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[完結]王と青龍を抱く乙女  作者: 文近成季
第一部 第一章
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皇女たちの秘密_2

リーンには二人の言うことの意味がよく分かった。


恩寵や力という言葉は漠然としたものだ。


しかし、トゥルーシナが結婚によって大きな力をもたらすということは、場合によってはトゥルーシナの嫁ぎ先のほうがカラチロよりも勢力が大きくなるということだ。


それはすなわち、トゥルーシナの結婚相手にカラチロが脅かされる可能性があるということを示している。


カラチロに野望を抱いている他国はもちろん、場合によっては、自国の貴族に嫁がせることも脅威となるのだ。


リーンは思う。


トゥルーシナのことは、ただただ好きだ。


その気持ちに一点の曇りもない。


ずっとそばにいたいだけなのだ。


だから、そのような大きな力がほしいのかと問われれば、否。


しかし、現状でそのような力がほかにわたるのも否。


もちろんトゥルーシナと添えないということが論外、もってのほかだが。


そんなリーンの気持ちを知ってか知らずか、


「トゥルーしだいではね」


とカルドリがにっこりする。


「トゥルーさえ望めば、別にどこかに嫁がなくてもいいんだ、カラチロにずっといてくれていいんだがね」


まるでリーンの気持ちを弄ぶかのように。


「っ、陛下」


リーンは呼ぶのが精一杯。


すると、トゥルーシナが毅然として言い放った。


「おとうさま、私はもう心を決めています。私は嫁ぎます。そして、リーンさま以外には嫁ぎません」


「ぶはっ、よかったな、リーン殿。トゥルーはつい最近まで、嫁ぎませんの一点張りだったんだぞ」


カルドリの破顔に対し、リーンは仏頂面をした。


うれしいがどんな顔をしてよいかわからない。


こういう時はこの表情が一番だ。


トゥルーシナが心配そうに見ている。


そこでちょっとだけ彼女に微笑んで見せた。


すると、カルドリが少し真面目な顔になって


「だが、恩寵の話には続きがある」


と別の話を始めた。


「実はアリシアナからその時に頼まれていることがあった。今は果たせていないが」


と言葉を切った後、


「それは二人を引き離すことがないように、というものだ。一人一人でも強い力を持つが、より大きな青龍の恩寵を受けようとするのなら、二人そろってこそだというのだ」


その言葉を聞いて、おふれを出したいきさつにカルドリが先ほどまでこだわっていた理由がわかった気がした。


カルドリはおそらく、リーンが青龍の恩寵を知っているかもしれないと勘ぐっていたのだ。


リーンがトゥルーシナと結婚し、おふれの人物も手に入れてより大きな力を手に入れようとしたのではないか、と。


いやいや、正直、自分はそんな器用じゃないから、と思いながらカルドリを見ると、彼は何かを思い出そうとしているのか額に手を当てて


「そうだ。ちょうどその話をしているときに、お茶を入れるように命じて席を外させていた侍女たちが戻ってきたのだ。それで、アリシアナが二人を娶せることのできるような仲の良い兄弟を見つければ二人一緒だと笑ってごまかしていたな。もしかしたら、その時セレナに何か聞かれていたかもしれぬ」


と独り言つ。


そして思い直したように、


「だからと言って、どうなる」


と呟いた。


トゥルーシナにそれが聞こえていたかどうかはわからない。


彼女が二人に向かって尋ねたのは、婚儀の日程についてだった。


リーンもそれについては今回の訪問で相談したいと考えていた。


カルドリは言う。


「失礼ながら、ルトリケでのリーン殿の人気はいまひとつだと聞く。私からすると、こんな美丈夫が不人気なのが理解できないが。なんでも、青龍と恐れているそうではないか」


そしてくくっと笑った。


それは長身のリーンが特殊な力を宿すとき、銀色の髪がさらに青みを帯び、逆立ち、その金色の瞳が深い海の青となるという伝聞である。


リーンはそんなことまでカルドリが知っていることに恐縮した。


「おとうさま、話が進みません」


トゥルーシナが語気を強めた。


「そうだな、要するにリーン殿の人気はいま一つ。そこで提案だが、婚約発表をまずするべきだ。前にやったとは言え、まだ二人とも幼かったし、何より内輪だけのものという性格が強かった。今回は大々的に行い、国民全員から祝ってもらえ」


「皇帝陛下、お言葉ですが、このような国情の中、国民からの反発も考えられますし、無駄遣いと反感を買わないか懸念もあります」


「何を言う、婚約発表には、まず、国王がリーン殿だということを知らしめる意味がある。どうやら、王都以外では国王の交代も知られていないそうではないか。国王が変わり、国がよくなるということを予感させることも大切だ。今リーン殿が心を砕いている政策が先王のものだと思い込まれては元も子もない。それに祝いムードを盛り上げれば経済効果も見込める。婚約発表もそれを意識して動け。費用は心配するな。どうしても必要ならトゥルーの持参金を使えばよい」


トゥルーシナが頷く。


「確かにそうですわ。双方の国の準備もありますが、なるべく早くいたしましょう」


リーンもやるなら早いほうがいいと気持ちが傾いてきた。


「わかりました。今からひと月後を目標に執り行うということで国に持ち帰ります。そして結婚式ですが、私の即位一年を記念する形で行うのではどうでしょうか」


「私もそう考えていた。それまでには様々なことを解決しておいてほしい。できればフォールシナのことも」


「ひとつ気になっていました。セレナの事はどうしますか」


「それはもういい」


短く答えて、いきなり立ち上がると、手をひらひらと振りながらカルドリは去っていった。

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