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[完結]王と青龍を抱く乙女  作者: 文近成季
第一部 第一章
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ルトリケ国王リーン

そんな父王の失政を間近で見ていたのが、現王のリーン・シュルツ・セオドア二世・ルトリケだ。


幸いにも彼には高い志を共にする弟と従兄、騎士、魔術師がいた。


従兄と騎士は幼馴染、魔術師はリーンの祖父が王位在位中に彼のために連れてきたのだった。


リーンたちは先王の周りで利益を独占する一部の貴族を特定した。


そして、彼らに対して、少なからぬ敵意、苛立ち、怒りといった負の感情を抱くその他大勢の貴族の人心を掌握し、先王と取り巻きを断罪し、追放することに成功した。


さらに幽閉されていた祖父サーシを解放し、助力を請うた。


先王は即位後三年余りで失脚したのである。

 

とはいえ、リーンの即位からいまだひと月あまり。


国民の目に見える成果はほとんど何も出ていなかった。


内政から糺していたのだから無理もないことではあった。


けれど、この国の民にとって目に見えないものを理解することは難しい。


むしろ先王の時代に許されていたものが禁じられたというただ一点を評価基準として、


「さして変わらない」


「いやむしろひどくなった」


と露骨に悪く言う者たちもいた。


また、先王を即位からわずか三年で失脚させたという事実のみを見て、若き王が冷徹で残忍な人物であると、民は判断した。


「何をするにも不自由だ、下手なことをすると罰せられる、殺される」と。


実際にはリーンの即位がするにあたって一滴の血も流されなかったのにもかかわらず、まことしやかに残酷なリーン像が語られた。


冷徹で残忍という噂に拍車をかけたのがリーンの容貌についての噂である。


みな、国王の姿は遠目にしか見ておらず、王家特有の青みがかかった銀髪であることしか知らなかった。

しかし王が特殊な力を宿すとき、銀色の髪がさらに青みを帯び、逆立ち、その金色の瞳が深い海の青となるという伝聞を信じ、さらにリーンが長身ということもあって、青龍と恐れた。


リーンの評判を貶めようとする声はそれだけではない。


何より、彼には「セオドア」という名前が重くのしかかっていた。


彼の高祖父のカール・リッツ・セオドア一世・ルトリケの治世には国力が増し、国民の生活も格段に向上した。

三国随一と言われ始めたのも、セオドア一世のころからだ。今でも、彼への尊敬の念を持ち、彼が即位した年から十年ごとに大規模な祝い事をしている。


今はそのころに生きていた人間はおらず、実際に当時の賑わいを目にした者もいない。

だが、それがなおさら、かつての栄華を美化させている。


「同じセオドア様といってもカールさまとリーンさまじゃ大違いだね」


「大違いどころじゃない、天国と地獄だよ」


「恐れ多くて比べたら罰が当たる」


「百年前に生まれたかったよ」


そうした言葉は、祖父王の時代から忍びでたびたび王都に出ていたリーンも実際に耳にしていたし、

王都に放たれた王直属の騎士らによっても拾われ、王宮にも伝えられていた。


他方、王都の民の王への信頼は薄く、明るい噂や良い評判を流そうとしてもなかなか広まることはなかった。


それらはともに王宮の悩みの種であった。

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