五人会議
執務室に五人がそろった。
報告の共有のためである。
今日の議題の最優先事項はフォールシナだ。
リーンが促す。
「マキシム、フォールシナ姫の捜索のことで何か進展はあったか」
「結論から申し上げます。フォールシナ殿下の行方はいまだわかっておりません。また、ハニウェル夫人が見たという教会も特定できていません。残念ながら進展はありません」
手元の報告書をめくりながら、マキシムが説明する。
「なるほど。正直、フォールシナを探すのは至難の業だろう。人海戦術には限りもある。手っ取り早いのは、また触書を出すことだろうが、前回のことがあるからな」
「できれば、別の方法をとお考えなのですね」
「そうだな。教会の調査はどこまで進んでいる?」
「ハニウェル夫人の訪問の次の日から手分けし、北部、東部、南部、中央部と調査済みです。本日は可能性の一番高い西部を調査中です。それぞれの地区の教会について、ハニウェル夫人がフォールシナ殿下を目撃したというカール帝即位九十年前後の状況を中心に調べています。ただ、多くの教会で人の入れ替わりがあり、当時のことを知る人を探すことは困難な状況です。また、金品の寄付や常時そこで過ごす人はともかく、一時的な保護に関しては記録らしい記録がほとんど残っていませんね」
「教会の筋からの人探しも難しいというわけか。ナイジェルはどうだ」
ナイジェルが頭を掻きながら、きまり悪そうに言った。
「最初に言い訳しておきます。陛下のカラチロ訪問の準備や結婚話のことがあって、あまり進んでいません」
「まあ、それは仕方があるまい。で?」
「まず、夫人の話した、カラチロでは伝統的に双子を忌避するという話ですが、これは確認できませんでした。事実とは言えないように思います」
ナイジェルは言葉を選びながら続けた。
「王立図書館でカラチロの文化や風習に関する文献を確認しましたが、そういった記述はありませんでしたね。出産ということでいうと、たとえば、生まれたばかりの子どもを初めて沐浴させるときにどこから洗うか、みたいな、すごく細かなことまで載っている文献でしたが」
「えっ、どこから洗うのですか」
冷静沈着で通っているはずのアンリが、思わず身を乗り出した。
ナイジェルは若干戸惑った表情になり、
「右手の親指からだそうですよ。カラチロの創始者が国を統一した日に右手を高くつき上げてみせた故事によるもののようです」
と、メモ書きを見ながら答えた。
「豆知識だな。今度カラチロに行ったときに披露できる機会があれば、ぜひしてみよう。それでほかに何かわかったことは」
リーンの問いにナイジェルははっとした顔をして
「申し訳ありません。話が横道にそれました。現在、カラチロの貴族年鑑を何人かで確認中です。膨大な量ですので、これはしばらくかかります」
「なら、夫人に旧姓を尋ねてみてはどうか。そっちのほうが手っ取り早いだろう。もちろん、詐称の可能性もあるし、そもそも口を割らないかもしれないが、せっかく城に留め置いているのだ。利用しない手はない」
「かしこまりました。それから、ハニウェル男爵家には、現在、人を遣っています。彼女にはできうる限りの情報を探らせています。セレナという女性とハニウェル家が関係あるのか、あるとすれば、どんな関係か。また、そこから素性その他について手掛かりが得られないか。男爵家に使用人として潜入させているので、こちらについても、少しばかりお時間をください」
「いいだろう。さて、もうすぐ、カラチロに出向く。私、マキシム、バルトリスはしばらく城を不在にする。そろそろ、夫人を家に帰したいところだが。バルトリス、夫人のようすはどうだ」
ハニウェル夫人の滞在している間、バルトリスが毎日ようすを見に行くことになっている。
リーンは、バルトリスはいまだに夫人のことを信じ、同情していることを知っていた。
「城に来た日のことが嘘のように、今は落ち着いています。今日はこれから行きますが」
「では、今日は少しばかり話もしてきてくれ。世間話だ。バルトリスには無理を言うが、何かの形で、セレナの旧姓を聞きだしてくれると助かる。ナイジェルにも頼んだが、そなたのほうが夫人も話しやすそうだから。あとは、うまくテリクのことを話題にし、彼女がテリクをどんなふうに思っているのか、探ってみてほしい」
「承知いたしました。うまく聞き出せるかはわかりませんが」
「うむ、いずれにせよ、明日、彼女を家に帰すつもりだ。マキシム、お前は配下の者を彼女の護衛につけ、送り届けたのちは別の者を監視につけよ。監視は七日間、少し長いが頼む。目安は、私たちがカラチロに発つ日だ。ただし、なにか動きがあれば、すぐに知らせるように」
「かしこまりました」
リーンとアンリだけを残し、三人が執務室を出ていく。




