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[完結]王と青龍を抱く乙女  作者: 文近成季
第一部 第一章
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王と花束_2

リーンは、それが自分の髪色と瞳の色であることに気づき、じんわりとした気持ちになった。


トゥルーシナは、リーンの手元に渡った花束に目を遣って


「すずらんのはなことばは、しあわせのさいらい、じゅんすい、じゅんけつ、けんきょですって。じじょのメリーからおそわりましたの」


と、大人びた口調で言う。


そして小さな声で


 「あまりよくいみはわからないのですけど」


と付け加えた。


幸せの再来、純粋、純潔、謙虚…


リーンが


「おひめさまにぴったりのはなですね」


と言うと、意味が伝わったのか伝わってないのか、トゥルーシナは大きな丸い目を一瞬、さらに大きく見開いた。


そして、大切そうに庭の花を見渡し、


「ここのおはなは、わたしもおせわをおてつだいしています。きょねんはむしさんのがいからまもりましたの」


と、少しだけ胸を張った。


「わたしにできるのはほんのすこし。でも、すこしずつでもてつだえて、こまっていることをなんとかできるというのは、なんにもかえることのできないよろこびなの」


と言った。


リーンは、自分より二つ年下の少女のしっかりした物言いに驚きながらも、素直に感心した。


「トゥルーシナひめは、えらいな。ぼくはそんなことをかんがえたことがありませんでした」


実際、その時までリーンはそんなことを考えたことはなかったのだ。


王子としての立ち居振る舞いも、教養も、剣術も与えられるものばかり。


頭で将来の王として不可欠のことと理解しているだけで、与えるべきものであるとまでは思っていなかった。


まして、「困ったことを解決する」ことなど、思い至らなかった。


自分はそのための知識も力も十分に持ちうるはずなのに。


それに、そのことを素直に喜びだと言っていることに、心を打たれた。


この姫君は、こんなに小さいのに、自分以外の人たちの幸せを願っているのだと。

 

「ぼくも、すこしずつでも、こまっていることをなんとかできるようになれば、ひめはぼくのことをたよりにしてくれますか」


「もちろんです」


無垢な微笑みが返ってきた。


どうして、こんなにもかわいいのだろう。


「どうなさいましたか、おうじでんか」


トゥルーシナが自分の顔を覗き込む。


思わずくりくりしたそのまっすぐな翡翠色の瞳に引き込まれてしまった。


「ひめ、あなたはぼくのこんやくしゃです。どうか、なまえでよんでください」


自分の顔が赤らんでいくのを感じながらもやっとの思いでそう言うと


「ではリーンさまも、トゥルーと」


とトゥルーシナも無邪気に言う。


穏やかで優しい時間だった。


そのあともトゥルーシナと会うときはいつも。


彼女にも同じ記憶があるといいな。


「今また、トゥルーシナをトゥルーと呼ぶのは気恥ずかしいな。そもそも、そう呼ぶことを許してくれるだろうか。」


主君の唐突な言葉に、隣で黙って書き物をしていたナイジェルが呆れたように見る。


「なんですか、その突拍子もない発言は。まっ、リーンの頑張り次第ではないでしょうか。ご健闘をお祈りします」


そして、この場にこれ以上いてはまずいと言わんばかりに、書類をその場でそろえて、そそくさと退室しようとした。


それをリーンが止める。


「待て。このあと、マキシムが例の件の定例報告に来る。今日はちょうど五日目だ。バルトリスとアンリも呼んでいる。ナイジェルもいてくれ」


例の件とは、フォールシナの捜索に関わる件だ。


フォールシナの行方についてはマキシムに報告を毎日上げさせている。


しかし、それとは別に、捜索全体にかかわる状況をハニウェル夫人の来訪から五日目ごとに報告させることにしており、今日がちょうどその第一回に当たっていた。


「では、私も今の時点で報告できることを申し上げたほうがいいですね。ちょっと関係書類を取りに行ってきます」


ナイジェルはそう言い残し、退出した。

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