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[完結]王と青龍を抱く乙女  作者: 文近成季
第一部 第一章
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皇女と王の散歩道_1

リーンがカラチロに到着した翌朝、トゥルーシナは支度に追われていた。


非公式の訪問だったはずが、歓迎行事が続き、前日に二人だけで話す時間を設けることはできなかった。


結婚してしまう前も、なるべく一緒に過ごし、たくさん話をして、リーンさまのことをもっと知りたい。


そう思っていたから


「明日の朝、朝食前に散歩にお付き合いください」


とトゥルーシナから誘ったのだ。


だがそのせいで、侍女のメリーが大忙しとなった。


「メリー、ごめんねっ」


「姫さま、姫さまをより美しくするのが私の役目であり、喜びなのです」


メリーはいつものように生真面目に答える。


「メリー、いつもありがとうっ!今日はこのリボンを髪に編み込んでくれる?あとはメリーがよいと思うようにして」


「かしこまりました」


そのリボンは、先日リーンから送られてきたスズランの花束に結んであったものだ。


深い緑色は、トゥルーシナの目の翡翠色にちなんでリーンが選んだものなのだろう。


トゥルーシナはカルドリに呼ばれたあと、リーンのことをどうすれば結婚する相手として向き合えるのか考えていた。


元より王妃になる覚悟はできている。


でも問題はそこじゃない。


そうではなくて。


好きは好きだし婚約者なのに、結婚相手としていまひとつ意識できなかったのだ。


そして結婚するのであれば、それ以上の気持ちが必要だと思い込んでいた。


でも、リーンにもらったスズランの花束を眺めているうちに、なんだか答えが出たような気がしていた。


それで、今日はその気持ちを忘れないようにと思って、リボンをメリーに編み込んでもらったのだ。


リーンさまが私にとってのただ一人のひととなるように、リーンさまに私がただ一人のひとと思ってもらえるように、努力しよう。


それがトゥルーシナなりの答えだった。


待ち合わせの場所に赴く。


皇城の敷地内の裏庭に続く散歩道で、リーンがそっと手を差し出した、


トゥルーシナがその手をとる。


答えは出た、と心の中で呟く。


けれどもいざ二人きりになると、トゥルーシナは何から話してよいか、わからなくなっていた。


昨日も思ったけど、三年ぶりのリーンさまはすごく大人っぽい。


王さまの風格と同じくでもいうのかしら。


前のきらきらした王子様の感じも素敵だったけど、私は今のリーンさまのほうが好き。


でも、そんなことを年下の私から言うのは失礼よね。


これを口にするわけにはいかないわ。


この前お会いしたときは何を話したっけ。


あまり覚えてないってことは、大したことじゃなかったのよね。


でも、特別じゃないことをたわいもなく話せるのも幸せなことよね。


そんなことを考えながら、ちらっとリーンの横顔を見た。


リーンも相変わらず何も言ってこない。


気まずい。


誘ったのは自分なのに。


手が汗ばんできた。


暑くもないのに。


とりあえず、何か言わなくては。


「リーンさま、今日はお付き合いくださり、ありがとうございます」


「こちらこそ」


また沈黙が続く。


いや、これじゃあさっきよりひどい。


リーンさまも何か仰って。


「あの」


「あの」


うわぁ、ハモっちゃった。


一瞬リーンもトゥルーシナも黙ってしまった。


が、すぐに顔を見合わせて、二人とも思わず笑いだす。


リーンがその笑顔のままで言った。


「ここに来るまでに、何度も練習したはずなのに、用意していた言葉が、いざ、あなたを前にすると、すべてどこかに飛んで行ってしまっていました」


あら、リーンさまも緊張してらしたのかしら。


でも、そんな言葉がすらっと出るなんて、うーん、意外と。


トゥルーシナはリーンをじっと見た。


すると、リーンの目の下にクマのようなものがある。


「少しお疲れだったのではありませんか。強行日程でしたものね」


「いやこれはその」


とリーンはもごもご口ごもりながらごまかし、やがて言葉を絞り出すように言った。


「長らくお会いしていませんでしたね。三年もの間、お手紙すらお送りせず、申し訳ありませんでした」


トゥルーシナは、リーンの言葉が手紙に書いてあったのと一言一句同じ言葉だと気づいた。


そらで覚えるくらい読み込んだ文だから(短いけれど)、間違いないわ。


それで、トゥルーシナは、やはりリーンもまだ緊張しているのだと確信した。


じゃあ、さっき手慣れていると思ったあの言葉も、リーンさまの包み隠すことのない気持ちなのね。


うれしい。

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