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[完結]王と青龍を抱く乙女  作者: 文近成季
第一部 第一章
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皇女と王の散歩道_2

リーンの横顔を見つめながら言った。


「事情がおありだったのでしょう。リーンさまの理想の国になさるという」


トゥルーシナは、リーンに放っておかれたことを責める言葉にならないように、慎重に表現を選ぶ。


三年間、何の連絡もなかったのは、先王から王位を奪って、自分の国を作るために時間が必要だったのだとわかっています。


そう伝わるように。


けれど、リーンの返事はない。


なんとなく気まずそうな顔をしている。


あら、逆に困らせてしまったのかしら。


確かに、トゥルーシナはカルドリからリーンの事情を聞いていた。


リーンさまは、本当は勝手に破談になったと思い込んで何もしなかっただけなのよね。


もしかして、申し訳なく思ってらっしゃるのかしら。


でも、私が今話したいのはそんなことじゃない。


自分がどれだけ再会を楽しみにしていたかという思いの丈。


リーンさまが私にとってたった一人のひとだと思うために、リーンさまに私がたった一人のひとだと思ってもらうために、今、この時間を使わなくちゃ。


トゥルーシナは黙り込んでしまったリーンの瞳を見上げる。


「でも、私もずっとお会いしたかったのよ。だから、本当に本当にうれしいです」


先ほどの笑みよりももっと、そう、花が開いたかのようにトゥルーシナは笑って見せた。


「わ、私もです」


リーンはゆっくりと歩みを止め、トゥルーシナのほうに向いた。


「せっかくお会いできたのに、昨日は二人きりで話すことができなくて、本当に残念に思っていました。だから、トゥルーシナ姫からの提案があった時はとてもうれしかったのです」


そして一息で言いきった。


トゥルーシナは少しだけ不満そうな表情を見せる。


リーンさまのまっすぐな言葉はすごくうれしい。


でも、ちょっと寂しい。


リーンさま、違う、そうじゃないの。


思わず、言葉を挟む。


「えっと、トゥルーです」


「えっ」


「だから、前のようにトゥルーと」


リーンは顔をこわばらせて黙る。


けれど次の瞬間には柔らかく微笑んで


「私もトゥルーとこうしてまた一緒に並んで歩けることが本当にうれしい」


と言った。


この柔らかい微笑みはトゥルーシナの大好きな微笑みだ。


昔から、そう、昔から。


「トゥルーは、この三年の間は何を?」


「この国やお隣の国々のことを学んでいました。おとうさまやお兄さまたちのお役に立ちたくて。それから、楽器の練習もしていました。お姉さまとまた演奏をご一緒するお約束をしていて。本も好きです。たくさん読みました」


「楽器?」


「ええ、カーリンジと言うのですが、ご存知ですか」


「ええとそれは」


「この国にしかない楽器で、横笛のようなものなのです」


「そうなのか、初めて聞きました。トゥルーはそれで姉君と演奏を?」


「ええ、お姉さまは弦楽器を。弦楽器ならひととおり嗜まれるのです」


「そういえば、姉君は確かご結婚されてたのでは」


「そうなのです。侯爵家に嫁いで。お姉さまは双子のおかあさまをなさりながら、演奏もされて、私の憧れなの」


リーンがひどく驚いた顔をした。


「双子、ですって」


「そうなの。私ったらもう叔母なのですよ。でもとってもかわいい甥と姪なのです。今度リーンさまにもご紹介しますね」


トゥルーシナはにこにこしながら話していたが、リーンが口に手を当てたまま何かを考えているふうをしているのに気がついた。


あれ、何か変なこと言っちゃったかしら。


「あの、リーンさま?」


「あ、いや、なんでもありません。私もぜひ皆さまにお会いしたいな」


「ええ、ぜひ」


そう言いながらも、リーンが先ほどまでとは打って変わって表情を硬くしていることが気になった。


どうしちゃったのかな。


トゥルーシナはリーンに笑ってほしくて、ふざけてその場でくるりと回ろうとした。


この道がどこに続くのか知らせよう。


ところがバランスを崩してしまう。


「あ、危ない」


気づいたときにはリーンの腕の中にいた。


「どうしたんですか。急に」


そうっと見上げると、ひどく心配そうな顔をしている。


「ごめんなさい。なんだかリーンさまに笑ってほしくって」


「そんな。って、もしかして変な顔をしていましたか」


「ちょっとだけ、怖いお顔を。ちょっとだけです」


リーンはトゥルーシナをそのまま抱きしめて謝った。


リーンさま、少し力を込めてらっしゃる?


「すまない、トゥルーを怖がらせたのか、なんてことだ」


「だいじょうぶです、もう、だいじょうぶです」


トゥルーシナはそっと腕をほどいて離れた。

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