届いた書状(皇帝の考え)_2
「二週間後か、急だな。まあ、非公式ということだからそこまで大掛かりでなくてもよかろう」
カルドリは近くに侍っていた従者を呼んだ。
そして、関係大臣にルトリケ王の訪問準備を命ずる伝令を出した。
このあと、ウィルドとハリヒ、トゥルーシナにも伝えなくては。
ウィルドはカルドリの第一子で、皇太子である。
第二子のハリヒは公爵として、ウィルドを支えていた。
ちなみに第三子のアイリーシナは初恋を実らせ、侯爵家に嫁いでいる。
「さて、リーン殿にどのくらい王の顔が板についてきているか。楽しみだな」
ルトリケからの書状はもう一通あった。
先王時代の約束の効力を問う確認書だ。
それを開きながら、先王時代のキーツとの約束について考える。
カルドリ側からすれば、キーツと交わした約束などなかった。
だから、効力も何も、その前提がない。
ただし、キーツから一方的に言ってきたものはある。
しかし、一方的に通告してきてそのままになっているから、それにもやはり、効力などない。
そしてそれは愛娘と王子の婚約とそれに関わる案件だ。
「それについては、答えは決まっているようなものだが」
カルドリはルトリケからの確認書を読み始めた。
果たして、確認書のなかに書かれていたのも、その婚約の件だった。
「十三年前に、貴国カラチロの第二皇女トゥルーシナ殿下と本国ルトリケ国の当時のリーン王子との結婚が約束されました。しかるに、先王キーツの時代にそれを破棄する旨を通告いたしました。それに対する貴国のお返事はいただけていないようです。現在も、婚約が有効かどうかを確認させてください」
カルドリはさらさらと返事を書いていく。
「キーツ殿から言ってきた婚約破棄に対してはこちらから返事をしていない。放置している。だから、何ら合意に至っていない。有効か無効かと言えば、婚約破棄は無効であり、逆に言えば、婚約はいまだ有効だ。ということは、同時に約束した、四国の和平に関する協定ももちろん生きている」
四国の和平とは、カラチロとレキラタ、ルトリケ、テリクが互いに不可侵であるという協定だ。
その当時、カラチロに次ぐ有力国だったルトリケの安全をカラチロが保障する代わりに、ルトリケはレキラタやテリクを攻めないという協定を結んだ。
その証が、トゥルーシナとリーンの婚約だったのだ。
リーンならトゥルーシナを嫁がせるに十分な立派な王となるだろう、
そう思ってのことだった。
それなのに、キーツはレキラタ侵攻にこの協定が妨げとなるとし、リーンの婚約を破棄したのである。
それにしても、どこまでもバカな男だ。詰めも甘い。
カルドリは先ほどほんの少しだけかけたキーツへの同情をかき消した。
まあ、その詰めの甘さがたまたま今回はこちらには吉と出て、本当によかった。
婚約は有効だ。
四国の和平協定も有効だ。
もちろん、今のルトリケに他国を攻める力はない。
むしろ逆に、他国からの侵攻を危惧すべき状況だ。
でも、今度は弱ってしまっているルトリケをレキラタとテリクから守ることに協定を使えるだろう。
これは、尊敬するサーシのためでもある。
カルドリはもう一度手元の確認書と、自分が書いた返事を見つめる。
確認書の真意はどこにあるのだろう。
ルトリケの安泰のためという国の意志か。
それとも、リーン個人の希望なのか。
相手がトゥルーシナであることが大事なのか。
カルドリが見たところ、リーンは打算で動くような男ではない。
もちろん、計算はしているのだろうが。
とすれば、この結婚も、リーンがトゥルーシナを望んでのことだろう。
もしかして、あの、青い傷のある人物を探せというおふれも関係あるのか。
それにしても、トゥルーシナは婚約のことをどう思っているのだろうか。
今までそのままにしておいたが、彼女も十八歳だ。
やはり彼女には一度、結婚とそして恩寵のことをきちんと説明せねばならない。
彼女はルトリケが先王の時に一方的に送ってきた婚約破棄の件など、全く知らなかっただろう。
リーンがトゥルーシナに贈り物だの手紙などをよこしたという話は聞かない。
トゥルーシナからすれば、ほぼ三年の間、放っておかれたことになる。
事実だけ見れば不実なんだろうが、婚約破棄が成立しているのだと思い込んでいたなら律儀だ。
リーンもそういう意味ではどうにも厄介な男なのかもしれない。
婚約破棄の通告がある前のことを思い出す。
傍目には二人がそこまで親密な関係だったとは思えなかった。
トゥルーシナはリーンをどう思っているのだろう。
本当はトゥルーシナを国外に出したくはない。
それは、単に愛しい娘だからという理由からではない。
また、四国の和平のためという理由だけではない。
そうかと言って、国内にとどめおくのもためらわれた。
トゥルーシナには決して公にできない秘密と伏せておくべき力があった。
「トゥルーシナに話をしなくてはならないな」




