四阿の二人
四阿にはトゥルーシナとリーンが残された。
あまりにも突然に、カルドリは去って行ってしまった。
リーンが戸惑っているのが、トゥルーシナにもよくわかった。
それは自分も同じだ。
何から話せばいいのか。
正直なことを言えば、今は彼と話すよりも一人になりたかった。
トゥルーシナは先ほどまでの話を順に思い返していた。
自分が生まれた日のこと。
やはり、おとうさまはおかあさまをとても大切になさっていらっしゃった。
それは単純にうれしかった。
でも、私には双子の妹がいた。
これは今もなかなか受け止められていない。
事実を受け入れられないのではない。
そうではないの。
教えてくれなかったおとうさまやメリーを恨む気持ちとも違う。
会いたいな、フォールシナ。
トゥルーシナはそっと先ほど聞いた妹の名を心の中で呼んでみた。
おとうさまやおかあさまから生まれてすぐに引き離されてしまった妹。
あなたは今、どんな暮らしをしているの。
私のように、大切にしてくれる誰かがいるかしら。
あのとき、あの場所に彼女だけでなく私もいた。
もしかしたら、連れ去られたのが自分だったかもしれない。
そう思うとからだが震える。
今こうしてリーンさまの隣にいることもかなわなかったはず。
トゥルーシナがリーンをそっと見る。
彼はそれに気づいたのか、ごく自然にトゥルーシナのすぐ右側に移動してきた。
そして自分の左手をトゥルーシナの右手に静かに重ねた。
少し大きくて温かな手。
トゥルーシナは重ねられた手を見る。
トゥルーシナにはリーンがどこを見ているかは見えない。
そしてお互いにまだ何も言わない。
トゥルーシナはそのリーンの優しさがうれしかった。
リーンさまは待ってくださっているのだ。
きっと私が納得するまで。
妹のことはまだ、整理がつかない。
でも、さっきのおとうさまとの話で分かった。
きっとリーンさまが見つけてくださる。
重ねられた手から目を離し、もう一度リーンをそっと見る。
心配そうにこちらを見る彼と目が合った。
まだ心配させているなら、私から何か言わなくてはいけないわ。
もうだいじょうぶ。
そう心の中で呟いて
「今日の朝だけで、いろいろなことがありました。婚約発表や結婚式の日取りまで決まってしまって」
とリーンに微笑んでみせた。
きちんと笑えたかしら。
ぎこちなくなかったかしら。
私の言葉や表情でリーンさまをかえって心配させたらどうしよう。
しかし、それは杞憂だったようだ。
リーンが少しほっとしたように、小さく息をつく。
そして
「ほんとうに」
とひとことだけ言って、頷いた。
あたかもトゥルーシナのペースに合わせるように。
それでトゥルーシナも、今はリーンとのこの穏やかで愛しい時間をもっともっと大事にしなければ、と強く思った。
「私、リーンさまとならなんでも乗り越えられそうな気がします」
思い切って口に出してみた。
婚約式や結婚式のことをそう言ったのだが、リーンはそうは受け取らなかったのかもしれない。
目を丸くして、ほんの少しだけからかうように
「でもトゥルーはつい最近まで、嫁がないと言っていたそうですね」
とクスっと笑った。
そして今度は
「それが最後には自分以外に嫁がないと言ってくれた。それを聞いた時の私の気持ちがわかりますか」
と少し照れたように微笑む。
「わっ私、ごめんなさい」
恥ずかしい。
思わずあいている方の手、左手で顔を覆う。
するとリーンもためらいがちに自分のあいているほうの手、右手を伸ばした。
そして、自分の顔をトゥルーシナに向けて、リボンの編み込まれた左側の髪の毛を優しく撫でた。
トゥルーシナも顔をリーンに向ける。
「このリボンは、私の決意表明なのです」
「決意表明?」
「はい、私、おとうさまからあらためて婚約のことを聞いたとき、本当は悩みましたの。リーンさまのことはもちろん大好きでしたが、その時は結婚にはそれ以上の気持ちが必要だって、妙に気負ってしまって」
「トゥルー、私はあなたが私を好きだと言ってくれるだけで十分だよ」
「リーンさま、ありがとうございます。そんなリーンさまだからこそ、おそばにずっといられるにはどうしたらいいのかなって」
リーンは微笑んだまま、もう何も言わずにトゥルーシナを見つめた。
「私、リーンさまが私にとってのただ一人のひととなるように、リーンさまに私がただ一人のひとと思ってもらえるように、努力します」
「トゥルー」
至近距離で向き合う。
今度は真剣な顔をしてトゥルーシナの目を真直ぐに見た。
トゥルーシナも彼の目を覗き込んだ。
そこに宿る優しさに心を奪われてしまう。
どうしてそんな目で私を見つめるの。
トゥルーシナの両肩にリーンがそっと両の手を添えた。
そして
「トゥルー、好きだよ」
と囁く。
「私も」
とはっきり返せたかどうか。
そのあとは彼の話す言葉が何も耳に入ってこなくなってしまった。
「トゥルー、どうしたの」
そう問いかけているのかな。
「トゥルー、かわいいね」
そんなふうに言ってくれてるのかしら。
でも聞こえない。
どうしてもどうしても彼の優しいまなざしに引き留められてしまう。
それで音がなくなる。
彼の視線も私の視線と交差する。
それが、私の目の位置からだんだんと下に降りてきた。
そして私のくちびるに縫い留められた。
私はなおも彼の目を見つめる。
彼の目が今度は静かに近づいてきてそっと閉じた。
つられて自分も目を閉じる。
そのとき、額に柔らかいものを感じた。
そして、それは左瞼に落ち、ついで右頬に触れて遠ざかった。
いつも、いいねやブクマを本当にありがとうございます。
二人とも何とかここまで頑張りました。




