皇女と王の散歩道_3
そのとき、
「トゥルー、これは。もしかして」
リーンがトゥルーシナの髪のリボンをやさしく撫でた。
初めて気がついたようだ。
「そうです。リーンさまがくださった花束のリボンです。大切な日なのでお守りにと思って」
「お守り?」
リーンはちょっと考え込んだあと、
「そうか、トゥルーもお守りを持ってきたんだね。実は」
と少し照れたように、リーンが上着の内ポケットから何かを取り出した。
「えっと、それは?」
リーンが手にしたそれをそっと広げてみせる。
「覚えてる?トゥルー」
少し色褪せた布にトゥルーの名前とスズランの花が刺繍されている。
あっ、それは、小さいころいつも持ってたハンカチ。
どうしてリーンさまが持ってらっしゃるのかしら。
「私がどこかで失くしたと思っていたお気に入りのハンカチです」
リーンは少し寂しそうな顔をして
「確かに覚えてないかも」
と呟く。
えっ、どういうこと。
トゥルーシナはまじまじとリーンの顔を見つめてしまった。
そして気を取り直して、思ったままを尋ねる。
「どうしてリーンさまが持ってらっしゃるのですか。お守りって、どういうことですか」
リーンは目をそらしてはぐらかした。
「うんと小さかったころにね、私のお城のお庭でね、私よりもっと小さい愛らしいお姫さまに会ってね、このハンカチをいただいたんだ」
お姫さま…
それってもしかして私のこと?
そんなこと、あったかしら。
ごめんなさい、覚えてません!
メリーは何か知ってるかな。
帰ったら聞いてみなくちゃ。
「ずっと持ってらっしゃるんですね」
「ああ、大事にしてる」
でも、それが私のものだとしたら、そんな幼いころから、私のことを?
うれしい。
「ありがとうございます」
トゥルーシナは自分のことかどうかもわからないのに、にこにこしながらお礼の言葉を口にした。
リーンは目を丸くする。
そうだ、とトゥルーシナはリーンに尋ねた。
「この道を覚えていらっしゃいますか」
リーンはあらためて周りを見た。
そして目を眇める。
「これは」
と言葉を一度切った。
「もしかして、この先にはスズランの花園が?」
「ふふっ、そうなのです。覚えていてくださったのですね。今ちょうど見ごろなのです」
とトゥルーシナはうれしくて肩を揺らした。
ハンカチのことを私は思い出せなかったけど、リーンさまはりぼんのこともスズランの花園のことを覚えてくださってた。
トゥルーシナの心がほわんとなる。
「リーンさま、この先に四阿があるのです。何年か前にスズランの花園を広げてくださって、その時に作ってくださったのです。そこに参りましょう」
歩く道すがらトゥルーシナは、今日リーンと会ってからうれしいと思うことがずっと続いていることをかみしめていた。
それから、先ほどリーンに抱きしめられたことを考えた。
私はもうだいじょうぶ。
そして、会話が途切れたところで、意を決したように、口を開いた。
本当は、今日話すかどうかずっと迷っていた。
でも、私はもうだいじょうぶ。
髪の毛に編み込まれたリボンにそっと触れる。
力を貸してね。
「リーンさま。お話しておかなくてはならないことがあります」
「なんですか。あらたまって」
「私の」
とトゥルーシナは首元に手をやり、うつむいた。
「私のからだにはお見せできないような醜い痣のようなものがあるのです」
一気に言ってしまう。
リーンのからだが震えた。
トゥルーシナにはリーンがひどく動揺しているように思われた。
けれど、何も言わない。
やっぱり、引いちゃったのかな。
リーンさま、がっかりしてる?
「あの」
と言うと、リーンはトゥルーシナの目をじっと見つめた。
その目は彼女の次の言葉を待っているようにも見えた。
けれども、いつの間にかもう花園の中心の四阿に来ていた。
そして四阿にはすでに先客がいて、二人の到着を待っていた。
「おとうさま!」
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