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[完結]王と青龍を抱く乙女  作者: 文近成季
第一部 第一章
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皇帝の昔語り_1

「その前に」


先ほどからずっと立ったままトゥルーシナの肩に手を置いていたカルドリは、彼女の髪の毛を軽く梳いた。


「今から話すことはトゥルーも知らないことだ。もしかしたら、いやもしかしなくても心を揺さぶられるような内容かもしれない」


「おとうさま、私は大丈夫です」


トゥルーシナはきっぱりと言い切る。


カルドリ帝しか知らない重大なこと。


そう聞いて、リーンのほうが身を固くしていた。


おずおずと確認する。


「私が伺ってもよいことでしょうか」


「もちろんだ。ほかに誰に聞かせる必要がある」


「それは」


「むしろトゥルーの婚約者である貴殿こそが知っておかなくてはならないことだ」


そう言われて、思わず知らず、さっきよりいっそう真剣な面持ちになってしまう。


ところがカルドリのほうはそう言い放った後、さっきまでとは打って変わって急にうきうきしたような表情を見せた。


リーンはそれを、長年抱えてきたものを解き放つときの高揚した顔だ、と捉えた。


「トゥルーシナの生まれた時のことから話そう」


その一方でトゥルーシナは不安そうに尋ねる。


「お話が長くなるのでは。お時間は大丈夫なのでしょうか」


「もちろんだ。今から明かす話よりも優先されることなどない。一応聞くが、リーン殿は」


「私もありません。そもそも」


今日はトゥルーシナと一日過ごすつもりだったので時間はありますと言いかけて、慌てて口を噤んだ。


危ない。


つい、恥ずかしいことを言うところだった。


私らしくもない。


やはりこういう状況で二人を前にすると、いつもと調子が違ってしまう。


だがカルドリはリーンの様子には気づかず、懐かしい思い出を語るときの優しい目をして口を開いた。


「今から十八年前のことだ。カラチロの夏にしては暑い日だった。アリシアナが出産したという知らせが届いてね。ちょうど、これから日が昇ろうとするような時間で、山の向こうに一日の晴天を約束するような太陽が少しだけ顔を出していた」


今でもよく覚えている、と一人で頷く皇帝に、リーンは目を丸くした。


カルドリ帝はこんな表現をする人だったのか。


なんというか、今はきっと普通じゃないのだな。


それに口調も。


トゥルーシナに対してはやっぱり甘い。


リーンは話題とは関係のないところで唸っていた。


と同時に、自分もカルドリに対して、気安い肉親に話すような気持ちになっていた。


かまわずカルドリは話を続ける。


「矢も盾もたまらなくてね。でも走るのはみっともないから、急ぎ足でアリシアナの部屋に行ったんだ。扉を開けるのも煩わしいくらい、早く彼女に会いたかった」


「おとうさま。それは出産後すぐのおかあさまに対してちょっと無神経すぎます」


トゥルーシナはあくまで冷静だ。


「仕方なかろう。リーン殿も同じ状況ならそうするはずだ」


いきなり自分に振ってこられてリーンは当惑した。


そんなことより、早く秘密を聞かせてほしい。


「陛下、私もお気持ちはわかります。それでアリシアナさまは」


「ああそうだ。彼女は枕に体を預けて、少しだけ身を起こしていた。寝ているベッドのわきには侍女が二人立っていてね。それぞれが産着を身に着けた赤ん坊を抱いていたのだ」


「お待ちください」


トゥルーシナが静かに口を挟む。


「それはどういう」


カルドリはこともなげに答えた。


「アリシアナは双子を生んだんだよ」


「えっ、ええっ」


リーンには、トゥルーシナがカルドリの言葉の意味をまだ理解できていないように見えた。


「今おとうさまが話していらっしゃるのは、私が生まれた日のことですよね」


「ああそうだよ。トゥルーシナは双子だったんだ。トゥルーには双子の妹がいるんだよ」


「私に妹」


トゥルーシナは両手を口元に当て視線を落としている。


何という軽い物言い。


彼女の気持ちなど全く考えていないような、あまりにもさらっとしたカルドリの言いように、リーンは非常に腹立たしくなった。


おい、ちょっと待て、いくら何でもその言い方はないんじゃないか。


私がここまでそのことでどれだけ気を遣ってきたと思って。


何より、トゥルーシナの気持ちを何だと考えているのか。


確かにトゥルーがさっき、カルドリ帝のことを無神経だとは言っていた。


が、それでも、ほどがあろう。


心の中で吐いた暴言ほどではないにしろ、リーンは思わず咎めてしまった。


「陛下、さすがにそんな大切なことを、その辺の猫のことか何かのように。トゥルーシナ姫のお気持ちを考えると」


カルドリは黙っている。

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