先の自分の返答に言葉を補った。
そして、今度はリーンやアンリ、ナイジェルの顔を交互に見ながら、
「ただ、陛下もご存知の通り、この辺の地域にはこの国で一般的なルティル教の教会はあまり多くはありません。今までの経験からすると、調査もすぐに終わるでしょう。フォールシナ姫の探索もほぼ終盤にさしかかりました」
と付け加えた。
そして、さらに言葉を変えて言う。
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