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[完結]王と青龍を抱く乙女  作者: 文近成季
第一部 第一章
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届いた書状(皇帝の考え)_1

北の帝国カラチロの皇帝カルドリのところに、隣国ルトリケ王国から書状が二通届いていた。


一通は、ルトリケ国王にリーンが即位したのでおって訪問したいという挨拶状。


そしてもう一通は、先王キーツの時代に約束されたことの効力についての確認書だった。


カルドリはルトリケ王国のこの数か月の動きを注視していた。


ルトリケはここ十年余りの間に目まぐるしく変化した国だ。


王が二度交代し、かつて近隣の三国の中ではトップだった国力は、今や三番手となってしまった。


カルドリが帝位についたときの王サーシは自分よりもひと回りほど上の年齢だった。


しかし、それを笠に着るようなことはせず、年下の自分に対しても礼を尽くしていた。


カルドリも自分が年下であることを弁えながらも、サーシに対して筋を通すべきところは通した。


そして長年の間に、お互いに信頼しあえる相手となっていた。


サーシは、王太子のキーツではなく、二人の孫たちをたびたびカラチロに連れてきていた。


幼いときから利発な二人だった。


だからこそ、サーシからの申し出に応じた。


目に入れても痛くないほどかわいがっていたトゥルーシナとルトリケの第一王子との婚約を了承したのだ。


その第一王子リーンが今、王であった父のキーツを退け、王位についている。


ルトリケに忍ばせたカルドリの手のものによれば、一滴の血も流さずにことを成し遂げたという。


とはいえ、即位後のリーンの評判は芳しくないようだ。


民はなんら王の交代の恩恵を感じていないという。


「そもそも、王都以外では、王の交代も知らないのではないか。しっかり地方まで布告したのか。今更言っても仕方ないが、やり方がまずい。私なら、先にさっさと大々的に即位式でもやって、これからは違う世の中になるのでは、と予感させるように仕向けただろう。祖父を頼ってもよかろうに。あんなおふれだけでなく、ちゃんと何らかの目玉になるような施策をやっているんだろうな?」


おふれのことを思い出し、やや複雑な気持ちになりながら、ルトリケのことを考えた。


カラチロにも、カルドリ自身にも、ルトリケをどうこうするつもりはない。


しかし、国が荒れてくれば、隣国のレキラタやテリクが指をくわえてみているような真似はしまい。


ルトリケにすぐさま攻め込もうとするだろう。


ルトリケにはラトリという貿易の中心地がある。


南の国々との交易をルトリケ経由で行っている両国からすれば喉から手が出るほどほしいにちがいない。


だが、カルドリにとっては、それは何としても避けたいことだった。


もちろん自分が手に入れる気はさらさらない。


尊敬するサーシのいるルトリケと穏やかな国民気質を純粋に思う気持ちからだった。


「それにしても、まったく、なんてことをしでかしたんだ」


思わず独り言ちた。


怒りの矛先は、三国の均衡を崩し、ルトリケを衰退させるきっかけを起こしたキーツに向かう。


ルトリケの先王キーツとはほとんど面識がない。


カルドリが即位後すぐ、ルトリケを訪問した時に一度会ったきりであった。


彼の在位期間が短かったせいもあるが、どうしてもサーシと比べてしまい、魅力を感じられなかったからだ。


当時のキーツは王太子で三十歳前後だったと記憶するが、それから十年後に侵略戦争を仕掛けるような野心家には見えなかった。


むしろ王太子妃に先立たれたせいか、覇気をあまり感じなかった。


だからなおさら、サーシの孫二人を余計に頼もしく思ったのだ。


だが、とふと思う。


もし自分がキーツの立場だったらどうだろう。


父のサーシからは期待されているようには全く見えなかった。


それでも最初はキーツ自身も、努力しようとしたのではないか。


そしてきっと徐々に気がつき始めたにちがいない。


何をやっても認められない虚しさ。


頑張れば頑張るほど空回りし。周りからも軽んじられていくどうしようもない気持ち。


加えて、迎えた妃には若くして先立たれ、息子も自分に懐かない。


カルドリは両の拳を握りしめた。


自分だって、幼いころからどんなに一生懸命やったとしても認められないという無力感が根底にあったなら、こんなものだとすべてを達観するか、現実から逃げて何かに耽溺するかしかないかもしれない。


しかし、それでも。


それでもやはり、そうだからと言って、戦争を引き起こすなど、絶対に許されることではないのだ。


一人憤慨しながら、あらためて挨拶状を見る。


そこには、リーンが訪問する日付が書いてあった。

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